前書きって、何書けばいいんだろう……話題がなくて困ってます。
何かアイデアがおありでしたら、コメントに書いてくださるとありがたいです!
(ちなみに、おやつはピーナッツ入りのベビースターラーメン食べました。コーヒーと合いますよね、ピリ辛のあれ)
……よくある異世界ファンタジーには、欠かせないものがある。
近世ヨーロッパの町。
剣と魔法。
世界に危機をもたらす巨悪。
主人公たちが成長するために、これらはゼッタイ必要な要素だろう。
だが、忘れてはならないものがある。
金、武器の素材、人脈、経験値、フラグ等々。
それらを集めるために、欠かせないもの。
――そう、クエストだ。
「その欄にはフルネームでお願いします」
総合カウンターで対応する受付嬢は、ニコリと笑ってそう言った。
「……個人情報はこちらで厳重に管理しますので、ご安心ください」
ここは大通りに面した町の中心部にある、大きな大きなお役所施設。
――『始まりの町・クエスト受付所』。
内装はウォールナットカラーを基にした会館のようになっていて、吹き抜けによって開放感がある造り。
待合スペースには長椅子と小テーブルが完備され、今日もパラパラと人が座っている。
「……はい……はい、確認いたしました。
これで手続きはすべて終了です」
現在とある農家のおじさんと応対しているのは、艶のある黒髪を後ろで結った受付嬢だった。
吸い込まれそうなほど端正、それでいて硬骨な顔立ちをした女性だ。
彼女が制服として着ているのは、白のブラウスに『受付嬢』のバッジが付いたベスト、皺一つないフレアスカートの三点。
清純さがあふれ出る第一印象、客から信頼を置かれること間違いなし。
そんな容姿の持ち主である。
「――本日はご依頼いただき、誠にありがとうございました」
ざっと書類に記入漏れがないか確かめると、彼の麗人は深々とお辞儀をした。
「またのご利用を、お待ちしております」
明るく丁寧な見送りをされて、おじさんはまんざらでもない様子だった。軽い足取りで扉を開け、自身の耕作地へと帰っていく。
「…………」
おじさんの姿が完全に見えなくなり、クエストを依頼しにくる客がいない今。
ようやく受付嬢は作り笑いを止めた。
そしてカウンター上でダラけると、べしゃりと溶けた。
「……゛あー、しんど。仮面被るのも楽じゃないなー」
机に残されているのは、一枚の紙っぺら。
それを抓み上げた彼女は、ハァッと陰鬱そうにため息を吐く。
「――あのおじさん。『マッドフォックスの討伐』で、一体につき三〇〇〇グランって……おカネ渋りすぎでしょ。
せめて五〇〇〇グランは出しなさい、っての。
冒険者が保菌しようもんなら、労災まさかのコッチ持ちなんだから……」
くどくどと垂れる悪口が、客に聞こえることはなかった。
自分の醜態が注目されていないのにかこつけて、彼女はさらに溶けていく。
見目麗しかったあの女性は、もういない。
ここにいるのは怠惰の女神、唯一人だけである。
「……ただなー。
あのおじさん、酒場の常連なんだよなー。愛想よくしないとダメなんだよなー」
そう言って、彼女はちらりと隣を盗み見た。
……そこには、大衆的な『酒場』があった。
受付所との間に壁はなく、フードコートのように開け放たれている。
併設されたこの店は、冒険者たちにとって大事な心の拠り所。
昼から酒が飲めて夜明けまでダベれる場所なんて、町中でここくらいなものだ。
加えてクエスト受付所のメインターゲットである冒険者は、大抵この酒場でパーティメンバーを募集したり、クエスト終わりに一杯やったりする。
つまり、クエスト受付所と酒場というのは、切っても切り離せない関係なのである。
「――先方に迷惑をかけるわけにもいかないし、ここは我慢するしかないかー」
机に顎を乗せる。仕事中だというのに、彼女はリラックスモードに突入していた。
仕方のないことなのかもしれない。
確かに正午過ぎである今の時間帯は、クエストを依頼しに来る人が少ない。
だから冒険者がクエストを契約したいと申し出てこない限り、彼女は暇を持て余すのである。
……そんな同僚のだらけ具合を見かねてだろう。
スタッフルームから現れた一人の男性職員が、彼女に話しかけてきた。
「――暇そうだな、クロカミ」
「はーい、そうでーす。なにか御用ですか、ザコ営業さーん?」
「ザコは余計だ」
営業と呼ばれた職員は、スマート体型のイケてる男性であった。
資料の束を小脇に抱えた彼は、丸めた紙と画ビョウを彼女の前に転がす。
「――これ、クエストボードに貼っといてくれ。もう審査はしてあるからさ」
じっとりした眼で、クロカミは不満そうに反発した。
「……自分で貼りに行けばいいのでは?」
「今、手一杯なんだよ」
「女の子を追っかけることで?」
「仕事だよ、シ・ゴ・ト」
「……どーだか」
「んじゃ頼んだぞ、よろしくな」
有無を言わせぬ振る舞いで、ぽんぽんと彼はどこかへ行ってしまった。
深くため息を吐いたクロカミは、重い腰を上げる。
「しょうがないなー……」
紙と画ビョウを持って、彼女が向かった先。
それは隅から隅までびっしり依頼書が貼られた、巨大な掲示板のところだった。
ここで冒険者たちはクエストを選び、日銭や経験値を稼ぐ機会を得る。
依頼内容は多種多様で、モンスター討伐や建材の調達、貴族のお宅の金庫番などなど。一般人から領主様までクエストを申請するものだから、クエストボードはいつも張り紙だらけだ。
(さぁて、どこか刺せそうなところは……お。あったあった)
ぽっかり空いた一角のコルク地に、クロカミは広げた依頼書を画ビョウで留めていく。
紙をピンで貫く間に、彼女は思った。
(やっぱり、討伐系のクエストが多いなー)
掲示板に貼られた依頼書には、モンスターの絵が描かれたものが多かった。
実りの秋ということもあって、この時期は各地でモンスターの活動が活発化する。
だからモンスターハンティングの依頼が増えるのだ。
……そもそも。
この世界は古臭い伝統で凝り固まっていた。
例えば田舎の村には麦畑ばかりが広がっていて、都会にはアーチと左右対称に拘った石造りの建築物ばかりが並んでいる。
赤茶色の屋根。乾燥しやすい気候にピッタリな気密性の高いドアや窓。
最近になってようやくガラスが教会だけのものから一般的なインテリアになり始めた。
そんな美の様式にばかり目が行く時代を感じさせる景観なのが、現代社会の視覚的特徴だ。
基本的な移動手段は、徒歩か馬車。
魔法技術に力を入れて発展させたせいで、錬金術に関しては学術的にイマイチ掘り下げられていない。
そして食事は、一日二食程度。主食は麦。
体を洗う時は、お湯でなく井戸水。
両刃剣や杖を携帯していても、一般人から変な目で見られない。
領主や平民といった身分制度。
エトセトラエトセトラ。
……要は、この世界。
技術的に進んでいるように見えて、社会全体でみると文明的にも制度的にもなにも進歩がない。
そういった世界で、クロカミたちは生きていた。
また。
史実では数百年に一度の頻度で魔王が復活し、その度に冒険者たちが地を駆けずり回って魔王討伐を目指す時代が訪れる、らしい。
野原にはモンスターが現れるし、街道には盗賊団が陣を敷くし、領主は悪政を働く。
まるで正義の味方に介入してくれとでも言うような環境が蔓延った、剣と魔法の世界がそこには広がっている。
では、先ほど出てきた冒険者とは具体的にどんな職業なのか。
有り体に言えば、「人々の依頼を請け負うことで日銭を稼ぐ者」がこれだ。
名称でよく誤解されるが、彼らは決して洞窟を調査したり遺跡の謎を解いたりする者たちではない。
それは探検家や考古学者の仕事だからである。
