そこにいたのはエビのお寿司だ。
小さなコッペパンに紛れた形で、エビのお寿司が入ってる。
「寿司か」
生きているのは珍しい。
寿司はコッペパンに比べると、鮮度が命で死にやすい。
「こいつをもらおう」
「いいのかい?」
「構わん」
「明日死んでいても、文句は言わんでくれよ?」
エビ寿司に手を伸ばす。
「すしぃ……?」
エビ寿司はちょこちょこと、オレの手元に寄ってきた。
そして――。
がぶっ!
噛みついてきた。
「サトウ殿?!」
「大丈夫だ」
オレは慌てるユニコを制し、エビ寿司にやさしく声をかけた。
「怖くない。怖くないぞ?」
「…………」
エビ寿司は、オレから口を離した。
「すし……」
エビ寿司が舌を出し、オレの指先を舐めた。
「怯えていただけなのであろう?」
「スシッ!」
寿司はオレの手のひらに乗った。ちょろりと動き、肩のところまで移動してくる。
「これはどういう光景なのです……?」
「なぞ。」
しかしこういう世界なのだ。
この世界では、寿司が普通に生きている。
わかるね?
エビは酢を飲ませると元気になった。
「エビーん!」
ぴょんと飛び跳ねてこてこ動き、オレの手のひらに乗ってくる。
「こうして見ると、ハムスターのようだな」
「それはないと思うのです……」
「サ、サトウ殿の感性は、なかなかに独特なようであるのだな……」
「ゆにーく。」
◆
エビを肩に乗せて歩いていると、不意に声をかけられた。
かわいらしいハチマキに、スポーティな胴着。そしてスパッツをはいた少女だ。
「初めまして! ボクは拳の勇者ナックル!」
快活に笑った少女は、ピンク色の笑みを浮かべて――。
「脱衣チャレンジはどうかなぁ……?」
「脱衣チャレンジ……?!」
R18モードに限定して存在しているという噂の……?!
「簡単な柵の中で、ボクとおにーさんがふたり切り。
五分以内に、ボクのハチマキを奪えたらおにーさんの勝ち。
ボクがスパッツの下にはいているパンツかぁ、胴着の下に着ている肌着。
好きなほうを好きにしていいよ?
もしも三連勝したら……」
拳の勇者ナックルは、下唇に手を当てた。色っぽいしなを作る。
「ボクのことも…………好きにしていいよ?」
「ワンチャレンジで金貨一枚であったな」
オレは金貨を、『三枚』渡した。
「いきなり三枚? ありがとー。えへへぇー」
拳の勇者ナックルは、金貨をしまった。
「おおおお、お待ちくださいなのです!
このようないかがわしいたわむれを、おやりになるのです?!」
「相手が勇者である以上、乗るしかあるまい」
「でしたら!
わたしが!!」
ブレイドはやる気だ。
「ハチマチを取ろうとして胸や太ももに触れちゃうような、ドスケベハプニングがあるかもなのです!!!
そんなのサトウに、させたくはないのです!
わたしはヤキモチ焼きなのです!」
「ボクは全然構わないけどなぁー」
「わたしが構うのですぅー!」
(><)に叫んだブレイドは、柵の中に入っていった。
「まぁどっちでもいいけどー」
ナックルも柵に入った。
柵の横にあった台へと向かい、砂時計をひっくり返す。
「時計の砂が全部落ちたら終了。おっけー?」
「はいっ!」
ブレイドは剣を構えた。
「ちょえええええええええええええええええええええっ?!?!?!」
「どうしたなのです?」
「それはボクのセリフだよ! どうして剣を構えてるの?!
ハチマキじゃなくて首が取れるよ?!」
「言われてみるとそうなのです……」
「言われなくても気がついてぇ!!!」
「わかったなのです!」
ブレイドは、剣をしまった。
「それと剣はダメだけどぉ、パンチやキックは普通にアリだよ?」
「アリなのです……?」
「ボクはしないけどね」
拳の勇者ナックルは、両手を広げてにへらと笑う。
「自信があるのはわかったのです!
