オレがナタを勧誘してると、ユニコが言った。
「サトウ殿、機人族を仲間にするのだ?」
「その通りだ」
「信用しても、大丈夫なのだ?」
「普段は偉大なる余から、離れんように命じておく」
「それだけなのだ……?」
「それ以上が必要か?」
ユニコはしばし考えて言った。
「……いらないのだ」
オレはナタに言う。
「そういうわけだ。
偉大なる余は、強き貴様を歓迎はしよう」
「了解。」
ナタはこくりとうなずいた。
オレの脇腹にぺたっと抱きつく。
(こんなイベントなかったぞ?!)
きょどりそうになるものの、かろうじて抑えた。
「な、な、なにをしている?」
ナタはオレを見上げて言った。
「命令された。」
確かにッ!
「み、み、密着の必要はない。半径七メートル圏内に入っていろ」
「りょうかい。」
ナタは離れた。
しかし逆サイドから、ブレイドが抱き着いてきた。
(なにっ?!)
ブレイドは、オレが何を言う前に叫んだ。
「ナタばっかり、おずるいなのです!
わたしもサトウに、ぺたぺたとしたいのです!」
とてもかわいく満更でもない。
胸元の巨乳も、むにゅっと潰れて愛らしい。
だがオレは、女性経験がない。
結婚だけならゲームの中で何度もしてたが、全年齢対応だったカオスオンラインには、えっちなイベントもなかった。
胸を触ってもキスをしても、その触感はなかったのだ。
だが今は、おっぱいがおっぱいで――。
世界が現実であることを、改めて悟った。
◆
オレから離れたブレイドが言った。
「しかし『歓迎』と言うからには、何かいたしたいところなのです!」
オレは少し考え、ナタに言った。
「貴様は確か、オリハルコンが貴重なように言っていたな?」
「うん。」
「確かにとっても、お貴重なのです!
世界のすべての剣士と戦士と魔法使いと大工さんの憧れなのです!」
「半径20メートルを埋めつくす黄金を用意して、ブドウ一粒分の大きさと交換なのだ」
「それほどか」
ゲームでも、希少金属ではあった。
しかしこういう説明を聞いたことはなかった。
好きなゲームの設定資料集を見ている時のようにワクワクとする。
「オリハルコンの剣をやるからサトウを裏切れと言われたら、わたしは一瞬グラつくのです!
グラついた上でサトウを選びますが、グラつく確信もあるなのです!」
「私もグラつきはしないが、『そこまで私を高く買ってくれた相手』として、生涯忘れないと思うのだ」
ものすごい評価だ。
が――。
「大量にある」
ドザーン。
オレはアイテムボックスから出しまくった。
真珠サイズのオリハルコンが、滝のように落下する。
太陽の光を受けたオリハルコンは、七色に輝いた。
「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ?!?!?!」」
ブレイドとユニコが、双子のようなリアクションを取った。
「出しすぎてしまったか」
オレは三粒だけ残し、残りをアイテムボックスにしまった。
「まずは一粒。これは無条件でくれてやろう」
(!!!!!!!!!!)
ナタは大きな衝撃を受けたようだ。
祈るように両手を重ね、口をあーんとあけてくる。
オレはオリハルコンを入れてやる。
ナタが口をはむりと閉じた。もこもこもこ。かりかりかり。口を小さく動かし飲み込む。
目を閉じたまま、余韻にひたり――。
成仏を始めた。
穢れなき魂が、空へとのぼっていく。
「うおぉい!」
魔王の演技もうっかり忘れ、ナタの肩をゆさぶった。
ナタはパチリと目を覚ます。
「極楽。」
「実際、逝きかけていたな」
ナタはオレを、じーっと見つめる。
オレの右手のオリハルコンも、じーっと見つめる。
「しばし共に生活をし、『裏切りがない』と確信できれば残りをやろう」
(!!!!!!!!!)
ナタはまたも衝撃を受けた。
ぎゅむっ。
なにも言わずにオレに抱きつき、じーっとオレを見つめてくる。
仲間になりたそうな無表情であった。
「裏切り、しない。」
「それをこれから見極めるのだが……」
「しない。」
「……」
「しない。」
「……」
「しない。」
これが裏切りを考えるスパイなら、あまりにもマヌケすぎる。
なにか隠しているのは間違いないが、オレたちを害するものではないだろう。
隠していることがなんなのか、気になりはするが――。
「くれてやろう」
オレは二粒渡してやった。
「一生ついてく。」
ちょろかった。
◆
「ただの契約金で、オリハルコンを三粒も……。すごいのだ」
「ナタがとてもうらやましいのです……」
「うらやましいなら、くれてやろうか?」
オレは六粒だした。
ブレイドはオレの手のひらを見つめ、口をあんぐりとあけたままブルブルと震えた。
しかしすぐさま首を振る。
(ブンブンブンっ!)
「ダメなのです!
今このタイミングでもらってしまったら、わたしがサトウの強さや人格に惹かれたのではなく、オリハルコンに惹かれたかのようになってしまうのです!」
「そのようには思わんが」
「サトウが思わずとも、わたしが思ってしまうのです!」
実に自信たっぷりに、自信のないブレイドであった。
「私も、思わないとは言い切れないのだ」
「お早くしまってくださいなのですぅ!
すでにグラつきがフラつきで、オリハルコンを使った新しい剣の名前を考えてしまっているのですぅ!
お早くなのです! お早くなのですぅ!!!」
ブレイドは両手で頭を押さえ、必死になってうめきわめいた。
やれやれ。
オレはオリハルコンをしまう。
「しかしその気持ち、お最高にうれしかったのです……。
わたしは生涯サトウに忠誠を誓い、来来来世まで、一生つきまとうこともお誓うなのです!」
「そうか」
とてもうれしい。
そんなこんなをしているうちに、王の屋敷なる場所についた。
塀や門に囲まれて、建物自体は見えないのだが――。
「この門は……」
「変わった意匠であろう? かつて異世界よりやってきた勇者が伝えた、ワフーなる建築らしい」
それはまさしく和風であった。
漫画のヤクザがやっていそうな、和風の門があったのだ。
ユニコは、門番にメダルを見せた。
「私だ。国防と私の一身に関する話で、王に話があるのだ」
「はいっ!」
門番は、速やかに門をあけた。
開いた先は、これまた和風の建築だった。
松っぽい木が並べられた庭に、鯉の放たれた池。
池にかかった赤い橋を渡っていけば、木製の戸がある。
木製の戸をあけ、木製の廊下を進む。
ギシ……ギシと音が鳴る。
「ギシギシ鳴っていますけど、この建物は大丈夫なのです? ユニコ」
「これは――」
「これは侵入者に気づきやすいよう、わざと鳴るよう作られているのだ」
「さすがはサトウ! 博識なのです!」
「私が説明したかったのに……!」
ユニコは、瞳をうるませ抗議した。
かわいい。
(じぃ………。)
一方のナタは、庭の石を見つめている。
「食べたことないタイプ………。」
「食してはいかんのだ?!」
なかなか大変そうである。
オレたちは、金色のふすまの前に立つ。
「ここが王の間だ。失礼のないように頼むのだ」
「よかろう。貴様の顔を立ててやる」
「わたしもサトウを見習って、最大限の礼をお尽くすのです!」
(こく。)
「礼を言う」
ユニコがふすまに手をかけ開いた。
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