異世界傭兵物語

~ 物理と魔法を極めた最強の魔族になりました。仲間と楽しく冒険したり、領地経営もしちゃいます!~
黒鯛の刺身♪
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第五十九話……誕生! 宰相ラムザ 【side・魔将ラムザ】

公開日時: 2021年5月2日(日) 12:24
文字数:2,305

【side・魔将ラムザ】


――ズン王国王城。

 謁見玉座の間。



「ラムザよ!」


 低くも高くも感じる不思議な声が響く。

 魔王アトラスの声色だ。



「はっ!」


 俺様は魔王の前に跪き、首を垂れる。



「貴様、一体どれだけ負ければ気がすむのだ! 古代竜まで失いおってからに!」


「申し訳ございませぬ!」


 まさか古代竜がやられるとはな……、というか魔王さんよ、あんたも古代竜が負けるなんて思っていなかっただろう?



「ベルンシュタインとかいう新参の小僧に、たいそう名を成さしおって!」


「面目次第もございませぬ!」


 ああ、嫉妬かよ?

 魔王の嫉妬とか嫌だねぇ~、ああ、ウザイ。

 早く説教終わってくれね~かな?



「余は今回、そちに責任をとってもらうことにした……」


「……は?」


 マジかよ?

 負けたのは俺様のせいじゃね~って、上司たる貴様が無能なんだよ、このヴォケ。



「この果実酒を飲み、潔く自裁せよ!」


 魔族の女が果実酒の入ったグラスを運んでくる。



「……」


「どうした、早く飲まぬか!」


 俺様の背筋に、滝のように冷や汗が流れる。


 俺の後ろに控えるエドワードの顔色は、一切変わらない。

 ……てめぇ、このことを知ってやがったな!?



「……ぐふぅ」


 突然、口から血が流れ、膝をつく。


 ……俺様じゃない。

 魔王アトラスがだ。



「魔王様! しっかりなさいませ!」


 突然のことに、黒騎士エドワードが魔王に駆け寄る。



「くくく……、危なかったなぁ~♪」


「……ら、ラムザ、貴様何をした!?」


 エドワードが俺様を睨みつける。



「俺様はなにもしてねーよ、できるわけねーだろ? 出来るとしたら魔王妃様だけだろうなぁ~。魔王よ、最近の食前酒は特に旨かったろう? くくく……」


 魔王アトラスが片膝をついたまま、俺様を睨みつける。



「……おう、怖いねぇ。流石は魔王様。もはや、元魔王様かもしれねーが」


 魔王は胸を抱えて、もがき苦しみ始める。



「ラムザ、貴様なんてことを!?」


「いやいや、悪いのは俺様じゃね~って。きっと先日、跡目を先妻の子にするって言った魔王様が悪いんだろぉ~?」


「ま、まさかシャルロッテ様が!?」


 意識を無くした魔王の代わりに、黒騎士エドワードが驚く。


 跡目争いなどよくあることだ。

 誰しも自分の子供を跡目にしたいものだ。

 人も魔族も変わりねぇ……。



「……ということで、次期魔王のカミル様の後見役を、このラムザ様がシャルロッテ様より承っておるのだよ。エドワード君!」


「き、貴様!」


 エドワードの奴が、腰の剣に手をかけ、鋭い視線で睨みつけて来る。


 ……嫌だねぇ、忠臣って奴は。

 反吐が出るぜ。

 戦闘の強さだけが全てじゃねーんだよ、このヴォケ。



「控えよ! エドワード!」


 後ろから幼いカミルを抱いた魔王妃シャルロッテが現れる。


 ……くくく、俺様の勝ちだ。

 エドワードと戦えば、百回やって百回負ける自信があるが、現実に勝つのはこの俺様なんだよ。



「エドワードよ、魔王カミル様に歯向かう気か!?」


 黒騎士エドワードも全てを悟り、剣を収め、彼女とその幼子に臣下の礼をとった。

 玉座には無残な姿のアトラスが、寂しく横たわっていた。



「ラムザよ、良くやった! 褒美を取らす。望み通り先王アトラスの心臓を遣わす!」


「ははっ! 有難き幸せ!」


 人間と魔族の決定的な違い。

 それは、強い魔族の心臓を食べると、食べた魔族に能力の一部が伝承されるのだ。

 まさに、勝者が全ての魔族のシステムとも言えた。



「……くくく、力がみなぎるのを感じるぞ! 最高の気分だ! はーっははは!」



――翌日。


 俺様は更なる力と共に、ズン王国の宰相の地位に上りつめる。

 まさに我が世の春といった感じだった。


 時を同じくして、新たなズン王としてカミルが就任した。




☆★☆★☆


――カミル王就任の翌日。



「ラムザよ、カミルには魔王を名乗らせないのですか?」


「ええ、シャルロッテ様。ベリアルという男はとても気位の高い男です。カミル様が力をつけるまでは、奴を魔王と認めることで、我々に協力させるのです!」


「わかりましたラムザよ、難しいことは其方に任せます!」


「ははっ、このラムザに全てお任せ下さい!」


 ……くっくっく、順調だな。

 シャルロッテはその美貌だけでアトラスに魅入られた存在だ。

 せいぜい我が覇権の操り人形となってもらわねば。


 まぁ、しかし、ベリアルを処分する方法も考えておかねばな……。




――その後。


 俺様は宰相の権限を使って王宮費を潤沢に引き上げ、シャルロッテに贅の限りを与えることによって、更なる信頼を勝ち得ていったのだった。




☆★☆★☆


「宰相様、王国の領内の村々から陳情が参っておりますが、如何取り計らいましょう?」


 年老いた内務官がやって来る。



「通せ、話を聞いてやる!」


「はっ!」


 内務官に通された村長たちは、オーク族、ゴブリン族、人間族といった我がズン王国領8割の人口を占める面々だった。



「宰相様、この新しい税額はあんまりですじゃ!」


「そうですじゃ、死ねと言っているようなもんです!」


「今年生まれた子供たちが冬を越せません!」


 次々に俺様に文句を言ってくる。


 王宮費を引き上げるために、かなりの増税をした結果だった。

 こいつらには王に対する忠誠心は無いのか?

 ……まぁ、俺様には無いがな。



「わかった、城の食糧庫を開放してやる! 次の月の初めに取りに来い!」


「……あ、ありがとうございますだ!」

「流石は名宰相様じゃ!」


「感謝いたします、ラムザ様!」


 ……うんうん、死ぬほど感謝しろよ。



 村長たちが帰った後、内務官が青い顔付きで、慌ててやって来る。



「……さ、宰相様。城の蓄えはほとんどありませぬが!?」


 五月蠅い奴だな。

 とりあえず死刑にでもしてやろうか?



「なぁに、無いならあるとこからとって来るだけだろうが?」




――これが新たな長い戦乱の引き金となるのだった。

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