【side・魔将ラムザ】
――ズン王国王城。
謁見玉座の間。
「ラムザよ!」
低くも高くも感じる不思議な声が響く。
魔王アトラスの声色だ。
「はっ!」
俺様は魔王の前に跪き、首を垂れる。
「貴様、一体どれだけ負ければ気がすむのだ! 古代竜まで失いおってからに!」
「申し訳ございませぬ!」
まさか古代竜がやられるとはな……、というか魔王さんよ、あんたも古代竜が負けるなんて思っていなかっただろう?
「ベルンシュタインとかいう新参の小僧に、たいそう名を成さしおって!」
「面目次第もございませぬ!」
ああ、嫉妬かよ?
魔王の嫉妬とか嫌だねぇ~、ああ、ウザイ。
早く説教終わってくれね~かな?
「余は今回、そちに責任をとってもらうことにした……」
「……は?」
マジかよ?
負けたのは俺様のせいじゃね~って、上司たる貴様が無能なんだよ、このヴォケ。
「この果実酒を飲み、潔く自裁せよ!」
魔族の女が果実酒の入ったグラスを運んでくる。
「……」
「どうした、早く飲まぬか!」
俺様の背筋に、滝のように冷や汗が流れる。
俺の後ろに控えるエドワードの顔色は、一切変わらない。
……てめぇ、このことを知ってやがったな!?
「……ぐふぅ」
突然、口から血が流れ、膝をつく。
……俺様じゃない。
魔王アトラスがだ。
「魔王様! しっかりなさいませ!」
突然のことに、黒騎士エドワードが魔王に駆け寄る。
「くくく……、危なかったなぁ~♪」
「……ら、ラムザ、貴様何をした!?」
エドワードが俺様を睨みつける。
「俺様はなにもしてねーよ、できるわけねーだろ? 出来るとしたら魔王妃様だけだろうなぁ~。魔王よ、最近の食前酒は特に旨かったろう? くくく……」
魔王アトラスが片膝をついたまま、俺様を睨みつける。
「……おう、怖いねぇ。流石は魔王様。もはや、元魔王様かもしれねーが」
魔王は胸を抱えて、もがき苦しみ始める。
「ラムザ、貴様なんてことを!?」
「いやいや、悪いのは俺様じゃね~って。きっと先日、跡目を先妻の子にするって言った魔王様が悪いんだろぉ~?」
「ま、まさかシャルロッテ様が!?」
意識を無くした魔王の代わりに、黒騎士エドワードが驚く。
跡目争いなどよくあることだ。
誰しも自分の子供を跡目にしたいものだ。
人も魔族も変わりねぇ……。
「……ということで、次期魔王のカミル様の後見役を、このラムザ様がシャルロッテ様より承っておるのだよ。エドワード君!」
「き、貴様!」
エドワードの奴が、腰の剣に手をかけ、鋭い視線で睨みつけて来る。
……嫌だねぇ、忠臣って奴は。
反吐が出るぜ。
戦闘の強さだけが全てじゃねーんだよ、このヴォケ。
「控えよ! エドワード!」
後ろから幼いカミルを抱いた魔王妃シャルロッテが現れる。
……くくく、俺様の勝ちだ。
エドワードと戦えば、百回やって百回負ける自信があるが、現実に勝つのはこの俺様なんだよ。
「エドワードよ、魔王カミル様に歯向かう気か!?」
黒騎士エドワードも全てを悟り、剣を収め、彼女とその幼子に臣下の礼をとった。
玉座には無残な姿のアトラスが、寂しく横たわっていた。
「ラムザよ、良くやった! 褒美を取らす。望み通り先王アトラスの心臓を遣わす!」
「ははっ! 有難き幸せ!」
人間と魔族の決定的な違い。
それは、強い魔族の心臓を食べると、食べた魔族に能力の一部が伝承されるのだ。
まさに、勝者が全ての魔族のシステムとも言えた。
「……くくく、力がみなぎるのを感じるぞ! 最高の気分だ! はーっははは!」
――翌日。
俺様は更なる力と共に、ズン王国の宰相の地位に上りつめる。
まさに我が世の春といった感じだった。
時を同じくして、新たなズン王としてカミルが就任した。
☆★☆★☆
――カミル王就任の翌日。
「ラムザよ、カミルには魔王を名乗らせないのですか?」
「ええ、シャルロッテ様。ベリアルという男はとても気位の高い男です。カミル様が力をつけるまでは、奴を魔王と認めることで、我々に協力させるのです!」
「わかりましたラムザよ、難しいことは其方に任せます!」
「ははっ、このラムザに全てお任せ下さい!」
……くっくっく、順調だな。
シャルロッテはその美貌だけでアトラスに魅入られた存在だ。
せいぜい我が覇権の操り人形となってもらわねば。
まぁ、しかし、ベリアルを処分する方法も考えておかねばな……。
――その後。
俺様は宰相の権限を使って王宮費を潤沢に引き上げ、シャルロッテに贅の限りを与えることによって、更なる信頼を勝ち得ていったのだった。
☆★☆★☆
「宰相様、王国の領内の村々から陳情が参っておりますが、如何取り計らいましょう?」
年老いた内務官がやって来る。
「通せ、話を聞いてやる!」
「はっ!」
内務官に通された村長たちは、オーク族、ゴブリン族、人間族といった我がズン王国領8割の人口を占める面々だった。
「宰相様、この新しい税額はあんまりですじゃ!」
「そうですじゃ、死ねと言っているようなもんです!」
「今年生まれた子供たちが冬を越せません!」
次々に俺様に文句を言ってくる。
王宮費を引き上げるために、かなりの増税をした結果だった。
こいつらには王に対する忠誠心は無いのか?
……まぁ、俺様には無いがな。
「わかった、城の食糧庫を開放してやる! 次の月の初めに取りに来い!」
「……あ、ありがとうございますだ!」
「流石は名宰相様じゃ!」
「感謝いたします、ラムザ様!」
……うんうん、死ぬほど感謝しろよ。
村長たちが帰った後、内務官が青い顔付きで、慌ててやって来る。
「……さ、宰相様。城の蓄えはほとんどありませぬが!?」
五月蠅い奴だな。
とりあえず死刑にでもしてやろうか?
「なぁに、無いならあるとこからとって来るだけだろうが?」
――これが新たな長い戦乱の引き金となるのだった。
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