――パウルス王国領上空。
「旦那様! あの辺りが目的地ですぞ!」
スコットさんが鞄の中から騒ぐ。
まだ夕日が明るく、死霊である彼は外に出ることが出来ない。
「よし、降下するぞ!」
羽を畳み急降下すると、地上の様子が見えてきた。
パウルス王国の小さな砦が、今にも陥落しそうな勢いだ。
砦の塔や塀の上には、見覚えのあるライアン傭兵団が戦っていた。
敵は大勢、味方で無事に戦っているのは40名ほどといった感じだった。
「簡易発動! ヘイル・ストーム!」
予め魔法のスクロールに封じておいた範囲魔法を発動させ、辺り一面に大粒の雹の嵐を降らせた。
敵が怯んだすきに、大きめの塔に着陸。
デルモンドに灼熱の炎を、イスカンダルに凍てつく吹雪を吐かせた。
「ガウ殿か!? ご加勢有難し!」
「遅れ申した!」
一瞬誰かと思っただろうが、男爵と傭兵団のメンバーには、私が巨人だというのは伝わっている。
私は右手にミスリル製のロングソード、左手に魔剣イスカンダルを握り、風車の如く振り回し、群がる敵兵を次々になぎ倒した。
味方が立て籠もる塔の一角から敵を排除するのに成功すると、ドラゴンの小骨をばら撒き、
「開け、魔界の門! 甦れ、誉れ高き戦士たちよ! ドラゴントゥース・ウォーリアー!」
私の周囲から、竜骨兵が50体現れる。
彼等に念話で、辺りの敵を排除しつつ、砦の防衛体制を堅持するように伝えた。
「ザームエル男爵殿はご無事か!?」
「ここにおる!」
呻くような声が聞こえる。
男爵は石畳に敷かれた板の上で、負傷の為、寝かされていた。
「マリー、回復魔法を!」
「任せて!」
ポココも魔法の小物入れから、ポーションなどを取り出し、傷ついた傭兵団の救護に当たった。
……相手は、小型龍族のリザードマンが中心か!?
頼む、早く陽が沈んでくれ。
リザードマンはさほど夜間戦闘が得意ではない。
かつ此方は夜に強い闇魔法が得意で、スコットさんなどはそもそも夜間しか活動できなかった。
……とりあえず、もっとも気になったことを、ここの守将であるザームエル男爵に聞いてみた。
「ここには傭兵団しかいないようですよね? パウルス王国軍の正規兵はどこへ行ったのですか?」
「正規兵はハドソン公爵が引き連れ、川の北岸まで撤退致した! 我々は公爵率いる本隊の退却成功の為、ここを守っており申す! ガウ殿、指揮権を是非とも貴公に委ねたい!」
「承りました!」
痛みをこらえながら、声を絞り出す男爵。
この砦は捨て石なのだろうか?
しかし、これ以上聞くのは酷だろう。
又、この砦は完全に敵に包囲されていた。
敵を退けねば、男爵をはじめとした負傷兵を搬出することは叶わない。
今、戦える兵を数えると、ライアン傭兵団員が15名と農民兵が30名といったところ。
負傷者が100名を超えていたので、早く後方への連絡路を確保したいところだった。
「陽が沈んだポコ!」
ポココが日没を教えてくれる。
まだ、空は薄明るかったが、十分だった。
「出でよ、地獄の勇者たち! 再びこの世に兵の理を奏でよ!」
パール伯爵の心の臓を口にしたこともあり、私の闇系統の魔法力はかなりのモノとなっていた。
地中より一度に呼び出せた骸骨剣士は、200体を数えた。
「出でよ、地獄の剣士たち!」
スコットさんも骸骨剣士の召喚を行う。
二人で呼び出した骸骨戦士は、合計で1500体を数えた。
それは弓持ちやら、白骨馬に騎乗やらも含む、一つの軍団といった趣さえあった。
「……奴等、一体何奴ダ!?」
一旦退いていた敵方のリザードマンたちが驚く。
何しろ、人間主体のパウルス王国軍の助っ人に来たのが、死霊だらけの闇の軍団だったのだ。
「敵を排除せよ! かかれ!」
私は骸骨兵に、正面の敵への攻撃を命じた。
さらに正面攻撃の指揮をスコットさんに任せ、私は裏門からドラゴにのって敵陣に斬り込んだ。
「どけぇ!」
今の魔剣イスカンダルには、ランスの形になってもらっている。
それを構えて敵陣に突っ込む。
いわば、ランスチャージだ。
夜間、地上歩行型の小型ドラゴンに乗った、巨人による超重量級ランスチャージである。
軽装の敵リザードマンたちは、蜘蛛の子を散らすように逃げまどった。
「逃ゲルナ! 戦エ!」
敵の小隊長達が必死に叫ぶ。
――ドシュ!
私は叫ぶ小隊長めがけて、ランスを突き出し、次々にくし刺しにしていった。
返り血で鎧が赤く染まる。
今回は、巨人サイズに合わせたスケールメイルを着て来ていた。
今まで倒したドラゴンの鱗でできた一張羅である。
「炎よ、出でよ! ファイア・ボルト!」
時折に火炎魔法で、敵陣地のテントや糧食に火を掛けて回る。
それにより、敵陣の混乱は極みに達した。
「貴様、待テイ!」
ひと際大きなリザードマンが駆けて来る。
当方傘下のルドルフと同じく、全長4m以上もある巨大なリザードマンだった。
「お前が将か!?」
「ソウダ! 我ガ名ハ、バルバトス! 冥途ノ土産ニ覚エテオクガイイ!」
彼は巨大な槍を構え、自信満々の風貌だ。
多分、歴戦の勇者なのだろう。
「クラェ! 秘儀、殺槍術ノ舞!」
敵将バルバトスは、自慢の槍で鋭く何度も突いてきた。
その槍捌きは素早く、常人の眼には、まさに複数の槍が一度に現れる様であった。
……が、それは相手が常人であればということだ。
――数秒後。
「グハッ!」
敵将バルバトスは、魔剣イスカンダルの錆となったのだった。
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