神クエをあなたに!

薄幸の町娘は、借金返済のためクエスト受付所で働きます
夏野わおん
夏野わおん

プロローグ

始まりの日、怖いお兄さんに追われて

公開日時: 2021年4月30日(金) 16:47
更新日時: 2021年6月19日(土) 14:46
文字数:1,901

 久々のWeb小説投稿……ちょっと不安です(笑)

 一応ストックを貯めてきているので、失踪することはありません。それをここに約束します。多分。

 

 まぁ、何はともあれ新しいタイプの異世界ものが書けたらと思ってます!

 乱文かもしれませんが、楽しんでいただければ幸いです!


 それでは、クエスト受付所の仕事場を覗いていきましょう!!


 秋。


 それは色々なことが活動的になる、魅惑の季節だ。

 

 そして人々から愛される秋には、様々な呼び名がある。


 例えば、味覚の秋。

 例えば、スポーツの秋。

 例えば、読書の秋。


 そして。


 ――借金取りの秋。

 



「はぁ……はぁ……」


 一人の町娘が街中を走っていた。理由は不明だ。


 通りを行き交う人々の脇をすり抜けて、彼女はとにかく距離を稼ぐ。余程必死なのか肩で息をしていて、額には玉のような汗が浮かんでいた。


 

 やがて。


 各地方の珍しい反物を扱う露店の影に、彼女は隠れた。

 商品棚の裏で息を止める。


「――畜生! どこに行ったあの女!」

「見失ったのはこの辺だ。脇道に入ったみたいだな」

「そう遠くには行ってないはずだ、探せ探せ!」


 表の通りでは男たちの怒号が響いていた。チャラ着いた格好をしたガラの悪い人たちだ。


 彼らは悪名高い高利貸しの取立人。

 金を返せない人間を非合法な取り立て計画に巻きこみ、挙句骨までしゃぶるような凶漢だ。

 見つかれば命はない。


(もー! なんでこんなことになったんだっけ!?)



 

 記憶をたどれば、元凶はすぐ近くにいたのだろう。

 

 

 とある村の一般家庭の一人っ子として、彼女は生まれた。

 

 辺りは牧草地と畑しかない、長閑なド田舎。

 

 隣家の乳母に読み書きを習い、年に数度来る行商人から常識を授かり、村の人々から愛されて彼女は育った。

 純真無垢な優しい人格に形成できたのは、間違いなく彼らのおかげである。


 

 しかし、そんな彼女にも不幸な境遇はあった。


 ……両親に重度の借金癖があったのである。


(魔道具の開発とか新事業立ち上げとか、手を出し過ぎなんだよ、二人とも!)


 町娘が怒るのも無理からぬことであった。


 

 結局のところ。

 魔道具のクーリングオフは追いつかず、バカ親が起業した会社は一年以内に全て潰れた。

 

 当然、莫大な借金を抱え込んだ彼の一家は、先代から受け継いだ牧場も畑もすべて失って極貧生活に突入。

 痛い目を味わった両親の目は覚めるかに思えた。


 

 しかし、ここで心が折れて酒浸りにならないのがこのバカ親の真骨頂。


 なんと今度は貿易会社で成功してやると言い出すや否や、懲りずにまた借金をして船を購入。

 

 ノウハウもない癖に「時代はグローバルだ」などとほざき、勇み足で貿易業界の門を叩いたのだ。


 新参者の馬鹿親が相手にされるはずもなく、仕事のない会社の借金は膨らむばかり。

 あげく、返す当てもないのに多重債務を繰り返した彼女の家庭に、未来はなかった。


 

 そして、つい先日。

 

 両親が蒸発した。


 自宅には書置きが一通だけ。

 「ごめん、あとよろしく」とだけ、そこには残されていた。

 


 そう。

 彼女はいつの間にか、借金の連帯保証人にされていたのだ。


 しかも負債額はウン十億。

 農家の一娘に返せるわけがない。


 だから今、彼女は借金取りから逃げている。




「――くっそ、何処にもいねぇな」


 彩り鮮やかな布が何枚も並んだ棚の向こうで、未だ取立人の男たちが町娘のことを探していた。

 

 どうやら彼らはこちらの姿を見失ったらしい。

 燈台下暗しとはこのことだ。


 

(…………チャンスかも)


 取立人たちは、通りのど真ん中で追跡を続けるかを審議している。

 

 周囲に注意を向けていない今なら、このメインストリートの雑踏に紛れて逃げおおせられるかもしれない。


 覚悟を決めた町娘は、こそこそ姿勢を低くしてその場を離れようとする。


 ……だが。


 

「――あ、ウサちゃん見っけ」

「……!?」


 

 すぐに横やりが入った。


 なんと取立人の一人、それも見るからに抜け作ですきっ歯の下っ端と、ばっちり目が合ってしまったのだ。


 なんで隠れ場所がバレたのかはわからないが、もうそんなことはどうでもいい。


 

(やばいっ!)


 考えるより先に足を動かす。それが脱兎になりきる秘訣。

 薄汚れた石畳を全力で蹴り、彼女は逃走を図った。


 

「待てっ!」

 取立人たちは、慌てて彼女の後を追う。


「おいおい、よく見つけたな凄いじゃねぇか」

 走る中、男の一人がそう言った。


「例の女の匂いがしたもんで、ピンと来やした!」

 下っ端は応える。


「でかした。さすがキモイだけはあるな」

「ははっ、恐縮でさぁ!」


 

 どれだけ走っても、町娘は借金取りを撒くことはできなかった。


 寧ろ徐々に距離を縮められている気がする。

 おそらく町娘の足では、彼らから逃げきることは不可能なのだ。


 

 自分を匿ってもらえる場所はないかと左右に視線を振る。


 が、付近にあるのは薬問屋に茶屋に占い屋といったひ弱そうな店ばかり。

 非常時に頼りになりそうな駆け込み寺はどこにもない。

 

 絶望的な現実に、町娘は打ちのめされる。


 

 それでも、彼女は足を動かし続けた。


 この理不尽な状況もきっとひっくり返せると、そう信じていたからだ。


 だから。

 この建物に出会うことも必然だったのだろう。

 

 

 ……クエスト受付所と出会うことも。

 本作は毎日投稿の予定です。投稿時間は夕方になる……かな? 

 

 さて。

 物語はここから加減を知らずに加速していきます! さまざまなキャラが出てきますのでお楽しみに!

 

 よろしければ、ポイント・コメントをよろしくお願い致します! 励みになりますので!

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート