ブレイドは、自身の技で足場を穴だらけにした。
ユニコは淡々と語る。
「すさまじくシンプルで平和的なのだ。
それでも馬の私を相手にするには、効果的な戦術なのだ」
「ありがとうなのです!」
ブレイドは、丁寧にお辞儀した。
「しかしわたしは、『人馬の勇者』なのだ」
「ふえ?」
ユニコの体が光り輝く。
馬の体が消え去って、完全な人型になった。
「ふえええええっ?!?!?!」
ユニコがドンッと地を蹴った。
たったそれだけの動作で、大砲のごとき爆音が発生する。
ユニコはハルバードを回転させると、柄のほうでブレイドを突いた。
ダメージを受けたブレイドの衣服が、スパアァンッ!と弾け飛ぶ。
「ふえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんっ!!!」
勝負アリ!!!
「『人馬』の私は、人であり馬。
人になることもできるのだ」
ユニコは自身のハルバードをおろした。
負けてしまったブレイドは、うずくまってオレを見る。
「サトォ……」
負けてしまったからだろう。瞳はうるうる潤んでた。
「よい戦いであったぞ、ブレイド」
オレはブレイドに近づいた。
マントを羽織らせてやる。
「では約束だな、ユニコ」
オレは右手を、クイッとあげた。
「連戦のハンデだ。
右手一本で相手をしてやる」
◆
「先の戦いを見て、まだそれを言うのだ?」
「確かに貴様は、余の予想よりは速かった。
しかし所詮は、その程度にすぎん」
「よくも言ったな!
ブレイドがいい子だったから許してやろうと思ったが、そんな気持ちも消えたのだ!
私の椅子として使ってやるのだ!」
「それでは勝負を始めよう。このコインが地面に落ちた時でよいか?」
「好きにするのだ!」
オレはコインを指で弾いた。
高く飛んだコインは、回転しながら地面に落ちる。
ユニコがドンッと地を蹴って――。
「ふきゃあぁん!」
一瞬で全裸に!
勝負アリ!
ユニコは意外と豊満なボディを覆い隠して、ぺたんと座る。
「いったいどういうことなのだぁ……?!」
「解説してやろう」
その1。
突っ込んでくるユニコの動きを見抜く。
その2。
ユニコが回避できない速さでデコピンを放つ。
その3。
ユニコ全裸に。
「実に緻密に計算された、完璧な戦術と言えるな」
「それは単なるゴリ押しなのです!」
ブレイドはそう言うが、聞かなかったことにした。
「私が速さで負けたのだ……?
私がスローリィなのだ……?」
「貴様はけっして遅くはない。偉大なる余が速すぎただけだ」
「貴公はどのようにして、それほどの速さを身につけたのだ……?」
「特に何もしていない。
生まれ持った才能が、この上なく偉大であったというだけだ」
オレは思った。
(なんて偉そうなんだ……!)
だがオレは、これ以外の話し方を知らない。
一般常識として偉そうなのはわかっているが、正しい会話となると頭が真っ白になる。
などと思っていると――。
「なんと謙虚なのだ……!」
えっ?
「自らの成功を自身の努力と吹聴する者が多い昨今、サトウ殿は自身の力を、ただ天運に恵まれていただけである――と言っているのだ……!」
言ってない。
「ユニコ様もお気づきなのです?! サトウのすばらしさに!」
「わたしの両目は、節穴だったのだ……」
むしろ今が節穴だ。
「サトウ殿。確か貴公は、仲間を集めているのであったな。
今の主君とのことがあるゆえ、すぐにとは言えぬが……」
ユニコはオレをじっと見上げた。
仲間にしてほしそうにオレを見ている。
人を見る目が少しないのは、不安ではあるが――。
勧誘成功!
と思ったその時であった。
少し離れた上空から、異様な気配が接近してきた。
◆
「この気配は……?!」
ユニコが身構える。
「えええ、ええっと、なにかがいらっしゃったんですね?! サトウ!」
ブレイドも、一足遅れて身構えた。
遠くの空から近づいてきたソレは、人型のナニカであった。
そんなナニカは、距離にして一キロは離れているところで止まった。
「熱源を発見、分析開始。
…………。
分析終了。
ランクS勇者、人馬の勇者の負傷を確認。
『抹消の好機』」
赤い何かが煌めいた。
「――火尖槍。」
ズギュウゥンッ!!!
