古城に戻った後。
情報収取に務めると、アトラスやベリアルを殺したのは、ズン王国の宰相ラムザであることがわかった。
「ガウ殿! 猶予はあと一か月で頼みたい!」
「わ、わかりました!」
ザームエル男爵は情報取集に協力してくれたが、あと一か月の間にこの問題を解決できねば、氷雪の巫女を討伐する軍を動かすとのことだった。
それだけ、この異常な長さの寒波により、パウルス王国の民が疲弊しているとのことだった。
背に腹は代えられない。
寒波を収束させるために、氷雪の巫女に強訴する構えだったのだ。
「でも、エドワードはどこにいるポコ?」
「……うん、分からないけど、先ずはラムザから何とかしよう!」
私達はドラゴに幌付きの荷車を牽かせ、吹雪の中、ラムザという男を探す旅に出るのだった。
☆★☆★☆
――1週間後。
「広いところポコね」
「大きいね!」
街道を昼夜分かたず疾駆し、ズン王国の王都の外壁に着く。
この王都はパウルス王国の王都より巨大で、その分、王都を囲う城壁は石造りではなく、簡素な土塁で覆われていた。
「よし、通って良し!」
「有難うございます!」
幻惑魔法と偽の通行証で、王都の城門を突破。
王都の中に入ることに成功した。
「ガウ、作戦はあるの?」
「ない。どうしよう?」
宿屋の二階で、これからどうするかマリーに問われる。
しかし、のんびりとしている時間は無かった。
「とりあえず、夜に忍び込んでみよう!」
「わかったわ!」
「わかったポコ!」
特別な作戦はない。
ただ単に闇に紛れ、宰相ラムザの邸宅に忍び込むことにしたのだった。
☆★☆★☆
邸宅に音もなく忍び込み、守衛を次々に気絶させる。
そして、執事のような老人を縛り上げることに成功した。
「宰相ラムザ殿はいずこ?」
「……存じ上げませぬ!」
「しゃべらぬと、この死霊が魂までも食らいつくすぞ!」
スコットさんが鎌を掲げながら脅す。
この世界では、死霊に魂を齧られると、死してもなお無限の苦しみを味わうという言い伝えがあった。
このため、老執事は顔を青くして、口を開いた。
「……宰相様は、今日は自室からお出になっておりません」
「そうか、では、エドワードという騎士はどこにいる?」
老執事は一瞬言葉を詰まらせるが、スコットさんの意味深な笑顔をみて、再び口を開いた。
「エドワード様は王城の地下牢にいらっしゃいます……、何卒お助けを!」
「約束は守る。だが、暫し眠ってもらうぞ!」
老執事にマリーが睡眠魔法を掛けると、老執事はスヤスヤと寝息を立て始めた。
「よし、時間がないから、これから手分けしよう! マリーとポココ、そしてジークルーンは王城の地下牢へ行って最重要目標の黒騎士エドワードの身柄の確保。私とスコットさんは宰相ラムザの捜索!」
「わかったわ! ガウ、気を付けてね!」
「気を付けるポコよ」
「そっちも気を付けてね!」
こうしてマリーたちと別れ、スコットさんと共に宰相ラムザの捜索を続けたのだった。
☆★☆★☆
廊下で出合う、メイドや衛兵たちを縛り上げながら進む。
次々に部屋の扉を開けて、内部を確かめていく。
「旦那様、どうやらここらしいですな?」
「……だね」
ひと際立派な扉が施された一室があった。
中に入ると、暗いながらも立派な調度品がおいてあるのが分かる。
……が、人の気配がない。
大の大人が5人も眠れそうな豪華な寝具があったが、そこにもラムザはいなかった。
「ラムザがいませぬな!」
「だけど、この屋敷で他に部屋はない。どこかに隠し通路でもないかな?」
あちこち家具を動かしてみた結果。
この巨大な寝具の下に、地下へと続く隠し階段を発見した。
「旦那様、ありましたな」
「うん、降りてみよう!」
私は地下へと続く、隠し階段を降りていった。
☆★☆★☆
階段を降りた先は、地下通路が続いていた。
かなり歩いただろうか……。
地下通路の突き当りにある、上へと続く梯子を経ると、小さな古井戸から外へ出た。
どうやら、ズン王都の外に出たらしい。
顔を上げると、雲一つなく星が奇麗だった。
「旦那様、あそこに人影がありますぞ!」
「……ああ」
人影に近づいていくと、その人影は豪奢な敷物の上に椅子とテーブルを並べ、高価そうな果実酒を嗜んでいるところだった。
「ズン王朝宰相閣下、ラムザ殿か!?」
「いかにも! 下郎、名を名乗れ!」
「……私の名は、ガウ・ベルンシュタイン」
私が答えると、彼は果実酒の入ったグラスをテーブルに置き、薄ら笑いを浮かべながらに問うてきた。
「かの有名な魔族のベルンシュタイン公爵殿か……、ご用は何事かな?」
「お命頂戴致したい!」
こう告げると、彼はもう一つグラスを用意し、果実酒を注いだ。
「……まぁ、そう言わず、君も飲まないかね? 今日は星が奇麗だ」
「貴方は、なぜ魔王ベリアルを殺めた? なぜ氷雪の巫女を悲しませる?」
私は知っていることを彼に聞いてみた。
「……なぁんだ、全部知っているのか? じゃあ生きて帰すわけにはいかんな!」
宰相ラムザがグラスをテーブルに置いた途端。
気が付いた時には、彼の剣が私の右わき腹に刺さっていた。
「ぐはっ!」
私は彼のテーブルに血をまき散らし、片膝をついた。
……一体何が起きた?
何も見えなかったぞ。
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