オレがやりすぎてユニコがいじけた。
だがしかし、この対応は困る。
このいじけは、ゲームの中で見たことがなかった。
ゲームでなかったことには対応できない!!!
なんてオレが思っていると、ブレイドが言った。
「ユニコ。あなたは、自分よりも弱くて能力がない方々を、『無能で不要』と思っているです?」
「そんなことは…………ないのだ」
「なのです!
一番の存在に追いつけないからと言って
お役に立てないとは限りません!
ですからですから、元気なほうがお素敵なのです!」
「サトウ殿があなたを、一番の腹心として傍においている理由がわかったのだ……!」
ブレイドの瞳が、にわかに輝く。
ほわあぁ……!
という擬音も、聞こえてきそうだ。
「きききき、聞きましたか、サトウ!
わたしはサトウ一番の腹心に見えるようなのです!
わたしはとてもうれしいですが、サトウ的にはどうなのです?!
わたしはとてもうれしいですが!」
オレは言った。
「助かっている」
「くゥ~~~~~~~~んっ」
ブレイドは拳を握りしめ、ぷるぶると震えた。
頭のアホ毛もめっちゃゆれてる。
かわいい。
「時にサトウ殿。
ナタ殿に、質問があるのだ」
「よかろう」
ユニコはナタに問いかけた。
「わたしとあなたは、過去も何度か戦っているのだ。
しかし今日の貴公は、過去の何倍も強くなっていたのだ。
いったい、どういうことなのだ?」
ナタは言った。
「オリハルコン。」
「なに……?!」
「オリハルコン、食べた。」
「確かに機人は、良質な金属で強くなることができる。
しかしオリハルコンほどの超希少金属を、容易く食せるはずはない。
「それでも、食べた。」
「どうやって手に入れた?」
ナタは言った。
「大勇者がくれた。」
大勇者。
それは大魔王と対をなす、二強の一角。
そしてゲームのラスボスだ。
私欲のために魔王を悪と決めつけて、魔族と魔王を大虐殺。
諌める勇者の娘を目の前に連れ出して、拷問の末に虐殺するイベントもあった。
とりあえずオレが、倒すべきと定めている相手。
(もちろんここの大勇者が、ゲームと違う性格の可能性もあるが……)
警戒しておくべきだろう。
「なにはともあれ、一度街に戻ろうなのだ。
我があるじに、ナタやサトウ殿のことを伝えなければなのだ」
「そうしようか」
オレたちは、街に戻ることにした。
◆
同刻。
機人国の『四天王』が集まり会議をしていた。
「ナタが捕虜にされたようだな」
「やつはマシンガルド最強を名乗っていたが、実際にその通り」
「『四天王の功績』と言われるものも、その九割がナタによるもの」
「我の力はナタに及ばぬ」
「我の力もナタに及ばぬ」
「王もその若さゆえ、ナタの力には遠く及ばぬ」
「……」
「…………」
「………………」
「「「どうしよう……」」」
◆
街の手前。城壁近く。
「ついたな」
オレはナタの縄をほどく。
「サトウ殿?!」
「どうした?」
「拘束を解くのは、さすがに……」
「案ずるな」
オレはナタの首筋に、人差し指を当てた。
「んうっ………!」
ナタが苦痛に顔をゆがめる。
「よし」
「………。」
ナタは自身の手のひらをじっと見つめる。
「ブレイドを倒してみろ」
「サトウ?!」
「余を信じろ」
「承知なのです!」
素直であった。
「………。」
ナタはしばし黙っていたが、オレの言う通りにした。
ブレイドにパンチ。
ぽこん。
ブレイドにキック。
ぺこん。
「――火尖槍。」
槍を召喚するものの――。
「っ?!」
下敷きにされた。
スパアァンッ!
