いよいよ本章より、町娘がクエスト受付所で働くことになります!
話は次のステージへ。
……そう! 町娘の研修時代です。
というか、ここからの町娘はずっと研修生です。
なぜか。
それは、次回明かされます!
乞うご期待!
空が白んできた。
朝が来たのだ。
クロカミから紹介されたアパートの角部屋で、あの町娘は目を覚ます。
「ふわ……」
眠気は抜けきっていないが、彼女にはこれから仕事がある。
窓から見える峰から日が昇る前に、この新居を出なくてはならない。
(今日がはじめての出勤日だ。気を引き締めなきゃ)
寝台から降りた彼女は、料理でも作るかのようにテキパキと支度を整えていった。
淡緑色のシャツをベースに、乳白色のスカートを合わせ、ころっと可愛らしい靴を履く。
最後に薄手の上着を羽織って、古着コーディネートはなんとか完成。
テーマを例えるなら、「レタスにパルメザンチーズ、クルトンにガレットを併せたおしゃれなサラダ」といったところだろうか。
主食代わりになる食材が入りすぎたような気もするが、そんなこと貧乏性な彼女は端から割り切っていた。
(……どうせ向こうで制服に着替えるだろうし、これで行こう)
やがて。
扉を開けて。階段を降りて。
町娘はアパート表の通りに出た。
農家を営む方々はすでに仕事に取りかかっているようだが、住宅街の半分はまだ眠っている。
通りを歩き、細い路地には入り、大通りを渡って約五分。
新たな職場が見えてきた。
クエスト受付所だ。
(表の扉から入れるかな……)
まだ夜が明けて間もない頃だ。
裏口は開いていても、ロビーの準備がまだできていなかったら正面玄関が開いているはずがない。
だが、ダメ元で彼女は扉の取っ手に力を加えた。
……ガチャ。
(開いた?)
恐る恐る、中を覗いてみる。
明かりは全て消え、館内は薄暗かった。
酒場の方はたった今業務が終了したようで、給仕さんが皿洗いをしている。総合カウンターの方に職員の姿はなく、クエストボードに貼られた依頼書が更新されている様子はない。
では、受付所には誰もいないのか。
否。
待ち合いスペースに置かれたベンチの上で、誰かが野垂れ死に損なっていた。
いびきをかいて眠っているのは、泥酔した残念美人。
腹をぷっつり切られた干物のようになった彼女を、町娘はよく知っていた。
「――クロカミさん!?」
あられもない姿で夢を見る彼女。
目の前の異常事態に、町娘が呆気に取られていると、
「おいおい、何寝てんだクロカミ!」
町娘の後ろから男性が現れた。営業のあの職員だ。
「まさかとは思ってたが、お前さっきまで呑んでたんじゃないだろうな」
「……(ふがっ)」
「寝むせんなよ、まったく」
ズンズン近寄って行った営業は、クロカミの腕をつかんだ。
荒っぽいやり方だが、彼女を起こそうとしているのだ。
「ほら朝だぞ、仕事だ仕事! それとも仮眠室連れてってやろうk……」
と、次の瞬間。
《睡眠中における敵の急襲を確認。
パッシブスキル『自動反撃』が発動します》
「へ?」
クロカミの華麗な柔術によって、営業の身体は宙を舞った。
……これはまずい。投げ飛ばされる。
「落ち着けクロカミ!
俺だオレオレ!
お前の仲間、ナカマ!」
しかし弁明の甲斐なく、運命は決した。
クロカミの投げ技が、空を切る。
「テメっ! 仲間だっつってるだろ頭空っぽか、このバカたれ――――ギャアァァァッ!」
「――営業さーん!!」
シュパァン、と良い音がして、営業は彼方へとぶっ飛んだ。
壁に激突しなければ地平線の先を見ていたことだろう。
埃と壁板の破片を浴びる中、営業は辞世の句を詠む。
「……ギャグ補正、無かったら俺、死んでるぞ……ガクッ」
そうして、彼は気絶した。予定調和である。
「あわわわわ……」
独り展開に置いてけぼりを食らった町娘は、現在玄関にて棒立ちになっていた。
気の毒に、朝から凄い光景を見てしまったものだ。
夜通し酒に溺れて酔いつぶれた受付嬢に、投げ飛ばされて失神した営業マン。
そんな二人が今日からお世話になる職場で転がっているのだ。
もうどこから対処すればいいのか、正常な頭では判断が付かなくて当然だろう。
(……私、こんな所で働いていけるんだろうか)
出社初日から大きな不安を抱えることとなった彼女は、とりあえずクロカミをロビーから別の場所へ運ぶことにした。
不発弾を処理するみたく、それはもう慎重に。
この世界にもスキルの概念はあります。
しかし、そこまで物語に大きく関わる要素ではないので、「あぁ、異世界転生系のアレか」っていうくらいの認識でOKです。
今後説明もありますので。
さて。
次回は、クロカミとの面接から物語が回り始めます!
お楽しみに!
……あと、圧迫面接は滅びよ!
読み終わったら、ポイントを付けましょう!