――古城の片隅。
私とポココは、なんと正座をしていた。
「ぽこ~」
「……いや、面目ない」
マリーにお金を借りようと思ったのだが、丁度マリーは領都で、傷ついた傭兵団の一人と遭って来たらしい。
「ガウ! ポコ! 私達が苦しいときに、手を差し伸べてくれた優しい人達のこと忘れたの?」
「忘れてないです」
「ぽこ~」
仕事がない私たちを優しく扱ってくれたのは、領都の傭兵団の人達だけだった。
それを忘れたように、私が溶鉱炉にかまけてしまったのを、マリーはとても怒っているのだ。
「ガウ、明日すぐに助けに行くわよ! 今日は早く寝ましょう!」
「……は、はい」
……その晩、私とポココはいそいそと寝室に入ったのだった。
☆★☆★☆
――翌朝。
「出発!」
いいお天気の下、いつものようにドラゴに荷物を預け、勇ましく歩を進める。
今回の道案内は、マリーが昨夜連れてきた傭兵だった。
傭兵は左手と顔を負傷しているようだった。
「皆さん、こっちの道でさぁ!」
「了解! はいよっ」
我々は以前手に入れた軍馬に跨り、道なき道を駆けて行った。
――さらに二日後。
「この森を抜けたあたりです!」
「わかりました!」
さらに30分ほど馬で駆け、うっそうとした森を突っ切る。
ところどころに野生動物も顔をみせた。
森を抜けた先には、柵を張り巡らせた環濠集落があった。
柵の中に、布張りのテントもいくつか見える。
「団長とこの辺りで別れたんです!」
左手の怪我をかばいながら、団員は答える。
……しかし、ここはゴブリンの巣かな?
小さな遠眼鏡で、集落の様子を探った。
……しかし、
――ビシッ
突然、目の前の草むらに矢が刺さる。
「貴様ら、何者だ!?」
大きな声のする方角を見ると、馬の体の上に逞しい人の体が付いていた魔物が4体、こちらに弓を構えている。
「……げ、ケンタウロス!?」
――ケンタウロス。
草原に住む、半人半馬の強力な魔物。
知能はソコソコ高く、理知的な話も出来るが、排他的な性格がネックだった。
「みんな逃げろ!」
「ぽこ!?」
ポココをマリーの馬に預けると、先導してくれた傭兵にも逃げるように促した。
単体ならともかく、彼らの集落の近くで戦うのは自殺行為だったのだ。
「待て! 我が集落を見たものは逃がさん!」
「させるかぁ!」
マリーたちの方へ向かったケンタウロスの首筋に、素早く矢を放つ。
どうっと、矢が刺さった一体のケンタウロスが倒れる。
「貴様、歯向かうか!?」
残り3体のケンタウロスがコチラに向き直る。
「掛かってこい!」
……と、挑発してみるものの、
――ピィィイイー!
ケンタウロスは突然、カン高い笛を吹き鳴らす。
不味い!
仲間を呼ぶ笛だろう。
集落の感じからして、100~150体は居そうな気配だったのだ。
「はいや!」
私は馬に跨り、マリーと反対方向の森の中に逃げる。
「待て! 人間の小僧!」
必死に馬を走らせ逃げるも、やはり相手の方が馬術は上で、あっという間に追いつかれた。
「行け!」
仕方なく、あきらめた私は馬を降り、馬だけ逃がした。
「観念したか、小僧!」
ケンタウロスが笑いながら近づいてくる。
「否、これからだ! エンチャント・ストレングス!」
私は巨人の姿に戻り、筋力増加の魔法を掛ける。
体内に魔力が滾るのを感じた。
「……スコットさん、出てきて!」
「こ、今回は、出たくなかったんですが……」
森の奥地なので、陽の光は入らない。
……しかし、出てきたくなかったようだ。
彼は小さな鎌を掲げて、しぶしぶカバンから出てくる。
「貴様! 面妖な巨人だな!」
「……だが、変わらぬ! 我が矢の餌食と成れ!」
ケンタウロスに放たれた矢に抗するため、背中に担いでいた盾を構える。
――ガスッ!
矢が盾に刺さるや否や、
「痛いぞ! 何奴!?」
……盾に描かれた絵が、いきなり声を出して怒った。
盾が怒ったというべきだろうか?
「汚らわしい獣人め! 我が力思い知れ!」
盾に描かれた顔が、突然に劫火を滝のように吐き出し、ケンタウロス1体を炎に包んだ。
「ギャアァア!」
炎に包まれたケンタウロスは、あっという間に焼け死んでしまう。
あまりのことに敵だけでなく、私も驚く。
……が、私はこれを好機と見て飛び掛かり、もう1体のケンタウロスの首を剣で薙ぎ払う。
「この化け物がぁ!」
「お互い様だ!」
私は化け物扱いしてきた残りの1体と切り結び、僅か二合で切り伏せた。
「流石、旦那様!」
「主殿、やるな!」
「世辞は後だ、逃げるぞ!」
スコットさんを再びカバンにしまい込み、しゃべる盾も担ぎ、獣道を駆ける。
新手が来る恐怖を背中に感じながら、ひたすら走った。
「旦那さま! もっと早く走って!」
「主殿、もっと早く!」
五月蠅い二人にせっつかれ、雑木林を抜けると……、
「うあぁああああ!」
……そこは切り立った崖だった。
――ジャボーン
勢いよく落ちた先は滝つぼで、一気に下流まで流される。
途中、何度か岩肌に体を叩きつけられるも、しばらくして、河原に流れ着いた。
「げほっげほっ」
咽びながら、水辺から上がる。
しかし、水辺を介したことで、逆にうまく逃げることが出来たかもしれない。
「旦那様、寒いですな……」
「もう少し下流に逃げるまで、火は焚けないよ」
寒がるスコットさんを宥め、さらに下流を目指しながら、駆け足で逃げるのだった。
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