一軒目。
ラミア嬢専門キャバレー 『ポイズン・テイル』。
店長『エダ姐さん』に、聞き込みを開始。
「――最近起こった、迷惑なこと?」
「そうそう。何か思い当たることあったりしないかな」
「あーそうねー……」
ふぅっと紫煙をくゆらせる彼女は、この店の女主人だった。
燃えるような赤髪を肩に垂らし、何処を見ているか分からない小さな丸型の瞳孔を古い単眼鏡の奥に隠した彼女は、上半身が人間で下半身が蛇の異人だ。
その証拠に爬虫類の鱗がモチーフのステッチ入りローブの下からは、得も言われぬほど恍惚たる尾が伸びていた。
年齢不詳で出自も不明。
謎が謎を呼ぶ彼女のことで一つ確かなものがあるとすれば、ダボついた服装から見え隠れする豊満な体型くらい。
服越しにもわかるほど主張の激しい凹凸は、見たものを男女問わずに耽溺させたことだろう。
妖美な女主人エダは、ゆっくりとパイプに息を注いだ。
そして、マウスピースから口を放す。
「……浄化作戦のことかしらね」
「じょーか作戦?」
オウム返しに聞き直す営業に、エダは微笑みかけた。
「そう。最近で迷惑だったことと言えば、それが一番だと思うわ」
「聞いたことないな……一から説明してくれないか?」
「理由は分からないのだけれど、いきなり国が風俗店の摘発に力を入れ始めたのよ。
それも、ジャンルに見境がないの」
また一線、エダの口から白煙が立ち昇った。
彼女は話を続けていく。
「ヒト族にも人気だったトレントプレイ専門店さえ、ついこの間やられちゃったって聞いてるもの。
びっくりでしょう?」
「『街をきれいにする』イコール『風俗を潰す』、ってのが国の魂胆か……男として嘆かわしい限りだね」
「営業さん、他の店でも話を聞くんでしょ。だったら、なるべく早い方がいいわ。
『使徒』に悟られる前に訪問を済ませちゃいなさい」
「使徒って、あの監視する奴もここに来てるのか?」
――使徒。
それは国が遣わす、神と王に守られし行政執行法人。
国家公務員である彼らは、与えられた仕事をこなすだけの傀儡であり、一般市民からは不幸を運ぶ死神として扱われる存在。触れれば大方祟られる。
だからエダも、鼻に皺を寄せて悪態を吐く。
「……来てるわよ、毎日ずぅっと。
気配が隠しきれてないからすぐ気づくけど、隣組みたいで落ち着かないわ。頭の固い連中だから難癖付けられると面倒なのよ、あれ」
「確かにあいつらに関わったら、ネチネチくどくど厄介そうだな……わかった、注意しておくよ」
「ええ、そうしなさい……ところで一つ、いいかしら」
「どうした?」
営業から目を離したエダは、次にバイトの方に焦点を当てていた。
まるで獲物を狙うハンターのような目つきだ。
動きを止めるバイトに、エダは話しかける。
「……キミ、可愛いわね」
「はひっ!?」
「ねぇあなた、ウチで働かない?」
動揺するバイトの顎を、誘惑するようにエダは撫でる。
「そろそろ新しい娘が欲しかったところなのよ。
大丈夫、怖がらなくてもいいわ。蛇化の薬は安全なものをチョイスしてるし、あなたのピュアっぽさなら絶対上位に食い込め――」
「――ありがとうございましたー! 営業さん、次行きましょ次ッ!!」
「え、俺まだ訊きたいことが山ほどあるんだけど……」
「いいから早くッ!!」
瞬時に頭を下げたバイトは、ぐいぐいと営業の背中を押して店から逃げ出した。
身の危険を察知したのだろう。
……正しい判断であった。
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