魔王でニューゲーム!

~リアルで死んだらゲームのステータスを持って異世界に行けました~
kt60 k
kt60

12話 vs全裸

公開日時: 2020年9月1日(火) 14:10
更新日時: 2020年9月24日(木) 13:14
文字数:3,034

「あ……あの、サトウ。この格好は……?」

「余は偉大だが、このようなことには疎くてな。

 男装と言えば、執事服しか思いつかなかった」

「それはよろしいのですが……」


 ブレイドは恥じらった。

 裸に剥かれたかのように股間や胸元を押さえ、真っ赤な顔でもじもじとする。


「せめて手甲だけでも、身につけさせてほしいのです……」

「つけたら台無しではないか」

「しかし防具がないことは、わたしにとっては裸とまったく同じなのです……」

「その理屈だと、余たちは常に裸になってしまうが」

「サトォ……」


 理屈ではどうしようもないと思ったらしい。

 ブレイドは、うるうるまなこでオレを見てきた。


「これではどうだ?」


 オレは宝物庫から、鎖カタビラを出した。


「ミスリル製のカタビラだ。服の中に着るとよい」

「ありがとうなのです!

 大好きなのです!」


 ブレイドは礼を言った。

 背を向けタタタと走ってく。

 フスマをあけてパタリと閉めて、着替えを始めた。


「フハハハハ! 完璧なのです! 完璧なのですよ!

 今なら誰にも負ける気がしないのです!

 変態退治も、わたしひとりにお任せなのです!」


 つい先刻と同じ姿で、元気よく現れる。


「では作戦を実行に移すか。

 黒豹よ。

 偉大なる余に、変態が現れる場所と時間を教えるがよい」

「ああ、いいぜ。場所と時間はな……」


 オレは黒豹から、変態が目撃されやすい場所と時間とを聞いた。


 深い夜。

 月が傾きかけたころ。

 オレたちは、森の茂みに姿を隠す。

 黒豹に紹介された場所は、右手に森。左手に堀がある道だ。

 ユニコが小さな声で言う。


(ここは貴族の屋敷と商店街を繋ぐ道でもある。小間使いの少年が、比較的よく通るのだ)

(近くに建物がない分、そこそこの規模で戦っても大丈夫そうでもあるな)

(流石はサトウ殿なのだ。とても察しが早いのだ)


 少し離れたところから、ブレイドがやってくる。


「ご主人さまは、人使いが荒いのです……」


 予定通りのセリフを言って、ため息をつく。


「うぅ~ん…………なのです」


 腹部を押さえ、堀の近くにうずくまる。


(これも予定通りなのだ)

(動けない少年を見れば、やってくる算段か)

(………。)


 オレとユニコは状況を見つめ、ナタは蝶を見つめてた。


(ぱたぱたぱた。)


 捕まえようと手を伸ばす。


(あとにしなさい)

(………はい。)


 注意されて手を戻す。

 ただし未練はたっぷりらしい。(じぃ………。)と蝶を見つめていた。

 そんなこんなをしていると――。


「フン、フーフフ、フーン。

 フン、フーフフ、フーン。

 フフフフ、フフフフ、フフフフ、フン、フー」


 謎の鼻歌と共に、筋骨隆々の男がでてきた。

 暗闇の中でもハッキリとわかる全裸。

 なぜかマントをつけてるが、パンツ一枚はいてない。ネクタイひとつ身に着けていない。

 黒豹も変態ではあるが、コイツほどはひどくない。

 あっちはパンツをはいている。

 ネクタイだってつけている。

 ゲームにいなかった理由もわかった。


(これを全年齢版のゲームに登場させるのは無理だ……!)


「どうしたのかな? 少年よ。

 もしも痛みがあると言うなら、医者のところまで連れて行こう。

 もしも悩みがあると言うなら、ミーに話してみるがいい。

 解決できるかどうかはわからないが、人に話すだけで軽くなることもある」


 無駄に人格者だった。

 これは話せば、意外とわかる……?

 なんてオレは思っていたが――。


「ギルティズ・ブレイドォーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」


 ブレイドはぶっ放す!!!


「フンヌゥ!!!」


 だが変態は、大胸筋を震わせるだけで弾いた。


「なかなかの攻撃――即ちアタック。

 しかし筋肉が足りないな、ボーイ」


 強い――!


