異世界傭兵物語

~ 物理と魔法を極めた最強の魔族になりました。仲間と楽しく冒険したり、領地経営もしちゃいます!~
黒鯛の刺身♪
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第六十四話……大寒波による食料高騰。

公開日時: 2021年5月9日(日) 11:16
文字数:2,104

 登って来る朝日が美しい、とある高い山にある祭壇にて、悲しみの涙を浮かべる巫女がいた。


「アトラス様の次は、ベリアル様まで……。私の愛した人は次々に……。もうこの世界などどうなっても良いわ!」


「皆、氷に閉ざされて死ぬがいい!」




☆★☆★☆


「御館様、とても困りました」


「どうかしたの?」


 ルカニが珍しく朝から、私の執務室に顔を出している。



「秋に撒く小麦なのですが、あれ以降に雪が全く解けず、種まきが出来ておりません。このままだと春に収穫できる小麦は一粒も無くなってしまいます!」


「……そ、それは困る!」


 私は顔を青くした。


 この世界の小麦は、秋の終わりに種を撒き、春に収穫を行う。

 今年の冬はいつもより早く雪が降ったのだが、本格的に冬に入る前に、一度は解けると思っていたのだ。

 それが一向に溶けない。

 種まきの時期を逸した形となっていた。


 ……しかも、我が領の小麦自給率はとても低かったのだ。



「困ったポコね」


「ガウ、どうしよう?」


 マリーもポココも心配そうだ。



「うーん、とりあえず行商人に聞いてみるよ」


 とりあえず、城下に来ている大手の商人たちに聞いてみることにした。

 最悪の場合に備えて、小麦を大量に買い入れる腹積もりであった。




☆★☆★☆


「これは、マリー準男爵様の家宰のガウ様! どうか致しましたかな?」


 パウルス王国の王都にある大手の商館は、我が古城の城下に小さな支店を出していた。

 その支店の一つを訪ねたのだ。



「小麦の余剰があれば売ってほしい。しかも、できるだけ多く……」


 そう伝えると、商人は少し難しい顔をして、少し意地悪く笑ったあとに、



「……あはは、家宰様。今は小麦一袋いくらだと思います?」


「銀貨3枚か4枚ですか?」


「……いえ、もう16枚くらいが相場ですよ」


「な、馬鹿な。4枚でも高値でしょう?」


 私が驚くと、商人はヤレヤレといった顔つきで、



「この地だけでなく、今やパウルス王国の農地全域が、極度の寒波に晒されているのです。来年の小麦は近年にない大不作に間違いありません!」


 ……くっ、遅かったか。

 商人はこういうことに非常に目ざとい。


 しかし、遅くとも、少しでも食料を買い付ける必要性はあった。



「……で、16枚払うとして、譲ってもらえる小麦はどんな品ですか?」


「並の品だと、こちらになります」


 見本の小麦を見せて貰う。

 驚くことに、かなり質の悪いものだった。



「これが並の質とは、おかしくないですか?」


「おかしくありません! 家宰様、今回の寒波を甘く見ていらっしゃいませんか!?」


 商人に説教されてしまう。

 我々農地を持つものが、食料を買いに来るような情勢自体がおかしいのだと……。


 ……しかし、その通りだった。

 作る者が買うようでは、商人に売る者などいない。

 品不足になるのは当然のことだった。



「また来るよ、勉強になったよ」


「それはようございました。今後ともごひいきに!」


 商人に御礼を言って、とりあえず古城に戻ることにした。




☆★☆★☆


――三日後。

 周辺の他領に、偵察に出ていたバルガスが戻って来る。



「バルガス、他の領地も種まきが出来ていないのか?」


「はっ、間違いございませぬ。このままだと未曾有の大不作になることは間違いないかと……」


 商人の言っていることは正しかった。

 他の地域でも、小麦に限らず食料価格は急騰していたのだ。



「バルガス、急いで領境の関所に伝令を出せ! 領地を出る食料には、今までの10倍の関税を掛けろ!」


「はっ!」


「ガウ、流石に10倍はやりすぎじゃない? 商売する人が困るよ!」

「こまるポコ!」


「そんなことは無い! 一切領外に食料を出さないようにするんだ。それでも出ていくようなら20倍、30倍にするつもりだよ!」


「ええ~!」


 マリーは驚くが、領民を飢えさせないようにするのが、先ずは急ぐべき最善手であった。

 前世の世界で、『自由貿易は素晴らしい!』みたいな考え方があったが、それはみんなに食料が行きわたる生産量があってのことだった。



「旦那様、それは良いとして、新しい作物を探した方が良いですな! この調子だとズン王国領でも食料不足になるでしょうし……」


「そうだね。早速探しに行こう!」


 スコットさんが新しい代替食料を探すべきだと提案。

 パウルス王国の地の雪は既に深いが、南方のズン王国の地は、まだ雪がないであろう地域が予測された。



「あと、ジークルーン。後で古城の金庫から銀貨を出すので、パウルス王都からできるだけ安く、小麦を買ってきてくれ!」


「わかりました!」


 ……多分既に高値だろうが、高いからと言って、全く買わないのも領民に対して無責任だと思ったのだ。




☆★☆★☆


「出発ぽこ!」


 私達は再びドラゴに幌つきの荷車を牽かせ、食べられる植物を探しに、まだ温かいであろう南方へと旅立った。


 領外の地も雪が既に深く、普通の馬車で走るのは、主要街道でさえ厳しい状況となっていた。

 この点、ドラゴがいてくれて本当に助かった。




――10日後。


 小麦価格はさらに高騰。

 並の品質で一袋銀貨20枚を突破した。


 それにも増して、さらに値上がりを見せる雰囲気だった。

 それに引っ張られる形で、魚や肉なども3~4倍の価格となっていった。


 ……本格的な冬を前に、とんでもない状況となっていったのだった。


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