魔王でニューゲーム!

~リアルで死んだらゲームのステータスを持って異世界に行けました~
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14話 変態との和解

公開日時: 2020年9月1日(火) 14:10
更新日時: 2020年9月24日(木) 13:15
文字数:3,158

「サトウ、サトウ、サトウ!

 いったいなにを考えているのです?!

 頭の中身は正気なのです?!

 それともわたしも脱ぐべきなのです?!」


 変態を肯定してしまったオレに、ブレイドは混乱した。

 実際オレも混乱している。

 しかしオレにはわからない。

 赤の他人との話し方が……!!


 援軍は、意外なところから現れた。


「なんという寛容……。すばらしきゴールデンメンタル……」


 変態の張本人、マッスルそのものであった。

 マッスルは、無言で赤いパンツを穿いた。


「結局はくのですっ?!」


「かつてミーを咎めた者は、最後は力に訴えてきた。

 ゆえにミーも、力で対抗した。

 しかしサトウ様は違った。

 ミーを超える力を持ちつつ、ミーに歩み寄ろうとしてくださった。

 ならばミーも、歩み寄りで返すのが礼儀というもの」


 さらにマッスルは――。

 

 ネクタイもした。


「このマッスル。

 今後はあなた様の筋肉となり、永遠の忠誠を誓います」


 誓われてしまった。

 オレはただ、コミュ障なだけなんだけど。


「しかしサトウ。ここはわたしたちの国ではないのです。

 マッスルを許すかどうかは、わたしたちが決められることでは……」


 ブレイドは、獣王である黒豹を見た。

 黒豹は言った。


「ネクタイつけてるんなら大丈夫だろ」


「基準がわからないのですぅ!!!」


 同意しかない雄叫びだった。

 なにはともあれ――。

 

 筋肉の勇者・マッスルが仲間になった!


  ◆


 新たなる仲間を得たオレは、黒豹の屋敷をでた。


「偉大なるキングよ。ミーのトークをお許しください」

「よかろう」

「ミーはこの街の中に、知り合いの筋肉が四人おります。

 キングさえよろしければ、かの者たちも傘下にお加えください」

「話はいかほどでつけれる?」

「半日もあれば」

「半日後、またここにこい」

「ありがたき!」


 頭を下げたマッスルは、ワープめいた速さで消えた。


「さて……」


 待ってる間、なにをしよう。

 できれば新しい勇者を探し、スカウトしたいところではあるが。


「ゆく当てはありますか?! サトウ!」

「貴様にはあるか?」

「特にはないのですが、その……」


 ブレイドは目を逸らす。

 が――。

 ぐぅ~~~。きゅるるぅ、きゅうぅ。

 腹の虫が雄弁だった。


「食事を取りたいのか」

「はうぅ……」


 ブレイドは、頬を赤らめてうなずいた。


「食事でしたら、よい店がありますのだ」


 ユニコが自身を、馬へと変えた。


「お、お、お乗りくださいなのだ」

「どうして頬を赤らめる」

「異性を『乗せる』ということは、つまりそういうことでもあるのだ……」


 いったいどういうことなのか。

 ユニコはゲームにもいたが、細かい設定は知らなかった。

 というか乗れたことがない。

 ブレイドが言った。


「意図はよくわかりませんが、好意には甘えるべきだと思うなのです!」


 実に助かるセリフであった。

 こういうセリフを吐いてくれると、乗っかるだけでよいので助かる。


「そうするとしよう」


 オレはユニコの上に乗る。


「はきゅんっ!」


 ユニコはかわいい声を出してた。


「本当に、乗ってもよかったのか?」

「もももも、もちろん!

 ブレイドやナタも、私の背に乗るがよいのだ!」

「僭越ながら……」

「んっ。」


 ふたりもユニコの背に乗った。

 とりあえず屋台が並んでいるところへ行って、色々と買う。


「やっぱり串焼き肉はおいしいのですぅ♪」

「歩き食いとは、少々品がない気もするが……美味ではあるのだ」

「至福。」


 ブレイドが串焼き肉。ユニコがニンジン飴を食べ、ナタはミスリルのナイフ(10万ゴールド)をかじってる。

 ブレイドの串焼きは一本100ゴールド。ニンジン飴は500ゴールド。

 その状態で10万ゴールド。

 仲間キャラではぶっちぎりに強いナタは、維持費もぶっちぎりである。


「時にユニコよ。この近辺で、『勇者』がいそうな場所はあるか?」


 心あたりはいくつかある。

 だがここは、ゲームの元になった世界。ゲームそのものではない。

 実際に住んでいる人の話を聞いて、調整しながら進みたい。

 

