評価、感想、大歓迎です。
そこから意外にも、王国の孤児に対する扱いはかなり手厚かった。
しかし年々僕らのように村を滅ぼされ、孤児になったものは増え始めているらしい。
勇者の伝説にもあったような、魔物が跋扈する暗黒時代が近づいている。魔王が現れたのではと騒がれていたらしいが、詳しくは知らない。
自分のことに精一杯だし…、これから平和な暮らしを取り戻すためには必要ではあるだろうが…。
それと驚いたことがあった、村で僕を助けてくれた鎧の騎士は何と凛々しい女性であった。
これまた絶世の美女と言っても過言じゃなく、彼女に近づきたくて騎士になる人もいるのだとか、いいのかそれで。
彼女は僕より5歳くらい年上だったのだが、それはもう大人顔負けのカリスマ性を発揮し、駐屯地についてからの迅速な対応は素晴らしかった。
僕は昔の僕と違って、平和を取り戻すためにはやく魔物を殺したい気持ちでいっぱいだったので、どうすれば強くなれるか、またどうすれば騎士になれるのかを彼女に聞いた。
すると彼女は憎しみだけ抱いて進むのは悲しい道だと言う、そんなことはない恨みは晴らした方が絶対いいと考えていた僕は、とりあえず何とか認めてもらうためにも、鍛錬をしようと決めたのだった。
孤児院に入ってから僕は決して青の日を忘れてはならないと決めて過ごすようにした。
魂が抜けて抜け殻となった彼女の体を貪る魔物の姿、その光景を忘れない。
最初は精神的に参りかけた、魘されたり叫びそうになる。
でも僕はそれを飲み干すようにして、ひたすら耐えた。忘れるな、忘れたら彼女の死が無駄になる。
彼女の死に意味を持たせたい、この光景を糧に僕は恨みを果たすのだと誓って僕はひたすら精神的にいじめ抜いた。
そんな日々を孤児院で暮らしていく中で、僕は何やらガキ大将のようなやつに目をつけられるようになった。
何故こちらに絡むのか理由を聞くと、勇者様と同じ名前なのに暗くて気に食わないだとか。
馬鹿馬鹿しい、たかが名前で腹たつなどおめでたい連中だと心の中で馬鹿にしていると。
「生意気なんだよ!」
ガツンと頭で響く音がしたと思ったら、鼻から血が流れていた。
どうやら殴られたらしい、殴るほどのことか?
「気味悪い…殴られてるのに反応なしかよ」
「なら痛がるまで殴ろうぜ」
いやこいつらも魔物に負けてないな、と思いつつ僕は特にやり返しのせず殴られた。
その日の夕方、僕はシスターに鼻に治癒魔法をかけられていた。
優しいシスターだ、殴った連中も見習ってほしい。
「大丈夫?ごめんね、本当ひどいことを…」
「大丈夫ですよシスターナンシー、本当大丈夫」
シスターナンシーはこの孤児院で世話役をやってくれている修道女さんだ。
この人もまあ美人さんだ、つくづく知り合う人が美人さんなのはこちらとしてはいいことだろうが、僕はハル一筋だ。
「あの子たちはもう近寄らないように、指導したから安心してね」
「どんな指導を…」
「それはもう…ね?」
何やら可愛らしい笑顔を浮かべていたが、拳からギリギリと音が出るほど
握り締めながらだとめちゃくちゃ怖いです。
「僕よりボコボコじゃないですよね?」
「大丈夫!ちょっとコツんでやっただけよ〜」
「メリッじゃないんですか、すみませんまた拳握らないでください」
一番シスターがおっかない気がする、まあこれで絡まられる回数も減るはずだ。
いくら殴られてもただ痛いだけで、それが原因でどうもこうも僕はしないのだが邪魔なのは間違いない。
「イシルくんもそうやってふざける子だったのね…」
「あー、すみません。傷つけました?」
「ううん、ただ孤児院に来てイシルくん何かとボーッとしてるし表情もずっとムスッとしてるから…」
以前からあまり表情豊かではないのは自分でわかっていたが、面と向かって言われるとやはり実感する。
基本何もかも心に響かない、ただ自分に対する苛立ちはある。
心の中で怒りだけが燻っていて、何も感じない。
でも生き残ってしまったから仕方ないのだ、こればかりは治しようがない。
「心配させてごめんなさい、でも大丈夫です。僕はこんな感じの人間なので」
「なるほど〜、思春期だからか!」
「えっ、いやちが」
「ちょっと悪ぶりたい時期だもの!わかるわ!私もそんな時期あったもの!」
ダメだなんか勘違いしてる気がする、でもシスターは止まることなく何でも相談しなさいと言ってドンと胸を叩いた。
僕はシスターのことは嫌いじゃない、むしろ好ましくさえ思う。
