「サトウ、サトウ、サトウ!
いったいなにを考えているのです?!
頭の中身は正気なのです?!
それともわたしも脱ぐべきなのです?!」
変態を肯定してしまったオレに、ブレイドは混乱した。
実際オレも混乱している。
しかしオレにはわからない。
赤の他人との話し方が……!!
援軍は、意外なところから現れた。
「なんという寛容……。すばらしきゴールデンメンタル……」
変態の張本人、マッスルそのものであった。
マッスルは、無言で赤いパンツを穿いた。
「結局はくのですっ?!」
「かつてミーを咎めた者は、最後は力に訴えてきた。
ゆえにミーも、力で対抗した。
しかしサトウ様は違った。
ミーを超える力を持ちつつ、ミーに歩み寄ろうとしてくださった。
ならばミーも、歩み寄りで返すのが礼儀というもの」
さらにマッスルは――。
ネクタイもした。
「このマッスル。
今後はあなた様の筋肉となり、永遠の忠誠を誓います」
誓われてしまった。
オレはただ、コミュ障なだけなんだけど。
「しかしサトウ。ここはわたしたちの国ではないのです。
マッスルを許すかどうかは、わたしたちが決められることでは……」
ブレイドは、獣王である黒豹を見た。
黒豹は言った。
「ネクタイつけてるんなら大丈夫だろ」
「基準がわからないのですぅ!!!」
同意しかない雄叫びだった。
なにはともあれ――。
筋肉の勇者・マッスルが仲間になった!
◆
新たなる仲間を得たオレは、黒豹の屋敷をでた。
「偉大なるキングよ。ミーのトークをお許しください」
「よかろう」
「ミーはこの街の中に、知り合いの筋肉が四人おります。
キングさえよろしければ、かの者たちも傘下にお加えください」
「話はいかほどでつけれる?」
「半日もあれば」
「半日後、またここにこい」
「ありがたき!」
頭を下げたマッスルは、ワープめいた速さで消えた。
「さて……」
待ってる間、なにをしよう。
できれば新しい勇者を探し、スカウトしたいところではあるが。
「ゆく当てはありますか?! サトウ!」
「貴様にはあるか?」
「特にはないのですが、その……」
ブレイドは目を逸らす。
が――。
ぐぅ~~~。きゅるるぅ、きゅうぅ。
腹の虫が雄弁だった。
「食事を取りたいのか」
「はうぅ……」
ブレイドは、頬を赤らめてうなずいた。
「食事でしたら、よい店がありますのだ」
ユニコが自身を、馬へと変えた。
「お、お、お乗りくださいなのだ」
「どうして頬を赤らめる」
「異性を『乗せる』ということは、つまりそういうことでもあるのだ……」
いったいどういうことなのか。
ユニコはゲームにもいたが、細かい設定は知らなかった。
というか乗れたことがない。
ブレイドが言った。
「意図はよくわかりませんが、好意には甘えるべきだと思うなのです!」
実に助かるセリフであった。
こういうセリフを吐いてくれると、乗っかるだけでよいので助かる。
「そうするとしよう」
オレはユニコの上に乗る。
「はきゅんっ!」
ユニコはかわいい声を出してた。
「本当に、乗ってもよかったのか?」
「もももも、もちろん!
ブレイドやナタも、私の背に乗るがよいのだ!」
「僭越ながら……」
「んっ。」
ふたりもユニコの背に乗った。
とりあえず屋台が並んでいるところへ行って、色々と買う。
「やっぱり串焼き肉はおいしいのですぅ♪」
「歩き食いとは、少々品がない気もするが……美味ではあるのだ」
「至福。」
ブレイドが串焼き肉。ユニコがニンジン飴を食べ、ナタはミスリルのナイフ(10万ゴールド)をかじってる。
ブレイドの串焼きは一本100ゴールド。ニンジン飴は500ゴールド。
その状態で10万ゴールド。
仲間キャラではぶっちぎりに強いナタは、維持費もぶっちぎりである。
「時にユニコよ。この近辺で、『勇者』がいそうな場所はあるか?」
心あたりはいくつかある。
だがここは、ゲームの元になった世界。ゲームそのものではない。
実際に住んでいる人の話を聞いて、調整しながら進みたい。
「人の流通も激しいという意味では、裏市場などが……」
ゲームにもあった施設だな。
「案内せよ」
「ハッ!」
ゲームと同じなのか違うのか。
違うとすれば、どんなヒトやアイテムがあるのか。
オレは密かにワクワクしながら裏市場へ向かった。
◆
裏市場。
その雰囲気は、ゲーム通りに薄暗かった。
真っ黒なドブスライムがぬるぬると動き、風体の悪い商人たちが粗末なジュウタンを広げている。
ジュウタンの上には、ドクロのカブトに骨のヨロイに、血で濡れた盾や剣などが売られている。
ブレイド(中二病気質)が震えた。
「惹かれるものがあるのです……!」
「同意。」
「裏というわりに、堂々とやっているな」
ゲームだと違和感がなかったが、リアルだと不思議だ。
「自己責任市場とも言われているからなのだ」
「ほぅ?」
「例えばこの血塗られた剣――」
ユニコは剣を拾いあげた。
刀身は血のように紅く、柄にはドクロの意匠がついてる。
「これはカッコいいのです!
