異世界傭兵物語

~ 物理と魔法を極めた最強の魔族になりました。仲間と楽しく冒険したり、領地経営もしちゃいます!~
黒鯛の刺身♪
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第五十一話……古代竜と背中の羽

公開日時: 2021年4月20日(火) 20:49
文字数:2,172

「お爺ちゃんを倒す!?」


 片付けが半ば終わったパーティー会場に、私の声が響く。



「ええ、倒して欲しいのです!」


 小さな角が生えている少女が、涙ぐんで言葉を繋ぐ。

 どうやら、嘘冗談では無いようだった。



「貴女様はどちらの御息女様ですかな?」


 スコットさんが恭しく尋ねる。

 今気づいたが、この少女の服装は貴族のものと思われた。



「わたくしはレーヴァティンの孫娘です」


「えっと、少々お待ちくださいね」


 聞きなれない名前に、スコットさんと書斎に行き、魔族が詳しく書かれた事典で調べる。

 そこには小さく記載があった。



「……!?」


 ……レーヴァティンとは、伝説のエンシェントドラゴンの名前であった。



――エンシェントドラゴン

 体力、魔力のみならず、その知性も人知を遥かに超える古代竜。

 ……つまり、ほぼ全能なる神に比肩する存在。



「……さ、流石に無理かな? お嬢ちゃん」


 急いで書斎から大広間に戻り、竜族の御息女に弁明する。

 そもそも、エンシェントドラゴンとは、存在するかどうかも謎なくらいの存在だったのだ。



「わたくしのお爺ちゃん病気なの……、助けて……」


 再び泣かれてしまう。

 ……しかし、古代竜って病気になるのかな?



「貴方の物になってあげるから、お願い!!」


 給仕係のオークの目線が痛い。

 ええっと、広間でそんなことを大声で言わないで欲しいな……。



「わかりました、執務室の方でお話をお聞きしますね!」


 竜族の少女をあやしながら、執務室に案内する。

 秘書のバンパイアであるイオの目線が、妙に生暖かい。



「……で、お爺ちゃんが病気だって話まで聞いたね」


「うん」


 泣き止んだ少女から、いろいろと事情を聴く。


 彼女の祖父は古代竜らしいが、半年前に不治の病気になったらしい。

 その後、病気見舞いに訪れた魔王アトラスの献上した薬を飲んだ後、さらにおかしい容体となってしまったようだった。

 古代竜曰く、もう治らないので、倒して欲しいとの事だった。



「おかしい容体ってどんなの?」


「アトラスのおじちゃんの言うことを聞かないと、気が狂っちゃて暴れちゃうの……」


 ……げ、魔王の言うなりとは怖いな。

 まぁ、本来騙されるはずは無かったのだろうけど、そこは病気中だしな。



「小隊長殿、戦場で巨大なドラゴンを見たという証言も、傭兵団からありましたぞ!」


 傭兵団からの連絡係でここにいる、シェル爺さんが口を開いた。


 ちなみに、傭兵団からの仕事は、今も継続的にこなしている。

 私が忙しく、直接に行かないだけで、ジークルーンやルカニ、バルガスなどが順番に仕事を受けていた。



「お爺ちゃんはね、戦場になんか行きたくないの!」


「……そうでしょうとも、古代竜に戦争に度々介入されては、魔族も人間も滅びかねませんからな!」


 頷くスコットさんの言い分と、少女の発言の趣旨は少し違う気もするが、結果としては同じことだった。



「まぁ、倒してあげればいいじゃろ!」


 いつの間にか執務室に入ってきた岩石王エンケラドゥス。



「我が盟友が、古代竜と親戚になれて悪い話じゃあない! わはは!」


「いやいや、どうやって倒すんですか? 古代竜ですよ!」


「戦闘だけに関しては、魔族屈指のパール伯爵を倒したお前さん以外に、適任なぞおらんだろ!?」


 ……くそう、あれはマグレな気がしてきたぞ。

 そもそも、あれって倒したのはポココなのでは?



「お爺ちゃんを助けて!」


「わかりましたよ! やればいいんでしょ! やれば!」


 半ばやけになりながらも、承諾することにした。

 ヤバかったら逃げて帰るとしよう。


 ……その後、1か月ほど岩石王にも協力してもらい、対ドラゴン戦を念頭に戦闘訓練を行ったのだった。




☆★☆★☆


 古代竜との戦闘の準備をしていると、



「小隊長殿! 急報です!」


「何事だ!?」


 私の代わりに、バルガスが大きな声で返事をする。


 急報を知らせてきたのは、旧知の傭兵団のメンバー。

 しかし、内容は人間では仲良くしている数少ない人物、ザームエル男爵からの救援依頼だった。


 受け取った書状によると、男爵が守っている小さな砦が、いきなり多数の小型龍族からなるズン王国軍に襲われたらしい。



「……旦那様、ひょっとしてこれは?」


「……かもねぇ」


 書状を覗き込んでくるスコットさん。

 多分、古代竜と魔王アトラスに関係しているだろう。

 魔王アトラスは、人間側の認識としては、新しいズン王国の王である。



「ガウ、先に救援に行ってあげたら?」


 マリーに言われ、レーヴァティンの孫娘の方を見る。



「そのようなお急ぎの要件があるなら、あとでも構いません」


 そう言ってもらえたので、とりあえずはザームエル男爵の救援を先にすることにしたのだった。



「バルガス! 皆の動員の準備を!」


「お任せあれ!」


 今度は討伐ではなく、戦争の援軍だ。

 此方も相応の人数を連れて行く手はずを頼む。



「イオ! 皆の食料と武器の用意を頼む!」


「かしこまりました!」


 秘書のバンパイアに兵站の準備を依頼する。



「急ぎ地図をくれ!」


「はっ! ここに!」


 地図を受け取り城の外へと出ると、納屋からドラゴを連れ出し、その背にマリーとポココを乗せる。

 私は鞄にスコットさんを詰め込むと、背中に力を込めた。



――メリメリメリ


 巨人の体の背中から、全幅8mもの蝙蝠のような大きい羽が生える。


 パール伯爵の心臓を食べてからというもの、背中がむずがゆかったのだが、その実は羽が生えかけていたのだ。


 ドラゴごと抱え、私は大空へと羽ばたいたのだった……。


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