魔王でニューゲーム!

~リアルで死んだらゲームのステータスを持って異世界に行けました~
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11話 獣人王との軽いバトルと重い依頼

公開日時: 2020年9月1日(火) 14:10
更新日時: 2020年9月24日(木) 13:14
文字数:3,472

 獣人王の屋敷。

 ユニコが王室の扉を開く。

 そこにいたのは――。


「よくきたなぁ、オレがこの国の王様ってやつだ。

 黒豹とでも呼んでくれ」


 裸の男。


 爽やかにあいさつをしているが、ほぼ裸。

 黒豹と名乗るだけあり、黒い肌と豹のような耳と尻尾がついている。

 ブレイドが、出会って五秒でぶっ放す。


「ギルティズ・ブレイドォーーーー!!!!!」


「無礼をするなと言った直後にいぃーーーーーーーーーーー!!!」


「申し訳ないのです!

 あまりに変態だったので、つい!」

「謝罪になっていないのだ!」

「ハッハッハ」


 黒豹は、愉快そうに笑った。


「許してやれ、ユニコ。俺はこの通り無事だ」


 オレは改めて変態を見る。

 黒光りする筋肉に、黒いネクタイ。金色に輝く小手。

 下にはいてる黒いパンツが、あまり見たくない感じになってる。

 そしてその肉体には、傷ひとつついていない。


「力は『流石』といったところか」

「それを言うアンタも……。かなりやるねぇ」


 変態は、鋭い眼光を向けてくる。

 殺気めいたそれを、オレは真正面から受ける。

 互いに察したオレたちは、ふたり並んで庭にでる。

 オレの心は弾んでいた。


(ゲーム通りの展開だぁ!!!)


 ゲーム通りの展開ならば、すんなりしゃべれて行動もできる。


 変態ハウスの庭は広い。

 まるで戦いのためにあったかのような広さだ。

 ゲームの時も広かったが、リアルで降りるとより際立つ。


「俺から行くぜ?」


 変態の突撃。繰り出される拳。

 オレは左腕でいなし、カウンターの右。

 それは変態の顔に刺さった。

 と――思いきや。

 変態の姿が、薄くなって消える。


「残像だぜ?」


 変態は、オレの背後に回っていた。

 ドンッ!

 掌底が、オレの背中に入った。

 オレは吹き飛ぶ。

 宙でくるりと回転し、体勢を整えた。

 先の変態と同様に、余裕の笑みを浮かべて言った。


「本体だ」


 ブレイドが突っ込む。


「要は普通に殴られたのですー!!!」

「フンッ」


 オレは傲慢に笑った。

 今のは避けようと思ったら、避けられる攻撃であった。

 だがあえて受けた。

 リアルで攻撃を受けると、どうなってしまうのか。

 敗北してもさして問題のないここで、試しておこうと思ったのだ。

 その感想は――。


(痛い!!!!!)


 タンスの角に足をぶつけた程度だ。

 命に別状はない。

 後遺症も残らない。

 けど痛い!

 めっちゃ痛い!

 のたうち周りそうなほどに痛い!

 オレは今、猛烈に後悔しているッ!!!


 しかし今のオレは大魔王。

 クールという設定の大魔王。

 余裕ぶって言ってやる。


「タンスの角に、足をぶつけた程度の痛み――といったところか」


「我が王の一撃を受けて、その程度で耐えるとは……!」

「つよい。」

「ですがタンスの角に足をぶつけるとは、とてもお痛い気がするのです……!」


 ユニコとナタが、ブレイドを見た。

 ブレイドは慌てる。


「実際お痛いと思うのです!

 間違えてぶつけた日には、痛みで立ちあがれないのです!