装備すると呪われる代わりに、すごい力が手に入りそうなのです!」
「わくわく。」
「しかし魔力などは感じん。偉大なる余には、ただの安物に見える」
「そうなのだ。
この市場にある九割は、『意味ありげなガラクタ』なのだ」
「へへへ、勘弁してくだせぇよ。姐さん」
店の店主は、照れたように笑った。
「力……」
「ない…?」
ブレイドとナタがしょんぼりとした。
しかしユニコは、にやっと笑う。
「ガラクタなのは、『九割』なのだ」
「ということは……」
「一割は『本物』なのだっ!!!」
ブレイドの顔が、パアッ――と輝く。
「もっとカッコよくなった気がするのです!!!」
「わくわく。」
「ここからは、見て回りやすいようにするのだ」
ユニコがオレたちをおろし、馬から人に姿を変えた。
「サトウ!
わたしはやはり、剣を見たいのです!
魔剣の勇者は、カッコいいと思うのです!」
「わたしはこれ。」
ブレイドがはしゃぐと、ナタは石を持ってきていた。
コンペイトウのようにトゲトゲとしたデザインで、黒曜石のように輝いている。
大きさも、コンペイトウの少し上。
「これは……?」
ゲームで見た覚えのない石だ。
「宇宙石。」
「宇宙石?」
「宇宙から落ちてきた石。本物だったら役に立つ。」
そんな石があれば、ゲームに実装されていた気もするが……。
「役に立つ。」
「よかろう」
どうせダメで元々だ。オレは石を買ってやる。
ナタは石をパクりと食べた。
がりがりがり……こくん。
「どうだ?」
「う………。」
ナタはサアッ――と青ざめた。
「ハズレか」
「かなしい。」
その場にぺたりと膝をつく。
「うう………。」
倒れる。
「……大丈夫か?」
「おんぶ。」
やれやれ。
オレはナタを背負ってやった。
「かんしゃ。」
「気にするな」
ブレイドが、ハッとした顔でオレを見た。
「具合が悪くなると、おんぶしてもらえるものなのです……?!」
「その程度なら、やぶさかではないが」
「でしたらわたしも、今日中におなかが痛くなるのです!!!」
すごい予告だ。
「まぁよかろう」
そもそもおんぶ程度なら、普通に頼めばしてやるのだが――。
「ありがとうなのですー!」
ブレイドは、ぴょんっと跳ねて喜んだ。
かわいい。
そしてユニコが、露店のツボを見つめていた。
「これは……。
すばらしいツボなのだ……!」
「ツボが好きなのか?」
「まっ、まぁ、その……なのだ。
年寄り臭いと言われて恥ずかしいのだが。
うむ…………なのだ」
「そうか」
オレは和んだ。
そしてふと、隣の露店に目がいった。
コッペパンの屋台であった。
手のひらサイズのコッペパンが、カラーひよこのノリで売られている。
『こぺこぺこぺ』
『こぺッ』
『こぺー!』
とてもシュールな景色だが、カオスオンラインにはよくある景色だ。
飼育モードも普通にあって、騎乗できたりレースできたりもした。
ジョニーが騎乗する黒コッペパン――トウホウフハイは強敵だった。
わかるね?
そんな中、異彩を放つやつがいた。
『すしぃ……』
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