神クエをあなたに!

薄幸の町娘は、借金返済のためクエスト受付所で働きます
夏野わおん
夏野わおん

3-7 黒幕の正体、見破ったり(by 営業)。

公開日時: 2020年12月25日(金) 12:11
文字数:1,185

「こりゃ大臣が仕切る大事な政に、女神教の神父が出張ってるパターンだろうな」

「……え?」


 営業の隣には、ずっとバイトが控えていた。

 目の前で交わされる会話内容を逐一メモに取り、自分なりに解析し、探偵を気取るようにして、彼女はこの仕事に臨んでいた。

 そしてものの見事に、彼女は推理に置いていかれた。

 

 まるで推理小説に登場する助手の立ち位置である。


 

「なんで、そういう結論になったんですか?」

 営業は自身の口内を指差した。

 

「ほらさ。異種族を毛嫌いする奴って、だいたい老獪な二枚舌でしょ?

 で、そいつらは大抵宗教法人と密接な関係にあるんだよ。

 だから今回もそんなトコなんじゃないかな、って思ったわけ」

 

「……そういうものなんですか?」

「そーいうものなのさ。根拠はないけどね」


 

 直感的捜査に信憑性は介在しない。そんなことは営業も承知していた。


 だがよくよく思い返せば、彼はクエスト受付所の職員。

 ただの職員でしかない。


 ゆえに今回の仕事、裏クエストの事前調査に関して言えば、推理の論拠なんてどうだっていい。


 営業が納得しさえすればよかったのだ。この推理劇は。


 

「しっかし、よくもまぁ下らない理由でこんな作戦を決行したもんだなぁ……」


 空になったグラスを持ち上げて、営業は底の方から天井を見上げてみた。薄く強く吹き固められたそれは、先とは違って七色に輝いていた。


 感嘆の息が漏れる。

「……へぇ、こんな楽しみ方もあるのか」


 

 ともあれ。


 三軒目にして、ようやく事件の全貌が見えてきた。


 国が行う浄化作戦は、『異種族が経営する風俗店を殲滅する』だけのために発動されたのだ。

 それも大した理由を用意せず、一方的な差別意識の下で。


 なんと悪質な手法だろう。


 これでは敵を無暗に増やすだけ。町の治安をよくするどころか、むしろ悪化させてしまい兼ねない。全く役人どもは何をやっているのか。


 一時の気紛れで、国は愚行に走ったのである。


 

「……いや」

 本当にそうなのだろうか。


 ふと議題に引っかかりを覚えた営業は、疑問を抱いて顎に手をやった。

 視点を変え、考えてみる。


「……やっぱり変だよな」


 しばらくして、営業はブツブツと独り言を語り始めた。



「……ヒト族から一定の需要があって、犯罪の温床にもなっていないなんて、ここは比較的まともな歓楽街だ。

 ……徴税と治安にしか興味を向けないおっさんが、理由もなしに潰すはずがない、よな?」


「あのー、営業さん?」

「――そうか、そういうことか!」

「ひっ!」


 いきなり大声を出され、バイトは腰を抜かしそうになった。


 どうやら推理が終わったらしい。


「ごめん! すぐに向かいたい場所があるから、もう行くね!」

 


 そう一言断ってから、営業の行動は早かった。

 裏取り調査に協力してくれた獣人たちに感謝すると、彼はすぐさま横を見る。


 ばちり。


 バイトと眼を合わせた彼は、親指を立ててウインクした。

 


「さぁ、最後の聞き込みだ――リリスちゃんのお店に行こう!」

 果たして営業は何に気づいたのか……

 次回に続きます!

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