「ミーで力試しがしたいのかな? ボーイ。

 この筋肉の勇者――マッスルで」


「そ……そのようなところなのです!」


「ならば受けよう。

 ……フンッ!」


 変態は拳を握りしめ、山の字を彷彿とさせるお約束のポーズ――フロント・ダブル・バイセップスをした。


「ふみゃあぁ!!!」


 それだけで、ブレイドは吹き飛ばされる。


「では次だ。

 ホォウッ!」


 振り上げたその腕を、腰のあたりに持っていくポーズ――フロント・ラット・スプレッド。


「クッ!」


 ブレイドの横っ飛び。

 ズガカガガガンッ!

 衝撃の波が、地面をえぐりながら通過していく。

 ユニコが唖然とつぶやいた。


「どういう原理になっているのだ……?」


 オレもわからん。


「とにかく加勢しようなのだ!

 分が悪すぎるのだ!」


 ユニコが地を蹴り宙返り。

 馬の形態に変化して、変態を挟み撃ちにする。


「背後を取れば、ミーに勝てると思ったかい? キュートな子馬ガール」


 変態は拳を握りしめ、山の字を彷彿とさせるお約束のポーズ――フロント・ダブル・バイセップスをした。

 だが今回は、ユニコに背中を見せている。

 背の筋肉を見せつけるそのポーズの名は――。


 バック・ダブル・バイセップス!


「うわあぁ!!!」


 ユニコも吹っ飛ぶ。

 ブレイドが言った。


「原理がまったくわからないのに、太刀打ちできないのです……」


 いやホント、どうしてダメージが通るんだろう。

 単にポーズを取っているだけだよね?

 まったくもってわからないものの、確実に言えることがある。

 

 この変態は強い。

 変態の代わりに設置されていた盗賊団を倒すには、ただの兵士なら三万人は必要だった。

 ならばこの変態も、同等の力を持っているとみるのが妥当。


 オレが行こうかと思った直後。

 ナタが服の裾を引っ張る。


「サトウ。」

「どうした?」

「呪いの解除、希望。」

「やつと戦うつもりか?」

「オリハルコンの分は働く。」

(周囲に人もいないことだし……)

「よかろう」


 オレは呪いを解除してやる。


「がんばる。」


 ナタはンッと両手を握り、火尖槍を取り出した。


「ユニコ。」

「む?」


 ナタは、ケンタウロス化しているユニコの背に乗った。


「前進。」

「心意気はよし! 

 しかしミーの筋肉を相手に、筋肉なしで近寄れるかな……?」


 謎の語彙。


「ハフウゥンッ!」


 そしてポーズ。


「火尖槍。」


 ナタは槍を突きだした。

 ガキイィンッ!

 金属めいた音が鳴る。攻撃を『弾いた』のは、確かであった。


「どうやったのだ? ナタ殿」

「………相手はポーズを取った瞬間、筋肉を膨らませてる。

 その膨らみの勢いで――――衝撃波を飛ばしてる。」

「そんな理屈だったのだ?!」

「うん。」


 ナタはこくりとうなずいた。


「シャツのボタンを飛ばす代わりに、空気の圧力を飛ばしてる。」


 マジですか。

 オレもびっくりである。


「とにかく、前に。

 私ひとりだと近づけない。」

「よかろうなのだ!」


 ユニコは足で、地面をかいた。

 突撃する。


「ホンッ、フンッ、ハアァンッ!」


 変態が、次々ポーズを繰り出していく。


「んっ。くっ。つっ………!」


 ナタは火尖槍で迎撃していく。

 しかし押され気味である。


「近づくにつれ、圧力も厳しくなっていくのだ……!」

「がんばって。」

「もちろんなのだ!」


 ユニコは気合いで前にでる。

 変態は、汗を散らしてポーズを取る。


「――乾坤圏。」


 ナタはチャクラムも使用して、ポーズの威力を殺していった。

 そして――。


「入った。」


 ナタは槍とチャクラムを仕舞うと、両手で忍者の印を結んだ。


「――九竜神火。」


 変態の上に、巨大な鐘が現れた。

 ぐわおぉんっ!

 落ちてきた鐘に、変態は閉じ込められる。


「九の竜が吐く神の炎が、あなたのことをすごく焼く。」

「それはやりすぎではないか……?」

「大丈夫。

 あの筋肉さんは、それでも死なない程度には強い。」


 鐘が緋色に輝いた。

 その輝きの強さは、火力の強さも示していた。

 それでもナタは察していた。

 相手の命はもちろんのこと、戦いすらも終わっていないことを。

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