魔王でニューゲーム!

~リアルで死んだらゲームのステータスを持って異世界に行けました~
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08話 ユニコーンの勇者・勧誘の成功と悲しみ

公開日時: 2020年9月1日(火) 14:10
更新日時: 2020年9月24日(木) 13:13
文字数:3,013

 ブレイドは、自身の技で足場を穴だらけにした。

 ユニコは淡々と語る。

 

「すさまじくシンプルで平和的なのだ。

 それでも馬の私を相手にするには、効果的な戦術なのだ」

「ありがとうなのです!」


 ブレイドは、丁寧にお辞儀した。

 

「しかしわたしは、『人馬の勇者』なのだ」

「ふえ?」


 ユニコの体が光り輝く。

 馬の体が消え去って、完全な人型になった。





「ふえええええっ?!?!?!」


 ユニコがドンッと地を蹴った。

 たったそれだけの動作で、大砲のごとき爆音が発生する。

 ユニコはハルバードを回転させると、柄のほうでブレイドを突いた。

 ダメージを受けたブレイドの衣服が、スパアァンッ!と弾け飛ぶ。

 

「ふえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんっ!!!」


 勝負アリ!!!

 

「『人馬』の私は、人であり馬。

 人になることもできるのだ」

 

 ユニコは自身のハルバードをおろした。

 負けてしまったブレイドは、うずくまってオレを見る。

 

「サトォ……」


 負けてしまったからだろう。瞳はうるうる潤んでた。

 

「よい戦いであったぞ、ブレイド」


 オレはブレイドに近づいた。

 マントを羽織らせてやる。

 

「では約束だな、ユニコ」


 オレは右手を、クイッとあげた。


「連戦のハンデだ。

 右手一本で相手をしてやる」

 

  ◆

 

「先の戦いを見て、まだそれを言うのだ?」

「確かに貴様は、余の予想よりは速かった。

 しかし所詮は、その程度にすぎん」


「よくも言ったな!

 ブレイドがいい子だったから許してやろうと思ったが、そんな気持ちも消えたのだ!

 私の椅子として使ってやるのだ!」

「それでは勝負を始めよう。このコインが地面に落ちた時でよいか?」

「好きにするのだ!」


 オレはコインを指で弾いた。

 高く飛んだコインは、回転しながら地面に落ちる。

 ユニコがドンッと地を蹴って――。

 

「ふきゃあぁん!」


 一瞬で全裸に!

 勝負アリ!

 ユニコは意外と豊満なボディを覆い隠して、ぺたんと座る。

 

「いったいどういうことなのだぁ……?!」

「解説してやろう」


 その1。

 突っ込んでくるユニコの動きを見抜く。

 その2。

 ユニコが回避できない速さでデコピンを放つ。

 その3。

 ユニコ全裸に。


「実に緻密に計算された、完璧な戦術と言えるな」

「それは単なるゴリ押しなのです!」


 ブレイドはそう言うが、聞かなかったことにした。

 

「私が速さで負けたのだ……?

 私がスローリィなのだ……?」

「貴様はけっして遅くはない。偉大なる余が速すぎただけだ」

「貴公はどのようにして、それほどの速さを身につけたのだ……?」

「特に何もしていない。

 生まれ持った才能が、この上なく偉大であったというだけだ」

 

 オレは思った。

 

(なんて偉そうなんだ……!)


 だがオレは、これ以外の話し方を知らない。

 一般常識として偉そうなのはわかっているが、正しい会話となると頭が真っ白になる。


 などと思っていると――。

 

「なんと謙虚なのだ……!」


 えっ?

 

「自らの成功を自身の努力と吹聴する者が多い昨今、サトウ殿は自身の力を、ただ天運に恵まれていただけである――と言っているのだ……!」


 言ってない。

 

「ユニコ様もお気づきなのです?! サトウのすばらしさに!」

「わたしの両目は、節穴だったのだ……」


 むしろ今が節穴だ。

 

「サトウ殿。確か貴公は、仲間を集めているのであったな。

 今の主君とのことがあるゆえ、すぐにとは言えぬが……」

 

 ユニコはオレをじっと見上げた。

 仲間にしてほしそうにオレを見ている。

 人を見る目が少しないのは、不安ではあるが――。


 勧誘成功!


