獣人王の屋敷。
ユニコが王室の扉を開く。
そこにいたのは――。
「よくきたなぁ、オレがこの国の王様ってやつだ。
黒豹とでも呼んでくれ」
裸の男。
爽やかにあいさつをしているが、ほぼ裸。
黒豹と名乗るだけあり、黒い肌と豹のような耳と尻尾がついている。
ブレイドが、出会って五秒でぶっ放す。
「ギルティズ・ブレイドォーーーー!!!!!」
「無礼をするなと言った直後にいぃーーーーーーーーーーー!!!」
「申し訳ないのです!
あまりに変態だったので、つい!」
「謝罪になっていないのだ!」
「ハッハッハ」
黒豹は、愉快そうに笑った。
「許してやれ、ユニコ。俺はこの通り無事だ」
オレは改めて変態を見る。
黒光りする筋肉に、黒いネクタイ。金色に輝く小手。
下にはいてる黒いパンツが、あまり見たくない感じになってる。
そしてその肉体には、傷ひとつついていない。
「力は『流石』といったところか」
「それを言うアンタも……。かなりやるねぇ」
変態は、鋭い眼光を向けてくる。
殺気めいたそれを、オレは真正面から受ける。
互いに察したオレたちは、ふたり並んで庭にでる。
オレの心は弾んでいた。
(ゲーム通りの展開だぁ!!!)
ゲーム通りの展開ならば、すんなりしゃべれて行動もできる。
変態ハウスの庭は広い。
まるで戦いのためにあったかのような広さだ。
ゲームの時も広かったが、リアルで降りるとより際立つ。
「俺から行くぜ?」
変態の突撃。繰り出される拳。
オレは左腕でいなし、カウンターの右。
それは変態の顔に刺さった。
と――思いきや。
変態の姿が、薄くなって消える。
「残像だぜ?」
変態は、オレの背後に回っていた。
ドンッ!
掌底が、オレの背中に入った。
オレは吹き飛ぶ。
宙でくるりと回転し、体勢を整えた。
先の変態と同様に、余裕の笑みを浮かべて言った。
「本体だ」
ブレイドが突っ込む。
「要は普通に殴られたのですー!!!」
「フンッ」
オレは傲慢に笑った。
今のは避けようと思ったら、避けられる攻撃であった。
だがあえて受けた。
リアルで攻撃を受けると、どうなってしまうのか。
敗北してもさして問題のないここで、試しておこうと思ったのだ。
その感想は――。
(痛い!!!!!)
タンスの角に足をぶつけた程度だ。
命に別状はない。
後遺症も残らない。
けど痛い!
めっちゃ痛い!
のたうち周りそうなほどに痛い!
オレは今、猛烈に後悔しているッ!!!
しかし今のオレは大魔王。
クールという設定の大魔王。
余裕ぶって言ってやる。
「タンスの角に、足をぶつけた程度の痛み――といったところか」
「我が王の一撃を受けて、その程度で耐えるとは……!」
「つよい。」
「ですがタンスの角に足をぶつけるとは、とてもお痛い気がするのです……!」
ユニコとナタが、ブレイドを見た。
ブレイドは慌てる。
「実際お痛いと思うのです!
間違えてぶつけた日には、痛みで立ちあがれないのです!
サトウもきっと、お痩せガマンと思うのです!」
その通りであった。
タンスの角に小指は痛いし、痩せガマンもしている。
それをごまかすかのように、魔法陣を展開させた。
「無詠唱で三つだとっ?!」
「無詠唱で魔法陣を展開するだけでもすごいのに……」
「おかしい。」
「フレイムドラゴン!!!」
赤、青、黄色の火竜が、変態に向かった。
「チイッ!」
変態は、自身の両手に気弾を込める。
竜の攻撃を回避しながら、一発目を赤の竜。二発目を青の竜に当てた。
しかし黄色の竜が、眼前に迫り――。
「フッ」
オレが竜を消し去った。
「ここまでにしておこう」
「フーーー」
変態は息を吐く。
「アンタ――。
俺の七倍はつえぇな」
変態こと黒豹は、自分が格下であることを認めてきた。
「偉大なる余の七分の一に匹敵すると言うのか。
不遜にして不敬ではあるが――――特別に許そう」
「ハッハッハ。こりゃ適わねぇなぁ」
王は部屋に戻った。どっかと床に座り込む。
『王の顔』でオレに言う。
「で――なんの用だ?」
オレは立ったまま言った。
「実にありがたいことに、貴様と同盟をくんでやる」
「俺たちへのメリットは?」
「偉大なる余が敵に回らん」
「すげぇ交渉だな……」
「サトウ殿ぉ……!」
ユニコは泣きそうになってるが、オレは魔王なので仕方ない。
「無論断ったからと言って、この国を滅ぼすということはない。
ユニコの存在に免じ、便宜を図ってやることも考えている」
「かなりの天空目線だが、言うだけの力があるのも間違いねぇな。
俺様の大胸筋が『逆らうな』。僧帽筋が『同盟を組め』。上腕二頭筋が『これは破格の交渉だ』って言ってやがるぜ」
それはどういう感覚なんだ。
正直理解しがたいが――。
「その理解力、称賛に値する。
偉大なる余の交渉は、気まぐれであり戯れだ。貴様ら下民は偉大なる余の気まぐれに、一喜一憂するしかない。
空にものを言うことが無意味なように、余にものを言うことも無意味だ」
オレは緊張で胸が高鳴る。
(大丈夫か? これ。
ゲームでも、この偉そうな物言いが受けてはいたが……)
表面上は取り繕っているものの、内心ではドキドキである。
手に汗だってにじんでる。
「そこまで堂々と言われちまうと、逆に好感度があがるなぁ。
実際、それだけの力もあるだろうしな。
俺の首――胸鎖乳突筋もそう言ってらぁ」
よかった!!!
