神クエをあなたに!

薄幸の町娘は、借金返済のためクエスト受付所で働きます
夏野わおん
夏野わおん

3-6 聞き込み2軒目。そして3軒目。

公開日時: 2020年11月25日(水) 17:35
更新日時: 2020年12月15日(火) 17:34
文字数:2,129

 二軒目。


 パンチの利いたイケイケスタイルが売りの、クモ嬢デリバリーヘルス店『アラクニダ』。


 支配人『アフロの王 トモヲ』に、聞き込みを開始。




「――OH ! そうなのYO ! こっちもピンチなのYO !」


 巨大アフロにサングラスという珍妙な出で立ちをした男は、テンション高めにそう言った。


 チェーンネックレス複数、腕時計複数、貴金属アクセサリーで派手に着飾る彼も、国の浄化作戦には辟易していたようだ。


 天井にて回転するミラーボールに、トモヲは腕を突き上げる。


「異種族のいる風俗は、今後審査を厳しくするって言われてYO !

 ただでさえ人生躓いちゃった子を雇ってるウチは、お国から危険視されTell She !

 もう首が回らなくって、明後日には死んじゃうZE !」



「あー、なるほどねー。つまり圧力掛けられてるわけだ」

「SOSO !

 経済が回るからって助成金出してたお偉いさんが怒ったもんだから、ここらで打ち切って来るCome On ! AH !」


「おーけー、よくわかったよサンキュー…………ところで、お前のアクの強いしゃべり方って、どうにかならないわけ?」


 腹を抱えて、トモヲは笑った。


「――HAHAHA ! むり☆」




 三軒目。


 ケットシー嬢とハーピィ嬢が手を組んだ、新進気鋭の共同経営店『けものっこ』。


 現場責任者『ニャル』と、代表取締役『カカホ』に聞き込みを開始。



「……で、今回の件に犯罪組織が関わってる可能性はあると思う?」

「――うーん、無いと思うにゃ」


 濡羽色のタキシードを難なく着こなす男装家のニャルは、営業の口にマタタビを突っ込みながら答えた。


 ケットシーの有無を言わせぬ力技。


 営業は成す術なくおもちゃにされていた。


「だって、この町に危ない人は入れにゃい。通りの入り口に悪意検知の魔法がかけられてるのは国も知ってるのにゃ」


「モゴモゴ……ぷはっ。じゃあ、売人を燻り出す目的の摘発じゃないってことか」

「ザッツライト。このところ憲兵のお客も減っちゃったし、囮捜査官も居にゃいし、きっとそうなのにゃ」


 口から引き抜いたマタタビを、そっと皿の上に置く。

 けものっこ流のおもてなしとはいえ、やはりノーマルな人間には早すぎたらしい。


 ハンカチで口を拭った営業は、気を取り直して聞き込みを再開させる。


「ケットシーの勘は当てになりそうだね……ありがとう、ニャル」

「どういたしましてだにゃ」

「……じゃあ、次はカカホに聞こうかな」


 

 カカホと呼ばれたハーピィは、ラインの際どいラグジュアリードレスを華やかに着こなしていた。

 しっとり感のある瑠璃色は、彼女の羽により一層の魅力を与えている。


 しかも彼女の体躯は、華奢なうえに高身長。

 情の厚さ沁みだす眼と大人びた顔付きに惚れる軟弱な客は多く、その結果カカホは店のナンバーワンの座に腰を据えていた。

 

 だが。

 そんな彼女相手に物怖じする営業ではなかった。

 

 

「カカホ。君から見て、この浄化作戦の目的は何だと思う?」


 鋭く切り込んだ質問。

 それを真正面から投げかけた。


 思わずカカホは、斜め左下へと視線を落とす。


「おそらく……異人を排除しようとしているのかもしれません」


 少し間を置いて、彼女は答えた。


「……ほら。女神教の経典だと『ヒト族こそ至高の種族で、他はすべて失敗作』って話ですから」


「本当はむしろ逆なのにねー。

 ヒト族の勇者なんて毎回モン娘に助けられてるし、俺も毎日助けられてるし」


 破廉恥な営業の戯言はさておき。


 カカホが零した懸念は、社会的にかなり重大な問題である。



 ――人種統一。


 見た目の違いや宗教的価値観の違いから生まれるこの思想は、多種多様な人間が生きるこの異世界での悩みの種だ。


 今でこそヒト族と異人は友好な関係を結び、対等な立場で物事を話しあえている。

 が、一昔前までは人種間での戦争が多く、ある地域では魔王軍との戦い以上に死者を出したとの記録が残されているほどだ。

 実際、その年は争いの余波で世界的な穀倉地帯が焼けてしまい、周辺国の政府がクーデターによっていくつも倒れたという。


 

 幸い、ここは始まりの街だ。


 魔王軍の脅威から最も離れ、交易も盛んで、人々が豊かな生活を送る平和な地。

 血統やコネだけで幅を利かせることはできず、鱗が生えていようが角が生えていようが能力さえあれば尊敬される。

 そんな町だ。


 それでも時代遅れの慣習は未だ礎石に巻き付いているのは確か。

 事実、始まりの街やその他の街を包括している彼の王国の議会議員は、全てヒト族で構成されている。


 だからこそ、カカホたち異人は不安を覚えるのだ。


 ……また自分たちが差別される日が来るのではないか、と。



「議会の連中も、結局は弱い者いじめをしたいだけってことか」


 その禍根をいち早く察した営業は、苦虫を嚙み潰したように顔をしかめた。

「サイテーだな、ぶん殴ってやりてーよ」


「……一番街にあるヒト族のお店は、まだ一度もガサ入れがないと噂になっています。

 だから浄化作戦の狙いは、異種族のお店を一掃するためなんじゃないかと……」

「――そう思ったわけね。よし、よくわかった」


 ありがとう、と一言告げて、営業は澄みきった水を飲む。

 傷一つない高級そうなグラスは、散乱した光で薄青く色づいていた。

 

 ……その清光にあてられたのだろうか。

 

 柄にもなく、営業は今回の歓楽街浄化騒ぎに至った経緯をこう考察した。

 最近中世ヨーロッパ史にハマってます。

 特に食の歴史に。

 

 ……中世の食事ってお皿使わなかったんですよ。硬いパンを皿代わりにしてたらしいんです。貴族もです。しかも手掴み。

 

 異世界ものってそこまで気にした方がいいんですかね。

 

 ……いつか拘ってみたいなー、なんて思っている今日この頃でごさいました。

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