深紅の閃光が放たれる。
「サトウ!」
ブレイドが、オレの前に躍り出た。
「ギルティズ・ブレイド!!!」
必殺技を放つ。
金色の閃光が、紅蓮の閃光へと向かい――。
あっさりとかき消された。
「ふええっ?!」
ブレイドは涙目になった。
ブレイドの必殺技は、『当たりにくいが威力は高め』
にも関わらず今回は、『当たったのに意味がなかった』
存在意義がほぼ消えじゃないか……!
しかしブレイドが嘆く間もなく、閃光は近づいてきた。
オレはブレイドをどかす。
「ダメなのです、サトウ!
アレを浴びては流石のサトウも――」
ぺちんっ。
オレは右手で閃光を弾いた。
弾かれた閃光は空へゆき、雲に大きな穴をあけた。
「アレぐらいなら、なんということはない」
「そうなのですね……。
はははは……。そうなのですね……」
ブレイドが、その場にぺたりと崩れ落ちる。
オレの何気ない防御が、ブレイドを傷つけてしまった。
「それでも……。
サトウが無事でよかったのです……♪」
ブレイドはほころんだ。
かわいい。
なんて会話をしている間にも、閃光を放ったナニカはオレたちに近づいていた。
手首に金色の腕輪をはめて、猫耳のような機械のパーツをつけた少女。
「――火尖槍。」
「クッ――!」
ユニコに向かって突きを繰り出し、ユニコは自身の槍でいなす。
ギャリイィン!
激しく打ち合い火花を散らし、お互いに距離を取る。
「――乾坤圏。」
「エアロシールド!」
少女がチャクラム状の武器を飛ばすと、ユニコは風の盾を作る。
風はチャクラムを一瞬止める――が。
チャクラムは風を突き破る!
「クウッ!」
ユニコは際どく回避する。
チャクラムが頬をかすめた。
「ふむ」
オレは少し離れたところで、デコビンの素振りをした。
バチコォンッ!
空気の圧力が少女に当たった。服の半分が破け、際どい肢体が露わになる。
それでもまだまだ、戦えるではあろうだろうが――。
「損傷………大きい。」
空を飛んで消えていく。
「今のは、確か……」
ブレイドのつぶやきにユニコが答える。
「機人の勇者なのだ」
機人の勇者。
またの名前を、中壇元帥・ナタ。
十傑の中でも最強に位置するキャラクター。
あまりの強さに二強十傑百騎衆を、二強ナタ九傑と評するプレイヤーもいる。
攻撃力が100ブレイド。
防御力が80ブレイド。
敏捷値は60ブレイドと、ブレイド5ダース分より強い。
それほど強いにも関わらず、機人国周辺をパトロールしている。
『ゲームで二番目に強いボスがフィールドでエンカウントする』と言えば、ヤバさがわかってくれると思う。
しかも一定のダメージを与えると逃げていくため、倒すのも困難だ。
が――。
ドギュウゥン!!!
オレは飛んで追いかける!!!
「待つのだサトウ殿!
ナタはとても速いのだ!
深追いすると、機人国の領地……に…………」
ユニコはごちゃごちゃ言ってる合間に、ナタを捕まえて戻ってきていた。
ロープで簀巻きにしている。
「負けた。」
ナタは特に暴れもしない。
無表情で捕まっている。
ナタがいくら強いと言っても、二強ナタ九傑。
オレが二強の片割れである以上、負けることはない。
「あなたの強さ、おかしい。」
「余は偉大だからな」
「おかしい。」
「時にユニコよ、余になにか言っていたようだが……」
「…………」
ユニコは無言だ。
ぷち……、ぷち、ぷち。
(´・ω・`) な顔でなにも言わずに、草むしりを始めてる。
「む……?」
「サトウ殿は、すべてひとりでやれるのでは……?」
やりすぎた。
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