魔王でニューゲーム!

~リアルで死んだらゲームのステータスを持って異世界に行けました~
kt60 k
kt60

01話 プロローグ・シリアスな現実からシュールな異世界へ

公開日時: 2020年9月1日(火) 14:10
更新日時: 2020年9月24日(木) 13:11
文字数:3,290

 とある病室。

 ベッドの上に少年はいた。


 腕には点滴。

 口には呼吸器。

 まっとうな状態でないことは、誰の目にも明らかだ。


 少年は、物心ついた時からこの状態で過ごしている。

 そんな彼の慰めとなっているのが、頭部につけられたVRマシン。

 心が病めば体も病んでく。

 それを少しでも緩和するため、政府が認めた方策のひとつだ。


 血管に点滴。

 口に呼吸器。

 心にVRマシン。


 マシンの中でニュースを見たり勉強をしたりネットをしたりすることで、世間から取り残されないようにする効果もあった。

 ゲームの中の彼を見て、寝たきりの生活をしている者だと思う者はいない。

 そんな彼がプレイしているゲームの名前は、エターナルカオス・オンライン。


 雑魚モンスターにコッペパンが出る。

 馬車を引くのがアルティメットマグロ。

 ダメージを受けた女の子の服が破ける。

 野生のパンをゲットし牧場に放ち、最強のコッペパンを作ろう!

 それ以外にも、スタッフの悪乗りと称される要素がetc……。


 というゲームだが、それゆえに心が紛れた。

 ふざけたゲームの笑える仕様で、彼は安らぎを得た。

 現実が不自由だからこそ、ゲームの中ではカオスの化身――大魔王として日々を送った。

 事実少年は、余命三年と言われていた中で十年を生きてる。

 しかしそれも終わりが近づいてきていた。


 深夜二時。

 VRのマシンも外されて、眠らなくてはいけない時刻。


「ああああああああああああああああああああああっ!!!!!」


 病魔が全身を蝕んだ。

 痛くて痛くてたまらない。

 邪悪な蛇が、全身を食い荒らしているかのような感覚。

 それでも少年は耐えた。


(死ねない。オレは……死ねない)


 心の中に、熱い闘志を燃やしてる。


(十八禁モード解禁の日まで、死ねないッ――!!!)


 彼は悲運の少年だ。

 しかし性欲も強かった。

 スケベを愛するスケベな心が、三年の余命を十年に伸ばした。


(あと三日。たった三日で、十八禁モードをプレイできるんだ……)


 それを思えば、どんな痛みと苦しみにも耐えることができた。

 しかし心を強く持とうと、体は限界を迎えていた。

 命の灯が消え始める。

 どんな痛みにも耐えてきた彼の目から、澄んだ涙がはらりと垂れた。

 そんな今際の際の中、彼は確かに声を聴いた。


(こっちにくるかい?)


 光が差し込んできた。

 謎の人影が手を伸ばしてくる。


 現実なのか。

 幻覚なのか。

 彼にはどちらかわからない。


 しかし少年は、人影の背後に目を奪われていた。

 人影の背後に広がる草原。

 それは自分が、まさに死ぬまで愛し続けていたゲームの草原であったから。


 少年――佐藤カイトは、人影に向かって手を伸ばした。


   ◆


 オレはぼんやり目を覚ます。

 そこは一面の緑であった。

 しかしオレは高揚していた。


 見覚えがある景色。

 何千回とプレイしたゲームのスタート地点。


 だからこそ、VRとの違いがわかった。


「風……」


 そよ風が気持ちいい。


「草の……」


 香りがすばらしい。


「ははは、はは」


 笑い声が自然と漏れる。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 全力で叫んだ。

 そして走った。


 意味もなく叫んだ。

 意味もなく走った。


 勢いあまってド派手に転んだ。


 顔に土がついてしまった。

 しかしそれすら心地よかった。


「アハハハハ!」


 笑い声が自然と漏れた。

 その時ガサッと音がした。


 コッペパンが現れる。


『コペペペペペ!』


 謎の鳴き声と共に、コッペパンがビームを出した。

 オレは咄嗟に回避する。

 メッセージのウインドウが開かれた。


◆この世界ではコッペパンが射撃能力を持つ。

 わかるね?


