「とても遅いな。残念だが、魔族である貴様の限界はそこらあたりかな?」
ラムザは私のわき腹から剣を抜くと、せせら笑った。
私は傷口を抑え、痛みを堪えながらに後ろに飛びのく。
「貴様、いったい何をした?」
私は急いで回復魔法を傷にかけながら、疑問を口から吐きだす。
「いや、速く動いてみたまで! 下等なお前には分からぬ速さでな!」
……う、うそだろ?
全く見えなかったぞ。
正直、こんな戦力差は味わったことがない。
第一撃で死ななかったことが、とても幸運に思えた。
とりあえず、できることをせねば……、
「炎の聖霊よ、我が肉体に力を! エンチャント・ストレングス!」
契約した精霊から魔力が流れ込み、力が滾るのを感じる。
筋肉も盛り上がり、皮膚が硬質化した。
……この状態は、短期間で言えば、単純筋力で通常の6倍増といったところだった。
「ほう、ガタイだけは良くなったようだな?」
余裕の表情のラムザに、攻撃の気配はない。
私はさらに、周囲の空気が振動するほど闇の魔力を滾らせる。
「開け荘厳なる冥界の門、七度我に魔神の力を付与させ給え! 秘儀・ダークロード・イリュージョン!」
暗黒精霊と契約して得ていた、闇の魔力も発動。
7つの分身を作り上げた。
ちなみに、この分身は実体を伴っており、剣技や魔法で攻撃することもできた。
「ほぉ、8体に分化したか? 面白い小細工をするな!」
「……だが」
ラムザはそう言い終わるや否や、私の分身の一体の首を跳ね飛ばした。
分身は魔力で体を維持できず、消え去ってしまう。
「……!?」
……この攻撃も見えなかった。
流石にどうしていいのか分からない。
背中に嫌な汗が、滝のように流れるのを感じ取る。
「ファイアー・ボルト!」
「アイス・ストーム!」
「サンダー・ブラスト!」
私の分身の魔法が次々にラムザを襲う。
……が、彼が纏う青白いオーラが全ての魔法を打ち消したのだ。
――ガキン!
――ガキン!
分身の一体が剣戟を行うも、同じく青白いオーラに弾かれる。
どうやらラムザは、自分の体から溢れ出す規格外の膨大な魔力で、バリアのようなものを形成していた様だった。
「効かぬぞ、下郎! 攻撃はそれだけか?」
「大地よ咆えろ! 大気よ唸れ! 石礫を雨の如く降らせたまえ! メテオストーム!」
私の後ろで詠唱していたスコットさんの大魔法が発動。
ラムザの周りに、小さな魔法陣が幾千万と描かれる。
――ドババババババ
目の前が真っ白に明るくなるほどに、空からラムザめがけて大量に石が降って来る。
落石の速度はとても速く、空気との摩擦で赤熱していた。
その一つ一つは小さくとも、その数は数万数千といった感じだった。
凄まじい土煙があがり、周囲の構造物まで軒並み破壊された。
……が、
「……ふぅ、おもしろい余興だな!」
ラムザは土煙の中から無傷で現れる。
「……ば、馬鹿な?」
スコットさん渾身の一撃だったのだ。
それが全く効かないという結果に、スコットさんは私のカバンの中へいそいそと戻ってしまった。
「……くくく、所詮はそのようなものよの。しかし、お前たちは十分に強い。これは神とその他の者との決定的な差なのだ。諦めて死ぬがよい!」
……神だと?
奴はなんらかの手段で、神の力をも持っているのか?
「光よ、闇よ、一時だけその蟠りを解け! ダーク・アンド・ライトフレア!」
私は左手から闇属性魔法、右手から光属性魔法を展開。
スパイラル状に混成して、神と宣うラムザに叩きつける。
――ビシッ
しかし、その混成魔法もラムザの纏うオーラによって跳弾。
空の彼方で爆散した。
……あらら、とっておきだったのだけどな。
もはや、私に手は何も残されていなかった。
正真正銘、最後の一撃だった。
良いことといえば、ここにマリーやポココ、ジークルーンたちがいないことだった。
……あとは、
「彼方へと運び去れ! エアー・キャリアー」
私はスコットさんの入っていた鞄を放り投げ、魔法の力で彼方の向こうへと運び去った。
「……これで良し」
「何が良いんだ?」
どうやら、こちらの独り言がラムザの耳に入ったようだ。
「貴様には関係ない!」
「神と言えども、刺し違えて見せる!」
「……ほざけ!」
ラムザは余裕をもって一笑に付すのみ。
「顕現せよ! 暗黒精霊デス・サイズ! 其方の悪の総意をもって敵を屠れ!」
私は魔法力のあらん限り、多数の分身を作り出し、分身を含めて持ち得る全ての魔法をラムザに叩きつけた。
――
光条が迸り、数多の光球が産まれる。
様々な種類のエネルギーの爆発が、ラムザを押し包んだ。
「……げ?」
土煙から姿を現したラムザは、傷一つないどころか、その纏う衣服さえ傷ついてはいなかった……。
「ふはは、流石はベルンシュタイン! 魔族最強と謳われたパール伯爵を倒しただけはある!」
「……が、神である俺様からすれば、ゴミのような魔力だがな!」
「くそっ!」
私は右手に魔剣イスカンダル、左手にミスリル鋼の愛剣を握りしめ、ラムザに斬りかかった。
同時に分身たちにも斬りかからせる。
「ぐはっ!?」
目に見えないほどの動きで、ラムザは私の分身の全てを叩き切り、そして本体たる私の腹にレイピアを突き立てた。
「痛いか? ベルンシュタイン?」
そう言って、ラムザは魔力を注入したレイピアを回しながら捻り込んでくる。
「ぎゃぁあああ!」
内臓が千切れる音がし、あまりの激痛に頭が真っ白になる。
私は膝から力が抜け、仰向けに倒れてしまった。
――ドスゥ
「うっ!?」
鳩尾を殴られる。
少し胃のものが遡り、その場に蹲る。
――ドスッ
「あがっ!」
倒れたところを、更に若い女に股間を蹴り上げられる。
「冴えないオッサンはどうせココは使わないものだしね、きゃはは! 痛がってウケるぅ~」
股間を抑えた手に、更に女のハイヒールが突き刺さる。
「マジでダサいオッサン、みじめぇ~キャハハ!!」
男女5人の集団にボコボコにされる私。
……なんだが、そんな前世の記憶が蘇る。
…………。
……。
これが私の運命なのか?
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