 サトウもきっと、お痩せガマンと思うのです!」


 その通りであった。

 タンスの角に小指は痛いし、痩せガマンもしている。

 それをごまかすかのように、魔法陣を展開させた。


「無詠唱で三つだとっ?!」

「無詠唱で魔法陣を展開するだけでもすごいのに……」

「おかしい。」


「フレイムドラゴン!!!」


 赤、青、黄色の火竜が、変態に向かった。


「チイッ!」


 変態は、自身の両手に気弾を込める。

 竜の攻撃を回避しながら、一発目を赤の竜。二発目を青の竜に当てた。

 しかし黄色の竜が、眼前に迫り――。


「フッ」


 オレが竜を消し去った。


「ここまでにしておこう」


「フーーー」


 変態は息を吐く。


「アンタ――。

 俺の七倍はつえぇな」


 変態こと黒豹は、自分が格下であることを認めてきた。


「偉大なる余の七分の一に匹敵すると言うのか。

 不遜にして不敬ではあるが――――特別に許そう」


「ハッハッハ。こりゃ適わねぇなぁ」


 王は部屋に戻った。どっかと床に座り込む。

『王の顔』でオレに言う。


「で――なんの用だ?」


 オレは立ったまま言った。


「実にありがたいことに、貴様と同盟をくんでやる」

「俺たちへのメリットは?」

「偉大なる余が敵に回らん」

「すげぇ交渉だな……」

「サトウ殿ぉ……!」


 ユニコは泣きそうになってるが、オレは魔王なので仕方ない。


「無論断ったからと言って、この国を滅ぼすということはない。

 ユニコの存在に免じ、便宜を図ってやることも考えている」

「かなりの天空目線だが、言うだけの力があるのも間違いねぇな。

 俺様の大胸筋が『逆らうな』。僧帽筋が『同盟を組め』。上腕二頭筋が『これは破格の交渉だ』って言ってやがるぜ」


 それはどういう感覚なんだ。

 正直理解しがたいが――。


「その理解力、称賛に値する。

 偉大なる余の交渉は、気まぐれであり戯れだ。貴様ら下民は偉大なる余の気まぐれに、一喜一憂するしかない。

 空にものを言うことが無意味なように、余にものを言うことも無意味だ」


 オレは緊張で胸が高鳴る。


(大丈夫か? これ。

 ゲームでも、この偉そうな物言いが受けてはいたが……)


 表面上は取り繕っているものの、内心ではドキドキである。

 手に汗だってにじんでる。


「そこまで堂々と言われちまうと、逆に好感度があがるなぁ。

 実際、それだけの力もあるだろうしな。

 俺の首――胸鎖乳突筋もそう言ってらぁ」


 よかった!!!

 オレはほっと安堵する。


「しかし同盟を組むって言うなら、ひとつ用事を頼んでも構わねぇか?」

「用事とは?」


「変態を退治してほしい」


「ギルティズ・ブレイドォー!!!」


 ブレイドが、必殺技をぶっ放した。

 どごーん!

 黒豹が爆発する。


「ブレイド殿ーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

「変態を退治してほしいと言われましたので……」


 完全無傷の黒豹は、やれやれといった感じで言った。


「まったく……。せわしないお嬢さんだぜ。俺のどこが変態なのか」

「お言葉ですがその格好は、変態以外の何者でも……」

「よく見てくれ」


 黒豹は、自身の胸元を親指で示した。


「ネクタイをしているだろう?」

「そういうものなのです……?」

「そういうものだぜ?」

「サ、サトウはどう思うのです?

 わたしはわたしは、サトウの意見を聞きたいのです!」

「…………」

「サトウ?」


「ああ、すまん。考え事をしていた」


 黒豹が変態。

 軽く戦う。

 勝利または善戦する。


 ここまでは、ゲーム通りのシナリオだ。

 しかし依頼の内容は、『南方の盗賊団の退治』であった。


『やたら強い盗賊団』

 それはカオスオンラインにおける、カオス要素の一角だった。

 

 団の規模は約3000人。

 精鋭も多い。

 十傑なら三人。百騎衆なら三十人。雑兵なら三万人が必要だった。

 獣人国の軍隊より強い。

 盗賊団が、どうしてそんなに強いのか。

 以下は攻略wikiからの抜粋である。


 Q

 獣人国に発生する盗賊団が、獣人国の軍隊よりも強いんですが……。


 A

 このゲームでの盗賊団は、軍隊よりも強いのがいる。

 わかるね?


 そんな盗賊団が消失し、変態を倒せ――というイベントになっている。

 これはどういうことなのか。


(調査が必要だな……)


 オレは深くうなずいた。


「サトウが構ってくれないのですぅ……。

 さびしいのですぅ……」


 ブレイドは嘆いていたが、調査は必要なので諦めてほしい。


「変態とは、どのような変態なのだ?」

「その変態はなぁ……」


 黒豹は、一拍溜めてから言った。


「裸で街を出歩くんだ」


 ブレイドが、もはやヤケクソのように叫んだ。


「ギルティズ・ブレイドォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!」


 しかし黒豹は軽くいなして、ビームを外に弾いてしまう。


「俺はネクタイをしているだろ?」


 黒豹的には、あくまでそこが重要らしい。


「裸で歩く以外のことは、なにかしているのか?」


「街にいる人間――特に少年少女や老人を、ヒーローのように助けて回っている」


「もう一度言ってもらえるか?」


「少年少女や老人を、ヒーローのように助けて回っている」


「…………」

「あとは少年を中心に、筋肉のよさについて語っている。

 探すなら、そのへんの人材も手配したほうがいいだろうな」

「その変態は、よい存在なのか……?」

「だけど裸なんだ」


 オレは知ってる。

 『反応に困る』って言うんだろ? これ。


「ひとつ聞くが……。その変態も勇者か?」

「勇者だろうな。

 それもかなりの力を持ってる。

 俺様たちは、『全裸の勇者』と呼んでいる」


 なるほど。


「しかし少年に声をかけることが多いとなると、準備をしたほうがよさそうだな。

 余はそのような見栄えではないし、配下に少年はおらぬ。

 男装という手が早いが――」


 オレはユニコをチラと見た。

 胸はなかなかに大きい。


(この胸で男装は、無理があるか……)


 ナタのほうもチラと見た。

 やはり大きい。

 

 ブレイドも巨乳だが――。


「やるのです!」


 と言ってきた。

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