異世界傭兵物語

~ 物理と魔法を極めた最強の魔族になりました。仲間と楽しく冒険したり、領地経営もしちゃいます!~
黒鯛の刺身♪
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第五十二話……敵将バルバトス 本文編集

公開日時: 2021年4月25日(日) 07:31
文字数:2,141

――パウルス王国領上空。


「旦那様! あの辺りが目的地ですぞ!」


 スコットさんが鞄の中から騒ぐ。

 まだ夕日が明るく、死霊である彼は外に出ることが出来ない。



「よし、降下するぞ!」


 羽を畳み急降下すると、地上の様子が見えてきた。

 パウルス王国の小さな砦が、今にも陥落しそうな勢いだ。


 砦の塔や塀の上には、見覚えのあるライアン傭兵団が戦っていた。

 敵は大勢、味方で無事に戦っているのは40名ほどといった感じだった。



「簡易発動! ヘイル・ストーム!」


 予め魔法のスクロールに封じておいた範囲魔法を発動させ、辺り一面に大粒の雹の嵐を降らせた。

 敵が怯んだすきに、大きめの塔に着陸。

 デルモンドに灼熱の炎を、イスカンダルに凍てつく吹雪を吐かせた。



「ガウ殿か!? ご加勢有難し!」


「遅れ申した!」


 一瞬誰かと思っただろうが、男爵と傭兵団のメンバーには、私が巨人だというのは伝わっている。


 私は右手にミスリル製のロングソード、左手に魔剣イスカンダルを握り、風車の如く振り回し、群がる敵兵を次々になぎ倒した。


 味方が立て籠もる塔の一角から敵を排除するのに成功すると、ドラゴンの小骨をばら撒き、



「開け、魔界の門! 甦れ、誉れ高き戦士たちよ! ドラゴントゥース・ウォーリアー!」


 私の周囲から、竜骨兵が50体現れる。

 彼等に念話で、辺りの敵を排除しつつ、砦の防衛体制を堅持するように伝えた。



「ザームエル男爵殿はご無事か!?」


「ここにおる!」


 呻くような声が聞こえる。

 男爵は石畳に敷かれた板の上で、負傷の為、寝かされていた。



「マリー、回復魔法を!」


「任せて!」


 ポココも魔法の小物入れから、ポーションなどを取り出し、傷ついた傭兵団の救護に当たった。


 ……相手は、小型龍族のリザードマンが中心か!?


 頼む、早く陽が沈んでくれ。


 リザードマンはさほど夜間戦闘が得意ではない。

 かつ此方は夜に強い闇魔法が得意で、スコットさんなどはそもそも夜間しか活動できなかった。


 ……とりあえず、もっとも気になったことを、ここの守将であるザームエル男爵に聞いてみた。



「ここには傭兵団しかいないようですよね? パウルス王国軍の正規兵はどこへ行ったのですか?」


「正規兵はハドソン公爵が引き連れ、川の北岸まで撤退致した! 我々は公爵率いる本隊の退却成功の為、ここを守っており申す! ガウ殿、指揮権を是非とも貴公に委ねたい!」


「承りました!」


 痛みをこらえながら、声を絞り出す男爵。

 この砦は捨て石なのだろうか?

 しかし、これ以上聞くのは酷だろう。


 又、この砦は完全に敵に包囲されていた。

 敵を退けねば、男爵をはじめとした負傷兵を搬出することは叶わない。


 今、戦える兵を数えると、ライアン傭兵団員が15名と農民兵が30名といったところ。

 負傷者が100名を超えていたので、早く後方への連絡路を確保したいところだった。



「陽が沈んだポコ!」


 ポココが日没を教えてくれる。

 まだ、空は薄明るかったが、十分だった。



「出でよ、地獄の勇者たち! 再びこの世に兵の理を奏でよ!」


 パール伯爵の心の臓を口にしたこともあり、私の闇系統の魔法力はかなりのモノとなっていた。

 地中より一度に呼び出せた骸骨剣士は、200体を数えた。



「出でよ、地獄の剣士たち!」


 スコットさんも骸骨剣士の召喚を行う。


 二人で呼び出した骸骨戦士は、合計で1500体を数えた。

 それは弓持ちやら、白骨馬に騎乗やらも含む、一つの軍団といった趣さえあった。



「……奴等、一体何奴ダ!?」


 一旦退いていた敵方のリザードマンたちが驚く。

 何しろ、人間主体のパウルス王国軍の助っ人に来たのが、死霊だらけの闇の軍団だったのだ。



「敵を排除せよ! かかれ!」


 私は骸骨兵に、正面の敵への攻撃を命じた。

 さらに正面攻撃の指揮をスコットさんに任せ、私は裏門からドラゴにのって敵陣に斬り込んだ。



「どけぇ!」


 今の魔剣イスカンダルには、ランスの形になってもらっている。

 それを構えて敵陣に突っ込む。

 いわば、ランスチャージだ。


 夜間、地上歩行型の小型ドラゴンに乗った、巨人による超重量級ランスチャージである。

 軽装の敵リザードマンたちは、蜘蛛の子を散らすように逃げまどった。



「逃ゲルナ! 戦エ!」


 敵の小隊長達が必死に叫ぶ。



――ドシュ!


 私は叫ぶ小隊長めがけて、ランスを突き出し、次々にくし刺しにしていった。

 返り血で鎧が赤く染まる。


 今回は、巨人サイズに合わせたスケールメイルを着て来ていた。

 今まで倒したドラゴンの鱗でできた一張羅である。



「炎よ、出でよ! ファイア・ボルト!」


 時折に火炎魔法で、敵陣地のテントや糧食に火を掛けて回る。

 それにより、敵陣の混乱は極みに達した。



「貴様、待テイ!」


 ひと際大きなリザードマンが駆けて来る。

 当方傘下のルドルフと同じく、全長4m以上もある巨大なリザードマンだった。



「お前が将か!?」


「ソウダ! 我ガ名ハ、バルバトス! 冥途ノ土産ニ覚エテオクガイイ!」


 彼は巨大な槍を構え、自信満々の風貌だ。

 多分、歴戦の勇者なのだろう。



「クラェ! 秘儀、殺槍術ノ舞!」


 敵将バルバトスは、自慢の槍で鋭く何度も突いてきた。

 その槍捌きは素早く、常人の眼には、まさに複数の槍が一度に現れる様であった。


 ……が、それは相手が常人であればということだ。


――数秒後。


「グハッ!」


 敵将バルバトスは、魔剣イスカンダルの錆となったのだった。

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