異世界傭兵物語

~ 物理と魔法を極めた最強の魔族になりました。仲間と楽しく冒険したり、領地経営もしちゃいます!~
黒鯛の刺身♪
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第五十四話……古代竜レーヴァティン【前編】

公開日時: 2021年4月26日(月) 23:17
文字数:2,108

『旦那様! 川の北岸に撤退していたハドソン公爵の部隊も攻勢に出ましたぞ!』


『わかった! 砦の方が落ち着いたらこっちへ来て!』


『了解です!』


 砦で防衛指揮を執るスコットさんと念話で連絡を行う。

 私のカバンの中には、大きな魔石が二つ入っていた。

 一つはリザードマン、もう一つはオーク・ロードのものだった。


 私の視界にも、ハドソン公爵が率いている部隊が現れる。

 彼等はズン王国軍の陣地に火を掛け、攻城兵器を焼き払っていた。



「……もう、そろそろ引き時かな?」


 私への依頼は、ザームエル男爵の砦の救援だったのだ。

 ズン王国軍への本格的な攻撃は依頼に入っていない。



「……待テイ、小僧!」


 引き上げようかとしていると、全長12mほどのドラゴンが話しかけてきた。



「我ガ陣営ヲ、好キ放題ニ荒ラシオッテ! ココニ首ヲオイテイケ!」


「嫌だ!」


 大きさは中型のドラゴンというところだが、知性があるタイプのようだ。

 これは魔法を使うドラゴンで、非常に厄介な相手であった。



「炎の聖霊よ、我が意を叶えたまえ! ファイ……」


「詠唱解除! デスペル・マジック!」


 最近身に着けた解呪魔法で、ドラゴンの魔法詠唱を一瞬で無効化してしまう。



「ナンダト!?」


 まさか、魔法が得意な巨人だとは思っていなかったようで、ドラゴンはとても驚いていた様だった。



――ズシャ


 驚いた一瞬の隙を突き、ドラゴに間合いを詰めさせ、魔剣イスカンダルによってドラゴンの首を跳ね飛ばす。

 魔剣イスカンダルを通じて、ドラゴンの魔力を全て吸収し、私のものとした。

 パール伯爵が名だたる強者だった理由を、今や私が手にしていたのだった。



「……ふぅ」


 ドラゴンの亡骸から現れた大きな魔石を鞄にしまうと、マリーたちが待つ砦の方へとドラゴの足を向け、走り出した。


「掛かれぇ!」

「魔族を皆殺しにしろ!」


 ハドソン公爵率いる騎士たちとすれ違う。

 彼等はこれを好機と見て、総攻撃をかけていた様だった。




☆★☆★☆


「ただいま!」


「お帰り!」


 砦に帰ると、マリーたちも負傷者の救護に一段落したところだった。



「ガウ殿、今回も世話になったな!」


 食事をとっているザームエル男爵に、改めて御礼を言われる。

 回復魔法の効果もあり、どうやら、もう体を起こしても大丈夫の様だった。



「男爵、今のうちに負傷兵を後送致します!」


「うむ、頼んだぞ!」


「しかし、貴公は恐ろしく強いな! 我が娘の婿にしたいくらいだ!」


「いやいや、私人間ではありませんから!」


 男爵にも年頃の娘がいるようだ。

 ……が、まさか魔物に嫁がせることはさせないだろう。

 娘さんも嫌がるに違いない。



「準備できたポコ!」


「ありがとう!」


 準備が出来た馬車に、負傷兵を順番に乗せていく。

 一応、魔法や薬で応急手当は施したが、しばらく安全な場所での療養も必要だったのだ。


「出発!」


 元気そうなライアン傭兵団のメンバーに御者を任せ、負傷者の後方輸送を任せたのだった。




☆★☆★☆


「ハドソン公爵の部隊はさらに進撃中!」


 砦で休息していると、伝令兵が報告してきた。


「この戦いは勝ったかな?」

「そろそろ、ガウ殿に払うお金の計算でも始めるかな?」


 ザームエル男爵が温かいスープを飲みながら、笑いながら呟く。

 この世界の戦争は、一旦形勢が傾くと、なかなか挽回することは難しいのだ。


 この小さな砦の中にも安心感が漂う。

 最前線がだんだんと遠ざかっているのが感じられるからだ。



――ズシィィィーン


 突如、地鳴りのような振動が走る。

 皆、砦内で休憩していたのだが、あわてて塔の上に登る。



「どうかしたか?」


「わかりませんが、あちらの方角から土煙が!」


 未だに夜明けは来ていない。

 よって、人間の眼など当てにはならなかった。

 見張りから遠眼鏡を受け取り、土煙の上がった方角を見る。



「!?」


 ハドソン公爵の騎士や兵士たちが逃げている。

 一体何があったのだろうか?


 畳んでいた背中の羽を拡げ、空に飛びあがって偵察を行った。

 土煙の方角から、200mもありそうな巨大な塔のような影が現れた。


 ……ん!?

 いや、影が動く。

 これは塔じゃない。



――ガォォォオオオ!


 突如、凄まじい咆哮が大気を震わせる。


 そう、巨大な塔に見えたのはドラゴンだったのだ。

 きっとあれが、エンシェント・ドラゴンのレーヴァティンだろう。

 まさに伝説の古代竜に相応しい、巨大で立派な姿であった。



 砦に戻ると、まだ農兵たちの姿があった。



「皆さん、早く逃げてください! 巨大なドラゴンが来ます!」


「オラたちだけ逃げてもいいべか?」


「構いません、私は今しばらくここで様子を見ます!」


「じゃあ、有難く帰らせてもらうべ」


 農兵たちに手を振り、別れを告げる。



「マリーはポココの影魔法の中に隠れて!」


「わかったわ!」

「ぽこ~♪」


 ポココを砦の地下室に隠す。

 地下だから安全とは限らないのだが……。



「スコットさんは私の支援をお願い!」


「出来たら、ワシも逃げたい……」


「駄目!」


 塔の上から再び南の方角を見ると、ハドソン公爵の騎士たちに交じって、魔物たちも逃げまどっていた。

 魔物も公爵の兵士も区別なく巨大竜に踏みつぶされていた。


 どうやら、この古代竜にとっては、全てが敵らしい。

 それとも薬の作用で正気が保てないのか……。

 どうやらその暴れっぷりからして、後者のようだった。

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