――二週間後
「ベルンシュタイン公爵様、古代竜討伐の儀、誠におめでとうございます!」
我がベルンシュタイン城において、魔族による古代竜の討伐記念パーティーが開かれていた。
どうやら、魔族に産まれたもので有史以来、古代竜に勝ったものはいないとのことだった。
よって、地域の魔族の英雄として、周辺の魔族の御祝を受けることになったのだ。
用意された沢山の美味しい料理が湯気をあげ、山海の珍味がテーブルを彩った。
冷やされたグラスに、珍しい酒や果実も並んだ。
「公爵殿! 流石ですな!」
「いやいや、ベルンシュタイン様ならやってくれると信じておりましたぞ!」
「ベルンシュタイン殿は一人だけ、昔から眼の色が違ってござった!」
「流石は天才ベルンシュタイン殿!」
果実酒を片手に、次々に祝辞を受ける。
相手をするのも大変な数だった。
有名人になったら、突如知らない親戚が増えるという話は本当だった。
中には赤ん坊のころの私を、よく知っていると言い出す人物さえ出現したのだ。
「公爵様、実はお話が……」
「……え?」
魔物に混ざって、人間の有力者商人もパーティー会場に出席していたのだ。
「是非とも、そちらの特産品を扱わせて頂きたい! 扱わせて頂いた暁には、公爵様に我が娘を差し出す所存!」
「……はぁ」
今は人間の姿をしているので、違和感が少ないのだが、自らの利益の為に魔物に娘を差し出すっていうのは、どういう感覚なのだろう。
まぁそのうち、魔物と人間が交わる社会になれば普通になるのだろうか……。
自分の娘を差し出して、利益を得ようとする人間の商人は更に複数現れた。
何だか、釈然としない……。
「あ、あの、ガウ様! この度は有難うございました!」
……今度は、古代竜の孫娘、アイリーンの登場だった。
「約束通り、私を貰ってくださいまし!」
確かに依頼として、古代竜の件は片付けた。
きっと、彼女も行くところが無いのだろう……。
だがしかし、この少女はあまりにも幼かったのだ。
実に対応に困る。
……しばし、思案したのち。
「わかりました! 3年後にお迎えにあがりましょう!」
という風に、逃げたつもりだったのだが、
「有難うございます。では、あと3年、この屋敷に住まわせてもらいますわ!」
……う~む。
追い出したところで、古代竜の孫娘が誰かに誘拐されてはかなわない。
結局、部屋を与えて住まわせることにしたのだった。
☆★☆★☆
――その晩
私が床に入っていると、
「ガウ……」
「ん?」
マリーが私の寝室のドアを開ける。
いつものように、怖い夢でも見たのだろうか?
「眠れないの?」
「……うん」
「ガウがなんだか遠い存在になっちゃいそうで……」
私は眠い目をこすって、体を起こす。
「私はどこにもいかないよ、……おいで」
「うん……」
マリーに手招きし、自分の毛布の中へと入れてあげる。
彼女の体はいい匂いがし、とても温かかった。
「……ガウ、好き」
「ありがとう、私もマリーが好きだよ」
赤らめた顔をするマリーの頭をそっと撫でてやり、眠るまで抱きしめてあげた。
……で、翌日は二人そろって寝坊したのだった。
☆★☆★☆
――三日後。
背中が痒いとかいていると、自分の肌に小さな鱗のようなものが生えていることに気づく。
「……げ? なんだろ、これ!?」
変な皮膚炎かと心配していると、現在メイド見習いをしている竜族のアイリーンが教えてくれた。
「それはきっと、エンシェント・ドラゴンの【再生の光】を浴びたからだと思いますわ!」
「……え? それってどうなるの!?」
私は全身鱗に覆われ、魚のようになってしまうのだろうか?
それはちょっとぞっとしない。
「詳しくはわかりませんけど、【再生の光】を浴びたものは、人知を超える強力な力を手にするという伝説がありますわ!」
「本当!?」
強くなるかもしれないと分かって、現金にも嬉しくなる。
「是非強くなって、竜族の私に相応しい旦那様になってくださいね!」
「ははは……」
強さも色々代償があるものだと、少し笑ってしまった。
――数日後の訓練時
「旦那様!? なんですか、その桁違いな魔力は?」
【再生の光】の効果は眉唾物ではなく、すぐにスコットさんが驚くような魔法力を発揮できるようになっていた。
「あはは! 凄いな、ガウ殿!」
丁度遊びに来ていた岩石王ことエンケラドゥスにも、呆れられ笑われる。
皆が驚くほどの力を、私は手に入れたのだった。
……ふと前世の記憶と情景がよみがえる。
『こんな戦士になりたかったなぁ……』
私はしがない学生のころ、3cmくらいのTRPG用の金属フィギュアに夢を馳せた。
右手には長剣、左手には大きな盾。
『こんな勇士で伝説のドラゴンと渡りあってみたかったなぁ……』
フィギュアを手にして眺める昔の私の姿が浮かぶ。
……もう私は、あの頃憧れた竜に立ち向かう戦士に成れたのではないだろうか?
そう、きっと願いはかなったのだ……。
憧れの強い戦士に。
この世界の私は決して弱くない。
とても強くなったのだ。
自分だけではなく、誰かも守れるほどに……。
私は気持ち良い高揚感に包まれ、どこかにいるかもしれない神に感謝したのだった。
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