異世界傭兵物語

~ 物理と魔法を極めた最強の魔族になりました。仲間と楽しく冒険したり、領地経営もしちゃいます!~
黒鯛の刺身♪
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第四十九話……魔王選出会議

公開日時: 2021年4月18日(日) 00:28
文字数:2,171

 日暮れにやってきた賓客は、背中に羽の生えた悪魔だった。


 レッサーデーモンのお供を二匹連れているそれは、スコットさんが言うにはアークデーモンという個体らしかった。

 思ったよりムキムキの悪魔である。



「パール伯爵ご討伐の儀、誠に祝着でございます……」


「ありがとう」


 アークデーモンは私の前に跪き、お祝いの言葉を重ねて来る。

 褒められて嬉しくない訳でもない。


 しかし、パール伯爵がいなくなったのは、彼等にとって何のメリットがあるのだろう?



「……さて、わが主ベリアルと致しましては、現魔王アトラスの横暴を許すわけにはいきません!」


「ほぉ」


 ……本題というやつだな。



「……で、我が主ベリアルが魔王となった暁には、ベルンシュタイン伯に公爵位、つまり魔族のロードの地位を進呈いたしたい!」


「……ははは」


 返答に困り、愛想笑いを返すが、魔族の公爵位とはそんなにいいモノのだろうか?



「……で、その為にはなにをすればいいんです?」


「さすが、お話が早いですな!」

「実は二週間後に開かれる魔王選出会議で、我が主を魔王にご推挙願いたいのです」

「当日の招待状はおってお送りいたします……」


 アークデーモンはそう告げるなり、早々に帰っていった。

 魔王の選挙でもするのだろうか?

 ……なんだか行ってみたいような、でも怖いような、そんな気持ちだった。




☆★☆★☆


「いってらっしゃい」


「いってきまーす」


 マリーに見送られ出発する。

 今回もドラゴに乗ることが出来た。

 鞄にはスコットさんを詰め、背中にはポココがしがみ付いた。



「旦那様、今回、ワシは留守番したいなぁ……」


「駄目!」

「駄目ぽこ~」


 死霊のスコットさんがいないと、魔族の仕組みとか風習とか全然分からない。

 行きたくないかもしれないが、連れて行かない選択肢は無かった。



 二週間かけて山を越え、森を抜けた。

 さらに高い山を登る。

 招待状にあった地図の場所には、小さくも古風な宮殿があった。


 庭には噴水や、奇麗に整備された花壇が見える。



「いらっしゃいませ、ベルンシュタイン伯爵でいらっしゃいますね」

「どうぞこちらへ」


 執事のグレーターデーモンに案内された部屋には、円卓がおかれ、椅子が9つ用意されていた。



「これはこれは、ベルンシュタイン殿ですな? 先日にあのパール殿を討伐されたそうで!」


「……あ、恐れ入ります」


 先に座っていた、肌が岩石のような大男に声を掛けられる。



「あ、申し遅れました。某、岩石王のエンケラドゥスと申す!」


 陽気なプロレスラーみたいな男だった。

 こういう人ばかりだと楽しいかもしれないが、その隣の男は無口で怖そうな男だった。



「……ども」


 会釈だけして、名札がおかれた席に着いた。


 他の出席者からも、私がパール伯爵を倒したということにお褒めを頂く。

 彼を倒したことは、そんなにすごいことだったのだろうか?



「皆さま、ようこそお集まりいただきました! 私、今回議長のベリアルと申します!」


 欠席者3名を除き、最後にやってきた魔物は、端正な顔立ちの細身の悪魔だった。



『……げ、あれはデーモンロードですぞ!』


 スコットさんが耳元でつぶやく。

 ……というか、魔王を決める会議なのだから、何が出てきてもおかしくなさそうだが。


 ベリアルは言葉を続ける。



「この度、600年ぶりにこの会議のメンバーが変わりました。パール伯爵に代わりまして、ベルンシュタイン伯爵となっております!」


――パチパチパチ


 衆目が私に移り、拍手を受ける。

 なんだか照れくさいね……。


「……さて、今回の議題は、先日魔王を勝手に僭称したアトラスについてです」

「我々、魔王選出会議はこれに抗すべく、新たな魔王を選出したいと思います!」


 9つの席の内、3つは空席だ。

 多分、現魔王アトラスとその派閥の魔族のものだろう。


「……では、皆さま他薦ということで……、先ずはパール伯爵をお倒しになったベルンシュタイン殿、いかがですか?」


 ……てか、いきなり御指名。

 とても緊張する。



「ベリアル殿で如何でしょうか?」


 出来レースに参加して興ざめな気もするが、一応頼まれたので推挙しておく。


 ……魔王を決める会議だから、さぞや揉めるだろうと気をもんでいたのだが、あっさりとベリアル氏に決まった。



「あ~はっはっは、やはりこの地上一美しい私に決まってしまうのですね!」


 ベリアルさんが何故か突如ハイテンションに……。

 そこへ隣の岩石王が耳打ちしてくる。


『彼は良い男なのですが、その、若干ナルシストでしてな、ははは……』


 ……ははは、次期魔王様はナルシストなんですね。




☆★☆★☆


 その後、魔王就任の御祝のパーティー会場に移動する。

 豪華な料理と果物、そして高級酒が並ぶ。


 ここには、会議出席メンバー以外に、100名ほどの高位の魔物が出席していた。



「怖いポコ~」

「全く、場違いですな!」


 そういうのは、ただの死霊に、ただのタヌキ。

 かくいう私も、少し前まではただの巨人でしかなかったのだが……。



「まぁ、硬くおなりになるな」


 私のグラスに果実酒を注いでくれるのは、先ほど知り合った岩石王のエンケラドゥスさん。

 我々3名の緊張を解してくれた。



「まぁ、でもですな、これで魔族も二派にわかれますな……」


 心配そうな岩石王。



「……でも、魔王って自称って多くいらっしゃるんでしょう?」


 そう言ってみると、



「いやいや、今回はそうではないんですよね……」


 ……魔族の内情も人間様と同じく複雑であるようだった。


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