ですがあなたが攻撃をしないなら、わたしのほうもしないのです!」
「おっけー♪
じゃあ……いつでもどうぞ?」
拳の勇者、ナックルは構えた。
そして――。
ブレイドは六連敗した。
◆
「かはっ、はっ、はあっ……」
六連敗のブレイドは、とても疲れていた。
地面に手をつけたorzの姿勢で、絶え絶えな息を吐いている。
「まいどありっ♪」
「ふえぇん……」
「そこまでだな、ブレイド。貴様では、百度やってもナックルには勝てん」
ナックルは、百騎衆の中堅キャラだ。
最下位のブレイドでは難しい。
「見ていなかったのです?!
わたしはここまでのチャレンジで、五回はハチマキに触れていたのです!
あと一歩が遠いだけなのです!」
「その『あと一歩』とは、ナックルが見せた幻影だ。
余裕をもって勝てるところで『あと一歩』を演出し、チャレンジをさせているにすぎん」
「気づいちゃったかー、あははー」
「それに気づけない貴様が、ナックルに勝てる道理はない」
「サトウは、そんなに下着がほしいのです?! ドスケベハプニングをしたいのです?!
でしたらわたしに言ってなのですぅ!
わたしは相手がサトウなら、下着の準備もあるのですぅ!」
ブレイドは、スカートの中に手を突っ込んだ。
パンツをおろす仕草をしている。
「安堵せよ。
偉大なる余は、ハプニングを起こす間もなく勝利する」
「ボクとしては面白くないなぁ……それ」
ナックルの目が険しくなった。
「格闘術には、自信を持っているようだな」
「いちおー拳の勇者だし?」
「しかし偉大なる余は、偉大なる存在である。
この世のすべての勇者より、単純に優れている」
「……始めさせてもらうよ?」
「よかろう」
オレは肩のエビをブレイドに預けた。
ナックルは、砂時計をひっくり返す。
「それじゃあ、どう――」
「取ったぞ」
「えっ……」
ナックルはオレの右手のハチマキを見つめると、自身の頭に手をやった。
「えっ……?!」
「余の一勝だな」
オレは金貨とハチマキを渡す。
「っ……」
ナックルはスパッツを脱いだ。胴着の下に手を入れて、パンツも脱いだ。
大事なところは胴着のヒラヒラとした部分で絶妙に隠れ、見えそうで見えない。
ナックルは、自身のパンツを砂時計の横においた。
「つ……次は油断しないからね」
「そうしろ」
二戦目だ。
ナックルはファイティングポーズを取った。ケモノのような眼光でオレを見つめる。
が――。
「取ったぞ」
「ええぇ?!?!?!」
オレはハチマキを返し、金貨を渡す。
「次に勝てば、偉大なる余は貴様を好きにできるのであったな」
「そうだけど……まままま、魔法はダメだよ?! 禁止だよ?!」
「今までの二戦は、魔法のせいだと思っているのか?」
「そうじゃない……けど、体術で負けるなら仕方ないかなー……って」
「攻撃はしないという話であったが――。
解約しても構わんぞ?」
「シャクだけど、そうさせてもらおうかな……」
ナックルの瞳が、金色に輝いた。
闘気がたぎっているのだろう。髪がわずかに浮いている。
「このモードのボクは、筋力も視力も、今までの五倍になるからね……?」
「それでは貴様に、敬意を表し――」
オレは素早く前にでた。
ナックルの動体視力で見える程度のスピードで近づく。
だがしかし、体のほうが追いつかない。
腕をピクリと動かすが、それが限界。
オレにハチマキを取られ、勝負にも負けてしまう。
「取ったぞ?」
「ほんとーに、ふつーに取ってただけなんだねぇ……」
「そういうことだな」
「だけどまぁ、負けちゃったものは仕方ないなぁ。
ほんとにスルのは初めてだけど、おにーさんはカッコいいし……。
そこの路地裏でいい?」
なん……だと?!
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