神クエをあなたに!

薄幸の町娘は、借金返済のためクエスト受付所で働きます
夏野わおん
夏野わおん

3-10 使徒、来る

公開日時: 2020年11月28日(土) 18:02
更新日時: 2021年1月20日(水) 17:29
文字数:2,021

「―――吾はダルシア王側近、トンテーキ様より遣わされし者。其方らクエスト受付所職員に対し、吾は伝言を預かっている」

「……はぁ、さいですか」

「其方らの行動、および言動の一切は、こちらの魔道具で記録している。評議会へ提出する可能性もあるゆえ、くれぐれも留意しておくように」

「……前置きは良いから、さっさと話してくれませんかねぇ」

 

 

 受付所二階にある特用の個室。

 その内装は、落ち着きあるモダンな色合いが特徴的だった。

 

 中央には対面させたソファーと茶の振る舞われたテーブル、窓横には観葉植物がインテリアとして置かれている。床や壁には盗聴防止加工が施されているこの隔離空間は、秘密の談合をするにはうってつけの場所だ。

 

 そんなゲストルームにて、バイトと営業はとある客人を接待していた。

 

 ……ちなみに何故か知らないが、クロカミもソファーの後ろに控えていた。だが、それは気にしないでほしい。野次馬がしたい年頃なのだ、この二十一歳は。

 

 

 話を戻そう。


 彼の客は、変態自己中議員トンテーキから差し向けられた使徒だった。白のローブに身を包み、王国の天下泰平を象った『星を守護する金獅子』の徽章を胸に付けているから疑う余地はない。

 

 気難しい性格なのか眉間に深く皺を刻み、鼻に瘤のある尉面のような顔をしたこの使徒は、大腿に手を置いて昂然と胸を張っている。

 

 さも抗議をしに来るのは筋である、とでも言いたげな使徒の態度。

 

 朝早くに叩き起こされた営業は、それが気に食わなかった。

 

 

「――――だいたいさぁ、非常識でしょーよ」

 苛立ちを隠さず、営業は不満そうに頬杖を突く。

 「いきなり朝っぱらからベルを鳴らすなんてさぁ……キミ、社会人の自覚あります?」

 

「これは一刻を争う事案、それも国王の側近より賜わりし御言だ。

 下々の民に聞かれることを避けるためと思えば、言を待つこともないであろう」

「それが下々民の幸せにつながるってんなら、こっちも何も言わないですよ」

「……」

「ただね、個室対応を条件にしてる時点で、あんたの伝言が真っ黒なのは自明の理……ホントは聞きたくもないんだぜ?

 空気ぐらい読んでくださいって」

「……国政を揺るがしかねない、重要な指令だ。一個人の私的感情で撥ね退けられるほど、生易しいものではない」

 

 加えて、と使徒は眼光を更に研ぎ澄ます。

「吾の意見としても、この御言は町のためになるものと考えている。

 其方らに相応の理解力があれば、大義がどちらにあるのかは明白に判明するはずだ」

 

「アッタマの硬い人だなぁ――いいや、わかった。とりあえず聞かせてよ」

「……では、言伝を述べる」

 

 

 料簡の狭そうな無私の使徒は、懐から紐でまとめられた紙を取り出した。

 そして、

「――クエスト受付所始まりの町支部に、ダルシア王側近、トンテーキが告げる」

 

 口をへの字に曲げた営業の前で封を解くと、使徒は内容を読み上げていった。

 

「其方らは一介の淫魔の戯言に耳を貸し、『五番通り裏番地』と称される歓楽街の浄化作戦を妨害しようと企んだ。

 それも裏クエストという依頼方法を利用し、憲兵所に連絡の一つもせず独断で調査行為に走る始末…………これは、由々しき問題である。国の管轄である案件に、何度も部外者が立ち入れば、こちらの面目が潰れてしまう。

 ――――ゆえに。

 我々は其方らに、今回の裏クエストを取り下げることを要請する」

 

 

 驕慢。

 その一言がお似合いな内容だった。

 

 背もたれに体重を預けていた営業も、思わず身を起こして鼻で笑う。

 

「馬鹿みたいな言い分だな……そもそもつい最近裏クエストがあったって知ってる時点で、違法捜査を行った国側をこっちは弾劾できるってのに。

 …………それで? 譲歩内容は、如何ほど?」

 

 淡々と使徒は答える。

 

「――我々としても、クエスト受付所の存在意義は重いと見ている。よって評議会の総意として我々の指示に従った場合、其方らには多大な活動資金を寄付せんと一考している」

「へぇ、そりゃ旨い話だ」

「――返答次第では助成金の増額、職員の増員、はては保険付き高難易度クエストの斡旋優先権など、様々な利潤が集まることを約束する。

 トンテーキ様は、そう申されている」

「わーお!

 金で汚点を隠すのを隠そうともしないなんて、悪党として肝が据わってる。

 こいつは逆らわない方が身のためかぁ?」

 

 心にもない発言だ。

 

 両手を挙げて降参の意を表明したかのように振る舞ってはいるが、その目には道化師を拝む時と同じ薄ら笑いが浮かんでいた。

 

 そして、上より仰せつかった貴いシナリオで盲目な使徒は、自分の行く道に落とし穴が仕掛けられたことに気付かない。

 

 今まさに、彼は罠に嵌められようとしていた。

 

 

「――ならば今後、我々の要請には速やかに対処してもらいたい。まずはトンテーキ様の要請である、裏クエストの取り下げから…………」

「あぁ、そのことなんだけどさ」

「……なんだ」

 

 咳ばらいを一つ挟むと、営業はこう言い放った。

 前触れなどなかった。

 

 

「――アンタらに協力するの、お断りさせてもらうわ」

「…………へ?」

 次回、営業が吠えます。

 なぜか。

 お楽しみに。

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