では冒険者は何をするのかというと…………結局のところ、クエストの報酬か自身のレベル上げにしか彼らは興味がない。無職者が高等遊民を自称するのと同じで、彼らはその日暮らしの浮浪者なのである。
そんな冒険者たちが、足しげく通う場所はどこか。
クエスト受付所が繁盛する理由が、そこにある。
「……これでよし、と」
無事、指に穴をあけることなく、クロカミは依頼書を張り終えたようだった。
だが紙に刺したピンの位置は、一直線上になるよう上下に一点ずつだけ。縦の力には強いが、横の力には弱い陣形だ。
くりん。
紙は両側から中心へと丸まり、ピンに付いた丸い頭に覆い被さる。
「あちゃー、四点留めの方がよかったか」
依頼書の見映えが悪い、すなわち内容が読みにくいということは、クエストの契約されにくさに直結する。
新たに穴を増やしてしまうが、致し方ない。貼り直そう。
そう彼女が思った矢先。
「――もし」
「……?」
「もしもし」
なんだろう。
後ろから声がしたような気がする。
「はい、私ですか?」
クロカミが振り向いてみると、そこには杖を突いたおばあさんがいた。かなりお年を召している、目がしょぼしょぼのご老人だ。
反射的に、クロカミは接待スマイルを顔に張り付けた。
「おはようございます。今日はご依頼に来られたんですか?」
「わしゃーのぉ……孫にのぉ……」
「マゴ?」
「どこかに奉公するて言うちぃ……旅立つ前に小遣いをのぉ……」
「えーと、つまり?」
蛇行する会話。要領を得ないから、話がいまいち掴めない。
とりあえず最後まで真剣に話を聞こうと、クロカミは身構える。
だが、その必要はなかった。
補足説明を加える者がいたのだ。
「――お孫さんを探してほしいんだそうです」
「お孫さん?」
「はい」
「……申し訳ありませんが、あなたはどちら様でしょうか?」
老人の隣に立つ町娘は、弾かれたようにペコリと頭を下げた。
「……さっき知り合ったばかりなんですけど、付き添いで来ました。赤の他人です」
お人好しを具現化したかのような娘だった。
背丈は女子の平均身長と同じで、頭頂部はクロカミの目線にかかるくらいの高さ。柔和で可愛らしいその顔は俗世に汚されていない。
よほど良質な環境で、蝶よ花よと育てられたのだろう。
その出で立ち、まるで天使だ。
「ご家族の方ではない、ということでしょうか?」
クロカミは確認する。
「ええ。なので完全部外者なんですけど……人探しのご依頼、出来ますかね?」
「そうですね……」
少し、クロカミは考え込んだ。
依頼をしに来たおばあさんに、赤の他人が同行するこの事案。
本来なら個人情報を守るため町娘にお帰り頂くのが無難な判断だろう。
でも行きずりの出会いなんてよくあることだし、この町娘に悪意はなさそうだ。
詐欺行為を働かないよう注意すればいいだけだから、防犯面でもあまり問題はない。
「――かしこまりました。こちらへどうぞ」
クロカミは一番カウンターへ通すことにした。おばあさんの歩行ルートを確保しつつ、客二人を誘導していく。
足元に気を遣い、二人が座れるよう事前に椅子を引いておいて、客が座るのを待ってからカウンターの向こう側へと回り、自分も席に着く。
……クエスト交渉、開始である。
クロカミと町娘の絡みは、今後かなり多いですね。営業は茶化し役としての登場ですが、彼が核になるストーリーも備えてあります。でも紙みたいにペラっペラな男なので、頼りになる男じゃないことを先に書いときますね。(名誉回復させる気なし)
クロカミは「髪が艶やかで黒い」ところから来た単なるあだ名です。営業も「営業職についている」という浅い由来しかありません。
では、町娘がここに就職するとしたら、彼女のあだ名は……?
暇なときにでも予想して見てください。
二割がた当たると思います、はい。
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