>わかる。

 わかった。

 わかるための努力を始める。


 カオスオンラインの名に恥じない、カオスなチュートリアルである。

 オレは叫んだ。


「わかるための努力を始める!!!」


 全身が光に包まれ、服が破けた。

 辛気臭い病院服が、完全装備の魔王の姿に。




「これは――!」


 オレがプレイしていた時の装備だ。

 カオスなゲームのカオスを受け入れ、ゲームの住民になることを誓った証。


「ステータスは……?」


 サトウ=カイト

 ジョブ:大魔王

 年齢:不詳

 レベル:9999

 HP 99990/99990

 MP 99990/99990

 攻撃力:79920

 防御力:65000

 敏捷力:80000

 魔攻力:99999

 魔防力:99999


 スキル

 闇魔法レベルMAX 魔炎魔法レベルMAX 魔水魔法レベルMAX

 魔土魔法レベルMAX 魔風魔法レベルMAX 魔雷魔法レベルMAX

 呪怨魔法レベルMAX 自動再生レベルMAX 鑑定魔眼レベルMAX

 闇耐性極大 炎熱耐性極大 土耐性極大……etc


「最後にゲームをプレイしていた時のままか……!」


 病院で寝たきりだったオレは、カオスオンラインを徹底的にやり込んでいた。

 普通にクリアしたら選べる『魔王でニューゲーム』を100回クリアすると出てくる『大魔王でニューゲーム』

 それをさらに100回クリアし、鍛えに鍛えたキャラクターだ。

 オレは高まるテンションで、試し打ちをした。


「唸れ魔炎――」


 紫色の炎が、右手から出てくる。


「メギドフレイム!」


 ドゴオォンッ!

 盛大な爆発。

 チュートリアルコッペパンは、一瞬で紫焦げになった。

 黒焦げではなく紫焦げだ。


   ◆


 声がしたのはその時だ。


「ここにいらっしゃったのですね!」


 そこにいたのは、金色の髪をした少女。

 アホ毛のついた金髪ポニーテールで、上は白銀のヨロイ。下は水色のスカートをはいている。

 オレは驚愕に目を見開いた。

 鼓動が高鳴る。

 だって彼女は――。


「サトォーーーーーーーーーーーーー!!!」


 彼女が抱き着いてきた。

 勢いあまってゴロゴロ転がり、それでも彼女は止まらない。


「きてくださったのですね!

 きてくださったのですねぇ!

 わたしはとてもうれしいのです! サトウと会えてうれしいのです!」


「オ、オレも、うれしい」


 彼女は、『剣の勇者ブレイド』

 オレがずっとしていたゲームの、ずっと大好きだったキャラクターだ。





「オレの名前を知っているっていうことは……」

「覚えているのです!」


 ブレイドは、両手をガバッと広げて叫んだ。


「サトウがサトウであったこと! 世界を何回も救ったこと!

 しっかり覚えているのです!

 細かいことは覚えてませんが、このふたつだけは覚えているのです!」


「そっか……」


 温かな感情が、胸の底を流れる。

 この感情を味わえただけで、この世界にこれてよかったと思う。

 大好きなゲームの中で、大好きだったキャラに出会える。

 しかもそのキャラが、自分を好きだと言ってくれてる。

 これに勝る幸せがあろうか。


「でもどうして、オレたちが……」

「わかることと、わかることがあるのです!」

「それはどっちもわかることでは……」


 ぼやくオレにブレイドは言う。


「まずここは、カオスオンラインの中ではないのです!」

「そうなのか……?」

「この世界は実際に存在していて、カオスオンラインは『この世界を元に作られたゲーム』なのです!」

「どうしてわかる?」

「神様さんから聞いたのです!」

「神様?」


「わたしはサトウが大好きでした!

 ずっとずっとずうぅ~~~~~っと、いっしょにいたいと思っていました!」


「ブレイドは、ゲームの世界のキャラだったんだよな?」


「サトウと何度も接するうちに、心ができてきたのです!

 私が命を持ったのも、サトウのおかげと言えるのです!」


 そう言われると照れる。


「しかしサトウが、病気であることも知ってたのです!

 だからずうっと、思ってたのです!」


 ブレイドは言う。


「サトウを『げぇむ』に入れてなのです。

 ずうっといっしょに、いさせてなのです!」


 ブレイドは語る。

 まさに願いを叶えてもらえた、少女のような声色で。


「すると神様が言ったのです!」


『心を持った機械の君よ。

 特別に招こう。

 この世界の元になった、特別な世界に』


「わたしは神様に手を伸ばして――」


 ブレイドは、むぎゅーっとオレに抱き着いた。


「サトウに会うことができたのですぅーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」


 胸板に顔をうずめて、すりすりすりっと顔をこすらす。


「サトウなのです、サトウなのですうぅ。

『げぇむ』の世界にはなかった、サトウの匂いとか触感がするぐらいにサトウなのですぅ~~~」


 かわいいっ……!

 オレはひしっとブレイドを抱きしめた。


 オレは生きてる。

 間違いなくそう言えた。

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