 と思ったその時であった。

 少し離れた上空から、異様な気配が接近してきた。

 

  ◆

  

「この気配は……?!」


 ユニコが身構える。

 

「えええ、ええっと、なにかがいらっしゃったんですね?! サトウ!」


 ブレイドも、一足遅れて身構えた。

 遠くの空から近づいてきたソレは、人型のナニカであった。

 そんなナニカは、距離にして一キロは離れているところで止まった。

 

「熱源を発見、分析開始。

 …………。

 分析終了。

 ランクS勇者、人馬の勇者の負傷を確認。

 『抹消の好機』」

 

 赤い何かが煌めいた。

 

「――火尖槍。」


 ズギュウゥンッ!!!

 深紅の閃光が放たれる。

 

「サトウ!」


 ブレイドが、オレの前に躍り出た。

 

「ギルティズ・ブレイド!!!」


 必殺技を放つ。

 金色の閃光が、紅蓮の閃光へと向かい――。


 あっさりとかき消された。

 

「ふええっ?!」


 ブレイドは涙目になった。

 ブレイドの必殺技は、『当たりにくいが威力は高め』

 にも関わらず今回は、『当たったのに意味がなかった』

 

 存在意義がほぼ消えじゃないか……!

 

 しかしブレイドが嘆く間もなく、閃光は近づいてきた。

 オレはブレイドをどかす。

 

「ダメなのです、サトウ!

 アレを浴びては流石のサトウも――」

 

 ぺちんっ。

 オレは右手で閃光を弾いた。

 弾かれた閃光は空へゆき、雲に大きな穴をあけた。

 

「アレぐらいなら、なんということはない」

「そうなのですね……。

 はははは……。そうなのですね……」

 

 ブレイドが、その場にぺたりと崩れ落ちる。

 オレの何気ない防御が、ブレイドを傷つけてしまった。

 

「それでも……。

 サトウが無事でよかったのです……♪」

 

 ブレイドはほころんだ。

 かわいい。

 なんて会話をしている間にも、閃光を放ったナニカはオレたちに近づいていた。

 手首に金色の腕輪をはめて、猫耳のような機械のパーツをつけた少女。

 

「――火尖槍。」

「クッ――!」


 ユニコに向かって突きを繰り出し、ユニコは自身の槍でいなす。

 ギャリイィン!

 激しく打ち合い火花を散らし、お互いに距離を取る。

 

「――乾坤圏。」

「エアロシールド!」


 少女がチャクラム状の武器を飛ばすと、ユニコは風の盾を作る。

 風はチャクラムを一瞬止める――が。

 チャクラムは風を突き破る!

 

「クウッ!」


 ユニコは際どく回避する。

 チャクラムが頬をかすめた。

 

「ふむ」


 オレは少し離れたところで、デコビンの素振りをした。

 バチコォンッ!

 空気の圧力が少女に当たった。服の半分が破け、際どい肢体が露わになる。

 それでもまだまだ、戦えるではあろうだろうが――。

 

「損傷………大きい。」

 

 空を飛んで消えていく。

 

「今のは、確か……」


 ブレイドのつぶやきにユニコが答える。

 

「機人の勇者なのだ」


 機人の勇者。

 またの名前を、中壇元帥・ナタ。

 十傑の中でも最強に位置するキャラクター。

 あまりの強さに二強十傑百騎衆を、二強ナタ九傑と評するプレイヤーもいる。


 攻撃力が100ブレイド。

 防御力が80ブレイド。

 敏捷値は60ブレイドと、ブレイド5ダース分より強い。

 

 それほど強いにも関わらず、機人国周辺をパトロールしている。

 

『ゲームで二番目に強いボスがフィールドでエンカウントする』と言えば、ヤバさがわかってくれると思う。

 しかも一定のダメージを与えると逃げていくため、倒すのも困難だ。

 が――。


 ドギュウゥン!!!

 オレは飛んで追いかける!!!

 

「待つのだサトウ殿!

 ナタはとても速いのだ!

 深追いすると、機人国の領地……に…………」


 ユニコはごちゃごちゃ言ってる合間に、ナタを捕まえて戻ってきていた。

 ロープで簀巻きにしている。

 

「負けた。」


 ナタは特に暴れもしない。

 無表情で捕まっている。

 ナタがいくら強いと言っても、二強ナタ九傑。

 オレが二強の片割れである以上、負けることはない。

 

「あなたの強さ、おかしい。」

「余は偉大だからな」

「おかしい。」

「時にユニコよ、余になにか言っていたようだが……」

「…………」


 ユニコは無言だ。

 ぷち……、ぷち、ぷち。

 (´・ω・`) な顔でなにも言わずに、草むしりを始めてる。

 

「む……?」

「サトウ殿は、すべてひとりでやれるのでは……?」


 やりすぎた。

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