「こりゃ大臣が仕切る大事な政に、女神教の神父が出張ってるパターンだろうな」
「……え?」
営業の隣には、ずっとバイトが控えていた。
目の前で交わされる会話内容を逐一メモに取り、自分なりに解析し、探偵を気取るようにして、彼女はこの仕事に臨んでいた。
そしてものの見事に、彼女は推理に置いていかれた。
まるで推理小説に登場する助手の立ち位置である。
「なんで、そういう結論になったんですか?」
営業は自身の口内を指差した。
「ほらさ。異種族を毛嫌いする奴って、だいたい老獪な二枚舌でしょ?
で、そいつらは大抵宗教法人と密接な関係にあるんだよ。
だから今回もそんなトコなんじゃないかな、って思ったわけ」
「……そういうものなんですか?」
「そーいうものなのさ。根拠はないけどね」
直感的捜査に信憑性は介在しない。そんなことは営業も承知していた。
だがよくよく思い返せば、彼はクエスト受付所の職員。
ただの職員でしかない。
ゆえに今回の仕事、裏クエストの事前調査に関して言えば、推理の論拠なんてどうだっていい。
営業が納得しさえすればよかったのだ。この推理劇は。
「しっかし、よくもまぁ下らない理由でこんな作戦を決行したもんだなぁ……」
空になったグラスを持ち上げて、営業は底の方から天井を見上げてみた。薄く強く吹き固められたそれは、先とは違って七色に輝いていた。
感嘆の息が漏れる。
「……へぇ、こんな楽しみ方もあるのか」
ともあれ。
三軒目にして、ようやく事件の全貌が見えてきた。
国が行う浄化作戦は、『異種族が経営する風俗店を殲滅する』だけのために発動されたのだ。
それも大した理由を用意せず、一方的な差別意識の下で。
なんと悪質な手法だろう。
これでは敵を無暗に増やすだけ。町の治安をよくするどころか、むしろ悪化させてしまい兼ねない。全く役人どもは何をやっているのか。
一時の気紛れで、国は愚行に走ったのである。
「……いや」
本当にそうなのだろうか。
ふと議題に引っかかりを覚えた営業は、疑問を抱いて顎に手をやった。
視点を変え、考えてみる。
「……やっぱり変だよな」
しばらくして、営業はブツブツと独り言を語り始めた。
「……ヒト族から一定の需要があって、犯罪の温床にもなっていないなんて、ここは比較的まともな歓楽街だ。
……徴税と治安にしか興味を向けないおっさんが、理由もなしに潰すはずがない、よな?」
「あのー、営業さん?」
「――そうか、そういうことか!」
「ひっ!」
いきなり大声を出され、バイトは腰を抜かしそうになった。
どうやら推理が終わったらしい。
「ごめん! すぐに向かいたい場所があるから、もう行くね!」
そう一言断ってから、営業の行動は早かった。
裏取り調査に協力してくれた獣人たちに感謝すると、彼はすぐさま横を見る。
ばちり。
バイトと眼を合わせた彼は、親指を立ててウインクした。
「さぁ、最後の聞き込みだ――リリスちゃんのお店に行こう!」
果たして営業は何に気づいたのか……
次回に続きます!
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