四軒目。
サキュバス嬢専門風俗店『ムーンライト』。
裏クエスト依頼人『リリス』に、再度聞き込み開始。
「――――他のお店を回って、裏取りはしてきたよ」
個室に通されて席に着くなり、営業はそう言葉を切り出した。
「どうやら君の言っていたことは、すべて事実だったようだね。疑ってすまなかった」
「こちらこそ、迷惑かけてごめんなさい……」
コの字型のソファにて、リリスは水を出して応対していた。
露出度高めな小悪魔衣装に身を包んでいるから、本来であれば彼女に営業なんかを相手にしている暇はないのかもしれない。
逆に言えばそれだけ、彼女は切羽詰まっていた。
書き入れ時の売り上げを犠牲にしてまで、クエスト受付所に助けを求めなければならない事情があった、ということだ。
「――じゃあ、さっそく質問するけどさ」
燭台に燈る火がちろちろと揺れ、錫色の壁に妖しげな影を落とす。そんな夜の古城を彷彿とさせる内装の中。
始業時間を遅らせてしまわないよう、営業は手短に話を進めようとした。
一意直到に、訊く。
「浄化作戦のきっかけ。あれ、君がやらかしたからなんじゃないかな?」
「……ッ!」
リリスの肩に電撃が走った。瞳孔は開き、唇も微かに震えている。
図星だったのだろう。
室内に冷たい空気が流れ込む。
「初めはさぁ、宗教的な問題が原因なんだと思ったんだ」
勿体ぶるかのように、営業はグラスの縁を指でなぞる。
「――けどね、おかしいんだ」
「おかしい、ですか?」
「ああ。そこで勝手に推理をしてみた」
そこから彼は、自らが抱いた疑問を一つずつ紐解いていった。
女神教の教会連中は、随分と昔から国のトップと懇意にさせてもらっていること。
もしも異種族を排除するのが作戦の目的なら、とっくの昔に歓楽街を潰しにかかっているであろうこと。
なぜ今さら、浄化作戦を決行したのかということ。
三つの疑問を繋ぎ合わせ、共通項を炙り出し、推論を立てる。
そして、答えが見えた。
「……逆恨みじゃないかな。浄化作戦の原因って」
「……っ!」
国政絡みの思惑。
異種族を弾圧したいという強い願望。
種族間融和の進んだ今この時期に浄化作戦を行うという、貿易への影響を鑑みないタイミングの異質さ。
これらを踏まえて考えれば、感情論で政治を行っていると仮定しなければ現状を説明しきれない。
だとすると、そこまで相手方を怒らせたのは誰か。
……裏クエストを申請してきたのは、果たして誰だっただろうか。
「リリスちゃん」
「はい」
「お客として来店した重役に対して、取り返しのつかない無礼を働いてしまった、なんてこと。
君はしてないかい」
「……」
どうやら営業の推理は、おおむね当たっていたらしい。
リリスの反応がそれを物語っている。
サキュバスである彼女が政府関係者の要求を振り払った。
自身より低位の種族から虚仮にされたと勘違いしたその重役が、恨みを晴らさんがため議会に異種族が経営する風俗点の掃討を進言。埒もない理由でこの五番通り裏番地を潰しにかかった。
そんなところなのだろう。
目を伏せていたリリスも観念したようだ。
顔を上げ、苦笑する。
「…………お見通しだったのね」
「何があったのか話してくれないか。できるだけ詳しく」
「……わかった。一から話すね」
やがて事の真相について、彼女はとうとうと話し始めた。
「――レイを」
「うん?」
「――――ハードプレイを要求されたのよ」
「……は?」
性癖に上下はないですが、相手に押し付けたら駄目ですよね。犯罪になりかねませんからね、そういうの。
……うん。
というわけで、次回! 歓楽街編がついに決着、なるか!?
読み終わったら、ポイントを付けましょう!