「人の流通も激しいという意味では、裏市場などが……」


 ゲームにもあった施設だな。


「案内せよ」

「ハッ!」


 ゲームと同じなのか違うのか。

 違うとすれば、どんなヒトやアイテムがあるのか。

 オレは密かにワクワクしながら裏市場へ向かった。


  ◆


 裏市場。

 その雰囲気は、ゲーム通りに薄暗かった。

 真っ黒なドブスライムがぬるぬると動き、風体の悪い商人たちが粗末なジュウタンを広げている。

 ジュウタンの上には、ドクロのカブトに骨のヨロイに、血で濡れた盾や剣などが売られている。

 ブレイド(中二病気質)が震えた。


「惹かれるものがあるのです……!」

「同意。」

「裏というわりに、堂々とやっているな」


 ゲームだと違和感がなかったが、リアルだと不思議だ。


「自己責任市場とも言われているからなのだ」

「ほぅ?」

「例えばこの血塗られた剣――」


 ユニコは剣を拾いあげた。

 刀身は血のように紅く、柄にはドクロの意匠がついてる。


「これはカッコいいのです!

 装備すると呪われる代わりに、すごい力が手に入りそうなのです!」

「わくわく。」


「しかし魔力などは感じん。偉大なる余には、ただの安物に見える」

「そうなのだ。

 この市場にある九割は、『意味ありげなガラクタ』なのだ」

「へへへ、勘弁してくだせぇよ。姐さん」


 店の店主は、照れたように笑った。


「力……」

「ない…?」


 ブレイドとナタがしょんぼりとした。

 しかしユニコは、にやっと笑う。


「ガラクタなのは、『九割』なのだ」

「ということは……」

「一割は『本物』なのだっ!!!」


 ブレイドの顔が、パアッ――と輝く。


「もっとカッコよくなった気がするのです!!!」

「わくわく。」

「ここからは、見て回りやすいようにするのだ」


 ユニコがオレたちをおろし、馬から人に姿を変えた。


「サトウ!

 わたしはやはり、剣を見たいのです!

 魔剣の勇者は、カッコいいと思うのです!」

「わたしはこれ。」


 ブレイドがはしゃぐと、ナタは石を持ってきていた。

 コンペイトウのようにトゲトゲとしたデザインで、黒曜石のように輝いている。

 大きさも、コンペイトウの少し上。


「これは……?」


 ゲームで見た覚えのない石だ。


「宇宙石。」

「宇宙石?」

「宇宙から落ちてきた石。本物だったら役に立つ。」


 そんな石があれば、ゲームに実装されていた気もするが……。


「役に立つ。」

「よかろう」


 どうせダメで元々だ。オレは石を買ってやる。

 ナタは石をパクりと食べた。

 がりがりがり……こくん。


「どうだ?」

「う………。」


 ナタはサアッ――と青ざめた。


「ハズレか」

「かなしい。」


 その場にぺたりと膝をつく。


「うう………。」


 倒れる。


「……大丈夫か?」

「おんぶ。」


 やれやれ。

 オレはナタを背負ってやった。


「かんしゃ。」

「気にするな」


 ブレイドが、ハッとした顔でオレを見た。


「具合が悪くなると、おんぶしてもらえるものなのです……?!」

「その程度なら、やぶさかではないが」

「でしたらわたしも、今日中におなかが痛くなるのです!!!」


 すごい予告だ。


「まぁよかろう」


 そもそもおんぶ程度なら、普通に頼めばしてやるのだが――。


「ありがとうなのですー!」


 ブレイドは、ぴょんっと跳ねて喜んだ。

 かわいい。


 そしてユニコが、露店のツボを見つめていた。


「これは……。

 すばらしいツボなのだ……!」


「ツボが好きなのか?」

「まっ、まぁ、その……なのだ。

 年寄り臭いと言われて恥ずかしいのだが。

 うむ…………なのだ」

「そうか」


 オレは和んだ。

 そしてふと、隣の露店に目がいった。

 コッペパンの屋台であった。

 手のひらサイズのコッペパンが、カラーひよこのノリで売られている。


『こぺこぺこぺ』

『こぺッ』

『こぺー!』


 とてもシュールな景色だが、カオスオンラインにはよくある景色だ。

 飼育モードも普通にあって、騎乗できたりレースできたりもした。

 ジョニーが騎乗する黒コッペパン――トウホウフハイは強敵だった。

 わかるね?


 そんな中、異彩を放つやつがいた。


『すしぃ……』

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