オレはほっと安堵する。
「しかし同盟を組むって言うなら、ひとつ用事を頼んでも構わねぇか?」
「用事とは?」
「変態を退治してほしい」
「ギルティズ・ブレイドォー!!!」
ブレイドが、必殺技をぶっ放した。
どごーん!
黒豹が爆発する。
「ブレイド殿ーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
「変態を退治してほしいと言われましたので……」
完全無傷の黒豹は、やれやれといった感じで言った。
「まったく……。せわしないお嬢さんだぜ。俺のどこが変態なのか」
「お言葉ですがその格好は、変態以外の何者でも……」
「よく見てくれ」
黒豹は、自身の胸元を親指で示した。
「ネクタイをしているだろう?」
「そういうものなのです……?」
「そういうものだぜ?」
「サ、サトウはどう思うのです?
わたしはわたしは、サトウの意見を聞きたいのです!」
「…………」
「サトウ?」
「ああ、すまん。考え事をしていた」
黒豹が変態。
軽く戦う。
勝利または善戦する。
ここまでは、ゲーム通りのシナリオだ。
しかし依頼の内容は、『南方の盗賊団の退治』であった。
『やたら強い盗賊団』
それはカオスオンラインにおける、カオス要素の一角だった。
団の規模は約3000人。
精鋭も多い。
十傑なら三人。百騎衆なら三十人。雑兵なら三万人が必要だった。
獣人国の軍隊より強い。
盗賊団が、どうしてそんなに強いのか。
以下は攻略wikiからの抜粋である。
Q
獣人国に発生する盗賊団が、獣人国の軍隊よりも強いんですが……。
A
このゲームでの盗賊団は、軍隊よりも強いのがいる。
わかるね?
そんな盗賊団が消失し、変態を倒せ――というイベントになっている。
これはどういうことなのか。
(調査が必要だな……)
オレは深くうなずいた。
「サトウが構ってくれないのですぅ……。
さびしいのですぅ……」
ブレイドは嘆いていたが、調査は必要なので諦めてほしい。
「変態とは、どのような変態なのだ?」
「その変態はなぁ……」
黒豹は、一拍溜めてから言った。
「裸で街を出歩くんだ」
ブレイドが、もはやヤケクソのように叫んだ。
「ギルティズ・ブレイドォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!」
しかし黒豹は軽くいなして、ビームを外に弾いてしまう。
「俺はネクタイをしているだろ?」
黒豹的には、あくまでそこが重要らしい。
「裸で歩く以外のことは、なにかしているのか?」
「街にいる人間――特に少年少女や老人を、ヒーローのように助けて回っている」
「もう一度言ってもらえるか?」
「少年少女や老人を、ヒーローのように助けて回っている」
「…………」
「あとは少年を中心に、筋肉のよさについて語っている。
探すなら、そのへんの人材も手配したほうがいいだろうな」
「その変態は、よい存在なのか……?」
「だけど裸なんだ」
オレは知ってる。
『反応に困る』って言うんだろ? これ。
「ひとつ聞くが……。その変態も勇者か?」
「勇者だろうな。
それもかなりの力を持ってる。
俺様たちは、『全裸の勇者』と呼んでいる」
なるほど。
「しかし少年に声をかけることが多いとなると、準備をしたほうがよさそうだな。
余はそのような見栄えではないし、配下に少年はおらぬ。
男装という手が早いが――」
オレはユニコをチラと見た。
胸はなかなかに大きい。
(この胸で男装は、無理があるか……)
ナタのほうもチラと見た。
やはり大きい。
ブレイドも巨乳だが――。
「やるのです!」
と言ってきた。
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