異世界傭兵物語

~ 物理と魔法を極めた最強の魔族になりました。仲間と楽しく冒険したり、領地経営もしちゃいます!~
黒鯛の刺身♪
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第三十五話……環濠集落の半人半馬

公開日時: 2021年3月24日(水) 15:28
文字数:2,105

――古城の片隅。

 私とポココは、なんと正座をしていた。



「ぽこ~」


「……いや、面目ない」


 マリーにお金を借りようと思ったのだが、丁度マリーは領都で、傷ついた傭兵団の一人と遭って来たらしい。



「ガウ! ポコ! 私達が苦しいときに、手を差し伸べてくれた優しい人達のこと忘れたの?」


「忘れてないです」


「ぽこ~」


 仕事がない私たちを優しく扱ってくれたのは、領都の傭兵団の人達だけだった。

 それを忘れたように、私が溶鉱炉にかまけてしまったのを、マリーはとても怒っているのだ。



「ガウ、明日すぐに助けに行くわよ! 今日は早く寝ましょう!」


「……は、はい」


 ……その晩、私とポココはいそいそと寝室に入ったのだった。




☆★☆★☆


――翌朝。


「出発!」


 いいお天気の下、いつものようにドラゴに荷物を預け、勇ましく歩を進める。

 今回の道案内は、マリーが昨夜連れてきた傭兵だった。


 傭兵は左手と顔を負傷しているようだった。



「皆さん、こっちの道でさぁ!」


「了解! はいよっ」


 我々は以前手に入れた軍馬に跨り、道なき道を駆けて行った。




――さらに二日後。



「この森を抜けたあたりです!」


「わかりました!」


 さらに30分ほど馬で駆け、うっそうとした森を突っ切る。

 ところどころに野生動物も顔をみせた。


 森を抜けた先には、柵を張り巡らせた環濠集落があった。

 柵の中に、布張りのテントもいくつか見える。



「団長とこの辺りで別れたんです!」


 左手の怪我をかばいながら、団員は答える。


 ……しかし、ここはゴブリンの巣かな?

 小さな遠眼鏡で、集落の様子を探った。



 ……しかし、


――ビシッ


 突然、目の前の草むらに矢が刺さる。



「貴様ら、何者だ!?」


 大きな声のする方角を見ると、馬の体の上に逞しい人の体が付いていた魔物が4体、こちらに弓を構えている。



「……げ、ケンタウロス!?」


――ケンタウロス。

 草原に住む、半人半馬の強力な魔物。

 知能はソコソコ高く、理知的な話も出来るが、排他的な性格がネックだった。



「みんな逃げろ!」


「ぽこ!?」


 ポココをマリーの馬に預けると、先導してくれた傭兵にも逃げるように促した。

 単体ならともかく、彼らの集落の近くで戦うのは自殺行為だったのだ。



「待て! 我が集落を見たものは逃がさん!」


「させるかぁ!」


 マリーたちの方へ向かったケンタウロスの首筋に、素早く矢を放つ。

 どうっと、矢が刺さった一体のケンタウロスが倒れる。



「貴様、歯向かうか!?」


 残り3体のケンタウロスがコチラに向き直る。



「掛かってこい!」


 ……と、挑発してみるものの、



――ピィィイイー!


 ケンタウロスは突然、カン高い笛を吹き鳴らす。


 不味い!

 仲間を呼ぶ笛だろう。


 集落の感じからして、100~150体は居そうな気配だったのだ。



「はいや!」


 私は馬に跨り、マリーと反対方向の森の中に逃げる。



「待て! 人間の小僧!」


 必死に馬を走らせ逃げるも、やはり相手の方が馬術は上で、あっという間に追いつかれた。



「行け!」


 仕方なく、あきらめた私は馬を降り、馬だけ逃がした。



「観念したか、小僧!」


 ケンタウロスが笑いながら近づいてくる。



「否、これからだ! エンチャント・ストレングス!」


 私は巨人の姿に戻り、筋力増加の魔法を掛ける。

 体内に魔力が滾るのを感じた。



「……スコットさん、出てきて!」


「こ、今回は、出たくなかったんですが……」


 森の奥地なので、陽の光は入らない。

 ……しかし、出てきたくなかったようだ。


 彼は小さな鎌を掲げて、しぶしぶカバンから出てくる。



「貴様! 面妖な巨人だな!」

「……だが、変わらぬ! 我が矢の餌食と成れ!」


 ケンタウロスに放たれた矢に抗するため、背中に担いでいた盾を構える。


――ガスッ!

 矢が盾に刺さるや否や、



「痛いぞ! 何奴!?」


 ……盾に描かれた絵が、いきなり声を出して怒った。

 盾が怒ったというべきだろうか?



「汚らわしい獣人め! 我が力思い知れ!」


 盾に描かれた顔が、突然に劫火を滝のように吐き出し、ケンタウロス1体を炎に包んだ。



「ギャアァア!」


 炎に包まれたケンタウロスは、あっという間に焼け死んでしまう。

 あまりのことに敵だけでなく、私も驚く。


 ……が、私はこれを好機と見て飛び掛かり、もう1体のケンタウロスの首を剣で薙ぎ払う。



「この化け物がぁ!」


「お互い様だ!」


 私は化け物扱いしてきた残りの1体と切り結び、僅か二合で切り伏せた。



「流石、旦那様!」

「主殿、やるな!」


「世辞は後だ、逃げるぞ!」


 スコットさんを再びカバンにしまい込み、しゃべる盾も担ぎ、獣道を駆ける。

 新手が来る恐怖を背中に感じながら、ひたすら走った。



「旦那さま! もっと早く走って!」

「主殿、もっと早く!」


 五月蠅い二人にせっつかれ、雑木林を抜けると……、



「うあぁああああ!」


 ……そこは切り立った崖だった。




――ジャボーン


 勢いよく落ちた先は滝つぼで、一気に下流まで流される。

 途中、何度か岩肌に体を叩きつけられるも、しばらくして、河原に流れ着いた。



「げほっげほっ」


 咽びながら、水辺から上がる。

 しかし、水辺を介したことで、逆にうまく逃げることが出来たかもしれない。




「旦那様、寒いですな……」


「もう少し下流に逃げるまで、火は焚けないよ」


 寒がるスコットさんを宥め、さらに下流を目指しながら、駆け足で逃げるのだった。


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