身寄りのない子供たちにとって姉が割でもあり、親代わりでもある。甘えられる存在は本当に心の支えになる。
その優しさがとても子心地よかった、でも同時に辛かった。
人の話を聞かず、ただ真っ直ぐ向かってくれる雰囲気がどことなくハルを思い出すから。
「もっと強くならなきゃ…」
みんなが寝静まってから、僕は孤児院を抜け出して洗濯棒を剣がわりに素振りする。
正しい型は知らないけど、何もやらないよりはマシだと言い聞かせて素振りをする。
日々走り込んだり、重い石材を使って筋肉を付けようと地道な訓練はしてきた。
元々農作業やらハルとの追いかけっこなどで運動自体好きだった僕は、割と苦もなくこなしてきた。
だけどその程度では強くなれない、強さが何かは具体的には知らないけどそれだけは何となくわかっていた。勇者様のような祝福があるわけでもない。
「ハァ〜、まだまだだ…」
「それ以上は体に障りますよ」
優しく咎める声が聞こえた、シスターナンシーだ。口調は優しいが私怒ってますという表情をしていた。まさか今度は僕がメリッされる番か…。
「すみませんメリだけは勘弁してください。」
「うん、それは無理かな」
無事にめり込んだ頭をさすりながら、シスターは僕の隣に近く。
気にかけてもらっていたのかと自省しているとシスターは口を開いた。
「私も同じように孤児だったの」
「そうだったんですね…魔物に故郷を…」
「ううん、私の場合は人間によって滅ぼされたのよ」
「それは…」
「昔あなたと同じように憎しみを抱いて生きてきたから、何となくわかったの」
「あなたも恨みを抱いて生きてきたのですか?」
「うん、毎日毎日私がこの手でとか考えたことあるよ。」
話によるとシスターが暮らしていた町はどうやら裕福な事で知られていたらしく、襲撃してきた連中は隣国の軍団だったらしい。
町の資産を奪い尽くすだけじゃ飽き足らず、人の命や尊厳すら奪うようなゲスどもだったとか。以前までの僕ならそんなひどいことを人間同士でと思っていただろう。
何もなければずっと平和に暮らせていたはずなのに、嫌な人生経験のせいでそれほどショックを受けずに済んだ。
「私はあいつらに家族や故郷だけじゃなく、この身すらも汚されてしまった。年端も行かない女の子は狙われやすいから…」
「それって…」
「うん、私は心を殺されたようなものなの。」
僕は理解してしまった、それと同時にそのならず者たちに殺意すら覚えた。
こんなに優しい人を、同じ人間なのに中となくできてしまうような連中が憎くなる。
魔物という共通の敵がいるのに、どうしてそんな無駄なことをするのだろう。
政治がとかメンツがとか、そんなのどうでもいい。
負のスパイラルに飲み込まれていた僕を察したのか、シスタ〜はすぐ話を再開した。
「優しいねイシルは、怒ってくれてるの?」
「いや普通だろ、そりゃ怒りたくもなるさ。そんなひどい事をする奴らは魔物と変わらない」
「でもずっと憎しみを抱いたままは自分が苦しくなるだけよ。」
「でもそれはハルを忘れるような気がして…」
「そんなことはないよ、むしろ私が幼なじみの立場なら幸せに穏やかに生きてほしいて思うよ?」
「シスターナンシーはどうやって克服した…のですか」
「もう砕けた口調でも大丈夫よ。完全に克服したわけではないけど、私もここに務めていたシスターに優しくしてもらえたの。本当の家族のように大事にしてくれた」
「例え血が繋がらなくても…」
「そう、血が繋がらなくても家族だって言える存在。今は難しいかもしれないけど、私があなたの家族になる。恨みを募らせて生きるのではなく、家族や大事な人たちのために穏やかに生きる方がよっぽど有意義よ?」
シスターナンシーの声が、優しく僕の心に響いていく。長らく僕はただひたすらに憎しみだけを生きがいにしてきた。
辛くても決して逃げずに立ち向かうことが正解だと思っていた。
でもシスターが言ってくれたことは、立ち向かう事が正解ではないという事だった。
久しく人にここまで優しくされた気がする、そう思うと自分でも気づかずに涙を流していた。
「あれ、何で…泣いて」
「泣いていいのよ、イシル。今まで本当に頑張ったわね…」
「ぼ…くは、ただ…一緒にいたかっただけなのに…」
「おいでイシル、全部受け止めるから」
「う、うわああぁぁ…ハル…!ハル!!!父さん!母さん!!」
やっと泣けた気がした、僕はシスターに抱きしめられながらただひたすらに泣いた。
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