そのダメージで服が弾ける。
「んうっ………。」
涙目でオレを見た。
オレは裸から目を逸らし、槍を持ちあげる。
「ナタには偉大なる余が呪いをかけた。
今のナタなら、一般人でも押さえつけられる」
「さすがはサトウなのです!」
「すさまじいのだ……」
「あなたの力………おかしい。」
「街に入るぞ」
ナタの服を元に戻して、街に入った。
淡々と歩く。
賑やかな露店街を通りがかった。
魚や肉に、果物や武器屋が並んでいる。
「サ、サトウ……」
「あの串焼き肉か?」
「自分のお金で買いますゆえ!」
「よかろう」
「ありがとうなのです!!!」
ブレイドは、肉を四本買ってきた。
「サトウや、おみなさまの分なのです!」
「気が利くではないか」
「気持ちはありがたいのだが、私は肉を食えぬのだ」
「同じく。」
オレはありがたくいただくが、ユニコとナタは断った。
「ざんねんなのです……」
ブレイドは、露骨に肩を落とす。
「みなさまが食べないのであれば、わたしが三本食べても……?!」
しかしすぐさま立ち直った。
オレと二本ずつわけるのではなく、自分が三本と言う。
このブレイド、地味に食い意地が張っている。
「おいしいなのですぅ~~~~~~」
しかし満面の笑みで食べているのはかわいい。
そんなブレイドを見ていると、ナタが奇妙な動きを見せた。
夢遊病患者のようにフラフラとした足取りで、武器屋のほうへ吸い寄せられる。
「いらっしゃい、お嬢ちゃん。
メリケンサックはもちろんのこと、小手やヒザ当て、鎖カタビラも全部ミスリルのミスリル屋台だよ!」
オレも屋台に寄って見る。
「剣や盾は少ないのだな」
「獣人族は、拳や双短剣で戦う者が多いのだ。私はハルバードを使用してるが、例外と思ってくれなのだ」
「なるほど」
「しかしミスリル製品にしては、価格が少々安い気がするのだ……」
「そこはもう、サービスでさぁ!」
「ふーむ……」
ユニコは武器屋を怪しんだ。
ナタがメリケンサックを手に取ると――。
(ぱくり。)
食べた。
「いったい何をやっているのです?!」
ブレイドが、慌ててナタの首を絞めた。
「落ち着け、ブレイド。ナタが死ぬ」
「もももも、申し訳ないのです!」
やれやれ。
心配するブレイド。しかし当のナタはというと……。
顔が青ざめていた。
そのままパタリと倒れてしまう。
「メリケンサックなんて食べるからなのです……!」
「ブレイド殿が、首を絞めたのが原因にも思うのだ……」
「………。」
ナタは武器屋の武器を指差す。
「ミスリルじゃない………。
安………物。」
「通りで安いと思ったのだ」
ユニコは懐から、金色のメダルを出した。
ライオンがデザインされている。
「じゅじゅじゅじゅ、獣王メダル?!」
「メダルを示した私への偽りは、王に対する偽りなのだ」
「ひいいっ……!」
「では改めて問うのだ。
この店の製品に使われている金属は――――ミスリルなのだ?」
「半分以上が、メッキをしているだけのクズ鉄でさぁ……!」
店主はへなりと崩れ落ち、深々と土下座した。
「正直に吐いた点は褒めるのだ。
騎士を派遣しておくがゆえ、沙汰を待つのだ。
正直の分、減刑はしてやるのだ」
「ははぁー!」
「おすごいなのです! ユニコはとっても、おすごいなのです!」
「ま、まぁ、この国の中でも、八指に入る程度には」
「おすごいなのです……!」
ブレイドは、キラキラと目を輝かせた。
「ブ、ブレイド殿は、容易く人を褒めるクセがあるのだ。
それはとても素敵だが、恥ずかしいのでよくないと思うのののの、だ」
ユニコは照れているようだった。しかし満更でもない様子ではある。
そして――。
「大丈夫か? ナタ」
「きびしい。」
「よい金属で治るか?」
「うん。」
「ふむ」
オレは『宝物庫』から、ゴールドミスリルを取りだした。
「食してみろ」
ナタの口に入れさせる。
(ぱくん。)
(かりかりかり。)
(こくん。)
「どうだ?」
ナタはゆっくりと起きあがる。
「治った。」
「そうか」
「おかわりもほしい。」
「おかわりか……」
これは懐柔に使えるかもしれない。
オレは二個目を取りだした。
「これがほしいのだな?」
「とても。」
「ならば余の配下となれ」
「わかった。」
「あっさりだな」
「思うところがある。」
「そうか……」
「あとは………。」
「あとは?」
ナタはブレイドやユニコを見て言った。
「楽しそう。」
「それはその通りだな」
オレは、フッ――と笑って見せた。
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