異世界傭兵物語

~ 物理と魔法を極めた最強の魔族になりました。仲間と楽しく冒険したり、領地経営もしちゃいます!~
黒鯛の刺身♪
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第五十六話……古代竜レーヴァティン【後編】

公開日時: 2021年4月29日(木) 23:13
文字数:2,095

 やはり、エンシェント・ドラゴンなどを相手にするのは愚かだったのだろう。

 最近、少し強くなっていた自分へのおごりが確かにあったのだ。


 ……こういう本質的にダメなところは、前世と変わりはしないな。

 少し自嘲めいた後悔がよぎる。



「旦那様、しっかり!」


 スコットさんの温かい声が嬉しい。

 大切な仲間に出会えて、今回の人生は良かったなと思う。



「スコットさん、……最後に、あの腕輪を狙う! 支援を頼む!」


「正気ですか? あれを破壊したら相手は更に強く……」


 口についた血糊をふき取る私を、スコットさんは驚いた様子で見つめる。



「確かに強くなるだろうね……、でも、何のためにあれは付いているんだ? 操る側からすれば、無くなれば、不都合があるとも考えられないだろうか?」


「た、たしかに……」


 私は、断を下す。

 残った分身4体を連携して、古代竜の左腕の魔法封じの輪に斬りかかった。

 鋭い爪を掻い潜り、渾身の一撃を浴びせる。



――ガキン


 少し鈍い音がして、意外とあっさりと輪は壊れた。



――グォオオオオ


 突如、古代竜が悶え苦しむ。


 逃げる最後のチャンスだったかもしれないが、極度の疲労で動く気力がわかない。



 魔法封じの輪が壊されたことで、古代竜から信じられないほどの魔力が感じられる。


 それには温かくも神々しさを感じた。

 これが人知を超えた力というモノだろう。


 血で汚れた古代竜の表皮が、次々に回復。

 黄金色の鱗となって再生されていく。

 傷ついた眼も例外ではなく、光を取り戻した。



「力なき者よ……」


 古代竜が温かい言葉で話しかけてきた。



「力なき者よ、よくぞ封印を解いてくれた。が、我は禍々しい薬によって余命は幾ばくも無い……」


 古代竜は寂しそうだ。

 私はポケットにしまっていたネックレスを取り出し、少しはにかんで古代竜に見せた。



「……おお! アイリーンは無事なのか!?」


 古代竜の顔色がパッと明るくなる。

 アイリーンとはきっと孫娘の名前なのだろう。

 力なくも、大きく頷いて見せる。



「……されば、我に後顧の憂いなくなった。力なき者よ、我が孫娘を頼んだぞ!」


 そう古代竜は呟くと、古代竜は自らの体を、自らの青白い炎で焼いた。

 巨体が焼ける中、しばらくすると炎の中から、小さな黄金竜が羽ばたき、空高く昇っていった。



「きっと、操られた体を焼き、生まれ変わったのですかな?」


 スコットさんが呟く。


 ……きっとそうだろう。

 人知を超える古代竜が、完全に死ぬわけがない。

 そして、倒されることも永遠にないのだ。



「ガウ、お疲れ様!」


 背中に温かい回復魔法を感じる。

 振り返ると、笑顔のマリーがそこにいた。

 そして、マリーに抱き付かれた。


 私はその温かさを感じながら、極度の疲れにより、意識を手放したのだった。




☆★☆★☆


 意識を取り戻したのは、とある館の寝台の上だった。

 隣にはザームエル男爵も寝ている。


 施術院のような所だろうか?

 私は強靭な体ゆえ、回復力も人並外れており、すぐに体を起こすことが出来た。



「おはよう、まだ寝てなきゃだめだよ!」


「寝てなきゃダメぽこ~♪」


 皆が入ってくる。

 ここは例の小さな砦の近くの町らしい。

 防衛の為、近くの草原にバルガス達の軍勢が控えているとのことだった。



「これは、これは、竜殺しの英雄殿! お目覚めになりましたかな?」


 華美に彩られた女性の貴族が部屋に入っていた。

 きっとこの人が、私達を治療する場所を提供してくれたのだろう。



「お世話になります」


 お礼を言うと、その貴族は傍の椅子に腰かけた。



「ガウ殿でしたね?」


「はい」


「実は今回の武勲に、パウルス王が其方に勲章をお授けになりましてね、これがその勲章です!」


 赤い奇麗な箱を開けると、ダイヤモンドがあしらわれた立派な勲章が輝いていた。



「私は魔物、その勲章をつける権利は無いのです。そこにいるマリーに付けてあげて下さい」


「わかりました」


 意外なほど素直に事は運び、貴族がマリーに勲章を授ける。

 同時に、マリーは準男爵の称号を贈られ、奴隷籍から正式に脱却した瞬間となった。



「奇麗ぽこ~」

「お似合いですな!」


「みんな有難う!」


 ポココやバルガス達に祝福されて喜ぶマリー。

 私はその様子に安心して、再び眠りに落ちたのだった。




☆★☆★☆


「お気をつけて!」


「お世話になりました!」


 二週間のち、お世話になった女貴族の領地を出る。

 彼女には、治療の御礼として、以前手にしていた大きめの魔石を贈った。


 私は魔族の世界では公爵様だが、人間の世界だと、マリー準男爵様の家来という立場になったようだった。


 いわば、ポココやスコットさんと同格である。

 ……まあ、人間ではないし、仕方がないね。



「はやくお家に帰るポコ!」


「はいはい!」


 はしゃぐポココに、フードを被り御者を務めるバンパイアのイオが応じる。

 私達はのんびりと馬車に揺られ、ベルンシュタイン城を目指したのだった。



 ちなみに、今回のことで、ベルンシュタイン領はパウルス王国でも正式に認知された。

 マリー準男爵の領地として認められたのである。


 パウルス王国は人間の治める国の為、ベルンシュタイン領は一種の魔族自治領とみなされることとなる。

 しかし、その領地の生産力は質量と共に高く、王都の商人たちにとって垂涎の交易地となっていったのであった。


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