異世界傭兵物語

~ 物理と魔法を極めた最強の魔族になりました。仲間と楽しく冒険したり、領地経営もしちゃいます!~
黒鯛の刺身♪
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第五十五話……古代竜レーヴァティン【中編】

公開日時: 2021年4月28日(水) 20:57
文字数:2,062

『公爵様、ご武運を!』


 ここへ来る前に、レーヴァティンの孫娘に渡された、お世辞にも上等とは言えないネックレスを首に掛ける。

 流石にあの巨竜を相手にするのに、報酬がこのネックレスだけとはな……、と自嘲する。


 いざとなれば、すぐに逃げるようにマリーには伝えてある。

 私も逃げたい気持ちは山々なのだが、まぁここで終わる人生も悪くないのではと考えてしまう。



 ……想えば、二度目のこの世界での人生は、意外と好きに生きることが出来た。


 温かい家に、温かい仲間、温かい家族。

 そして爵位に城。

 さらに言えば、人知を超える戦闘力。


 前世の力ない私には、どれも望むべくもないモノばかりだった。

 この世界への感謝の証として、死地に赴こう。

 私はそう思ったのだった。



「旦那様、武者震いですか?」


「……いや、怖いだけだよ」


 我に返り、隣に浮遊するスコットさんに振り向くと、もう魔物も人間も逃げ散っており、無人の荒野が拡がっていた。

 もちろん正面には、古代竜レーヴァティンがそびえ立っていた。



「小僧、逃ゲヌノカ!?」


 低く小さい声が、空気を震わせる。



「実は、逃げ遅れた!」


 逃げるべきだったとも思った、自分としての正直な返答となった。



「……デハ、迷ワズ死ネ!」


――ゴォオオオ


 巨大竜が大気を吸い上げた後、一気呵成に炎を噴きつけてきた。



「くっ!」


 スコットさんを懐に隠し、盾を掲げ、歯を食いしばる。

 高温の輻射熱によって、衣服が焦げる。


 あまりの炎の勢いによって、足がくるぶしまで地面に埋もれてしまった。

 事前にマリーに炎耐性の防御魔法を重ね掛けしてもらっていなければ、この世界の素子にまで分解されていそうな威力だった。



「……ナ、何故生キテオル!?」


 古代竜が不思議そうに呟く。


 ……ふふふ、さあ反撃だ。

 私は不思議なくらい、この戦いに高揚していた。




☆★☆★☆


 鉄をも溶かす高温の炎のブレスを躱しながら、切り込むこと7度。

 ……しかし、相手に与えたのは足元へのかすり傷のみだった。


 魔剣イスカンダルによって、古代竜の魔力を幾ばくか吸い上げていたが、彼我の戦闘力が縮まることは無さそうだった。


「スコットさん、防御結界を頼む!」


「任せた!」


 私はスコットさんに防御を一任すると、高位魔法の詠唱に取り掛かった。



「開け荘厳なる冥界の門、七度我に魔神の力を付与させ給え! 秘儀・ダークロード・イリュージョン!」


 これはパール伯爵の十八番の魔法だった。

 過剰な魔力が飽和し、体のあちこちの毛細血管が切れる音がする。

 体への負荷は大きかったが、その効果は絶大だった。


 私の体は、その戦闘力を維持したまま7体へと分化した。

 つまりは戦力が7倍と化したのだ。



「出でよ! 屈強なる地獄の剣士たち! ドラゴントゥース・ウォーリアー!」

「炎の怪鳥よ! 我が敵を焼き尽くせ! ファイアー・フェニックス!」


 二人の私が魔法を唱え、五人の私が古代竜に斬りかかった。



「ク……、小癪ナ!」


 古代竜は大きいために、複数で纏わりつく私にイラついているようだった。

 召喚した竜牙兵も、古代竜の足元めがけて、一斉に攻撃を始めていた。


 更にはスコットさんの電撃魔法が、古代竜の頭部付近を襲う。

 古代竜は段々と失血し始めていたのだった。



「!?」


 最初は装飾品だと思っていたのだが、古代竜の左手にある腕輪の形に、既視感を覚える。


 ……!?

 あ、これは以前マリーに施されていた魔法封じの輪だ。

 ということは、古代竜は力を封じられたまま私と戦っているということになる。

 一体誰に施されたのだろうか?



「レーヴァティンよ、その左手の腕輪は何だ!?」


 気になったので、素直に聞いてみることにした。



「ナンダト? 余ノ腕ニ腕輪トナ?」


 どうやら古代竜自身には見えないようだった。

 ……どういうことだろう?



「うぐ!?」


 腕輪に気をとられていると、古代竜の鋭い爪によって、等身分身の体が二つ消滅させられた。



「開け荘厳なる冥界の門、七度我に魔神の力を付与させ給え! 秘儀・ダークロード・イリュージョン!」


 スコットさんに同じように時間を稼いでもらい、再び等身大の体をさらに7体召喚した。

 魔力の過剰使用に伴い、皮膚には禍々しい模様の痣が浮かんでくる。



「……旦那様、それ以上は……、もうその禁忌の術はお使いになりますな!」


 スコットさんが心配してくる。


 しかし、これを使わねば、エンシェントドラゴン相手に伍する方法がないのだ。

 使わないこと。

 それは死と同義であり、使わない手段は無かったのだ。




☆★☆★☆


「開け荘厳なる冥界の門、七度我に魔神の力を付与させ給え!……がはっ!」


 7度目の詠唱には、ついに失敗。

 詠唱効果どころか、口から血の塊を吐いてしまった。


 ……万策尽きたか!?



「旦那様!」


 スコットさんが心配してくる。

 しかし、6度目の詠唱からの攻撃で、古代竜の左目から光を失わせていた。


 古代竜の硬い表皮にも、生傷が目立ってきたのだ。

 こっちの攻撃がまるで無駄でもないようだった。


 ……あともう少し体が持ってくれれば。



――ガクッ


「だ、旦那様、しっかりしてください!」


 私は魔力の使い過ぎで、全身から力が抜けてしまい、左ひざを大地に着けてしまったのだった。

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