「敵襲! 敵襲!」
若いケンタウロスが走りながらに、古城まで敵襲を知らせて来る。
我がベルンシュタイン領は広大な領域にまで広がっており、領境のことまで一人で把握するのは困難となっていた。
「御領地の最南端に、侵入者が現れました!」
私は古城の執務室で急報を聞いた。
領域南側のケンタウロスのアルデバランJrに任せた土地に、どうやら敵が侵入した様だった。
「侵入者は一体どんな奴らだ!?」
「はっ、人間族、オーク族、ゴブリン族の混成部隊のようですが、その数が5000を超えております!」
「5000だと!?」
ケンタウロス達は精強だが、年寄りや子供を合わせても300を少し超えると言った位の数しかいなかったのだ。
抗戦するには援軍が必要な情勢だった。
「バルガス! ルドルフ! 城にいる部隊を全て引き連れて援軍に行ってくれ!」
「ははっ!」
「お任せください!」
オークの首領バルガスと、リザードマンの族長ルドルフに出撃を命じる。
「旦那様は動かれないので?」
死霊のスコットさんに問われる。
「少し様子を見てみようと思う。今まで我が領域に敵は来なかったよね? それがなぜ今になって大軍が攻めてきたのか謎なんだよね……」
「そう言われれば、そうですな」
スコットさんも頷く。
「そうそう、私たちの支配地って、特に魅力がないものね……」
「魅力ないポコ!」
マリーもポココも同感のようだった。
古城の周りは少し栄えてきたが、ベルンシュタイン領は基本的に、荒れ地を買い取ったものである。
侵入者が欲しがるような豊かな農地などは、あまりなかったのだ。
☆★☆★☆
――5日後。
「バルガス殿からの書状です!」
「ありがとう!」
伝令役のオークから羊皮紙の巻物を受け取る。
中を読むと、敵情が記されてあった。
――ご報告。
敵はズン王領からやってきたものと思われる。
が、統制はとれておらず、正規の軍隊ではない模様。
戦局はやや優勢。
しかし、何故5000もの数が攻めてきたのかは、いまだに不明。
……とあった。
「ふむう、何か分かったら、又知らせてくれと伝えといてくれ!」
「はっ!」
☆★☆★☆
全容が判ったのは、侵入者が現れてから2週間が経ってのころだった。
このころになると、我が領だけでなく、パウルス王領全域にズン王領からの大規模な侵略が為されているとの情報が入っていた。
驚くべきは、その総数が10万を超えるという途方もない数だった。
「一体どこから湧いて来たんだ?」
「隊長、それがですねぇ……」
情報を届けてくれたのは、ライアン傭兵団所属のシェル爺さんだった。
私は今でも一応は、ライアン傭兵団の第3小隊の隊長である。
「実は、あいつらは軍隊と呼べるものじゃないんですよ!」
シェル爺さんの説明によると、ズン王国は新たな王の下、新方針が定められたらしい。
それによると、これから新たに侵略した領地は、全て自分のものにしていいとの規則らしい。
それは貴族階級だけでなく、一介の村民であろうとも、王や領主になれる夢が叶うという画期的なものであるらしい。
その為に、希望者が殺到。
更にはその好条件により、パウルス王国側から裏切る者も多数出現。
これだけの数の侵攻部隊となったようだった。
「ズン王領は税率が引き上げられ、食べていけない者も大量に出ているらしいですしな……」
「なんかイナゴの群れみたいな感じだなぁ……」
食えないから隣の畑を襲っちゃえ!
……みたいな感じなのだろうか?
しかも、手に入れた土地は好きにしていいというなら、頑張る者も多数出るだろう。
今までの戦争は貴族同士の利権によるものだったのだが、それが大規模に庶民間にも広がった感じであった。
……きっと、この施策を考えたヤツは、生き物の欲というモノを敏感に嗅ぎ分けられる知恵者に違いない。
ある種、最も恐るべきモンスターの使い手といった感じがしたのであった。
☆★☆★☆
――さらに2週間後。
「サバフ男爵殿、敗死!」
「ハドソン公爵率いる王国軍は北方へと撤退中!」
「ザームエル男爵からは、援軍が欲しいとのことです!」
パウルス王国軍は一敗地に塗れていた。
古城に来る使者は、全て援軍を乞う者ばかり。
しかし、此方も増えた戦線に対し、ルカニのゴブリン部隊を投入したので、私に援軍を送る余力は無かった。
「困ったポコ」
「う~ん」
「そういえば、旦那様は魔王ベリアル様の即位に協力したのですから、ベリアル様に協力を要請しては如何でしょう?」
皆で悩んでいた時、案を出してくれたのは、古代竜の孫ことアイリーンだった。
「それは良いかもね!」
「いい考えポコ!」
「しかし、相手は魔王様。失礼がないように、旦那様が直々に行かれた方がよろしいかもしれませんね!」
……そういうものなのか。
しかし、このまま耐えていてもじり貧だ。
何かをした方が良いかもしれない。
「幸い、ベリアル様のお屋敷はズン王国内。情勢偵察もかねて良いかも知れませんな!」
「私も行ってみたい!」
「行くポコ!」
スコットさんのみならず、マリーもポココも賛成の様だ。
「じゃあ、イオにお留守番頼める?」
「はい、でもできるだけ早く帰って来て下さいね!」
「了解!」
秘書のイオは、高位のバンパイアである。
魔法で姿を私そっくりに変えて、しばらく影武者として留守番してくれることになった。
私達はドラゴに荷車をつけ、荷物を載せて、急いで魔王ベリアルの屋敷へ向かったのであった。
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