魔王でニューゲーム!

~リアルで死んだらゲームのステータスを持って異世界に行けました~
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03話 進撃のイカ少女

公開日時: 2020年9月1日(火) 14:10
更新日時: 2020年9月24日(木) 13:12
文字数:3,365

 漁をしていた男たちがざわめいた。

 

『ホラ貝の音?!』

『敵がきたのか?!』

『おかしらの出番なのか?!』


 湖の奥。霧のかかった空間から影がでてきた。

 巨大なイカが、湖の奥からやってくる。


 本当にイカである。

 巨大でイカれた金色のイカに、ひとりの少女が立っていた。

 頭に金色のイカのような帽子を乗せた、長髪の少女だ。





 巨大なイカが空を飛ぶ。

 立ってる少女も飛びあがる。

 

「とうっ!」


 少女は宙で回転し、スタッと地面に着地した。

 

「わらし・・はこの湖の守護勇者――シュトルテハイムラインバッハ・ゴールドクラーケン十三世だクラ!」


 イカ子はビシッと銃を構える。

 銃身がそこはかとなくイカっぽい、先鋭的な形をした黄金銃だ。

 

「シュ……、テ……、ハ……?」


 長い名前に、ブレイドが混乱していた。

 

(長い名前は、何度聞いても覚えられないのです……!)


 そんな苦悩が、聞こえてくるかのようだった。

 ポーズを決めて満足したらしい。イカ子は普通の構えで言った。

 

「それでお前たちは、いったいなにをしにきたケン?」

「この地を守護まもりにきた」

「まも……?」

「守護者が貴様ひとりでは、時間の問題で落ちる。ゆえに偉大なる余が、ここを支配してやる」


 オレは尊大に、両手を広げた。

 

「様々な勇者をここに集めて、ヒトと魔族が共存できる国にしようではないか」


 そういう意味でもここはよいのだ。

 なにせ守護勇者がヒトのような魔族のような、よくわからない存在だ。

 魔族への偏見が薄い。


「面白いじゃなイカ!」


 好印象だった。

 イカ子は再び、銃を構える。

 

「しかし雑魚には、任せられないケン!

 このシュトルテハイムラインバッハ・ゴールドクラーケン十三世よりも強い――大王ゴールドクラーケンぐらいの実力があることを見せるクラ!」


「よかろう」


 オレは鷹揚にうなずくと言った。

 

「まずはお前が戦ってみろ。ブレイド」

「わわわわ、わたしがなのです?!」

「オレたちの旅は長い。

 大陸の端と端にて、同時にイベントが起こることもある。

 強者は多いほどよい」


 カオスオンラインに、テレポートはない。

 唯一の例外を除き、オレや大勇者でも使用できない。

 なにかあった時のため、戦力は多いほうがよい。

 オレ以外がどの程度の戦力になるのか、見ておきたい面もある。

 

「つまりわたしは、サトウの右腕となるわけですね!」

「うむ」

「がんばるのです!」


 ブレイドは、両手をギュッと握り締めた。


「ちょっと待つクラぁ!」


 イカ子が叫ぶ。


「それだとこっちは連戦になるクラー!」

「余はつい先刻に、そちらの部下――ザコケライと戦ったはずだが?」


 イカ子はケライを見た。

 

「確かですぜ!」


 ケライは自身のおでこを示す。

 オレは腕を組んだまま言った。

 

「二番手がそやつになってしまう層の薄さも、貴様らの欠点だ」


 オレは右手を、パキリと鳴らす。


「その気になれば、余とブレイドのふたりがかりもできるのだぞ?」


 実際ゲームでこの勢力は、波状攻撃で壊滅する。

 壊滅させた大勇者は、部下に向かって言い放つ。


『この女はお前たちにくれてやる。好きにしろ!』


 イカ子は好きにされた挙句に、大勇者の『虐殺カオス』のエサにされて死ぬ。


 一週目だと、回避不可の強制イベント。

 二週目でも、放っておいたらたぶんそうなる。

 たぶんとつくのは、オレが胸糞イベント大嫌いなせいだ。

 二週目以降では、何がなんでも防いでいた。

 それゆえに、実際どうかはわからない。

 しかし襲撃を共に追い返すとかはしていたので、危うくなるのは確かなことだ。


 なんて考えていると、イカ子とブレイドは叫びあってた。


「そこまで言うなら、受けようじゃなイカ!」

「剣の勇者ブレイド、推して参るなのです!」


 ブレイドは、剣を構えて突っ込んだ。

 イカ子は大きく後ろに下がる。

 

「セピア・スプラッシュ!」


 セピア色のイカスミが、銃口から放たれる。

 すさまじい圧力によって吐かれたスミは、漆黒のレーザーのごとき勢い!


「てやあぁ!」


 ブレイドは、剣で弾いた。

 攻撃の余波が衝撃の波となり、湖を真っ二つに割る。

 

「やるじゃなイカ!」


 イカ子はさらに後ろに下がり、湖の上で浮遊する。

 

「甘いのです!」


 ブレイドは、走りながら唱えた。

 

「ウイング!」


 ブレイドの背に羽が生え、湖上のイカ子に向かって飛んだ。

 

「甘いのは、そっちクラー!」


 ザバアァンッ!

 湖の中から、無数のイカが現れるッ!

 白はもちろん、赤や緑に金色もッ!

 

「わらしは シュトルテハイムラインバッハ・ゴールデンクラーケン十三世!

 この塩湖にいるイカは、すべてわらしの従者だケン!」

 

 無数のイカがファンネルと化して突撃してくるッ!

 

「この程度ッ!」


 ブレイドは剣を振る。

 飛んでくるイカを、すれ違い際に切り裂いて、切り裂いてはすれ違った。

 一度逃げては層の薄いところにチャージをかけて、斬撃を放っては素早く移動。

 ブレイドの剣が煌めくたびに、イカのスミが宙を舞う。

 

「なかなかやるクラ!」

「光栄なのです!」

「でも――足りないケン!」

「ふえ?」


 言葉の意味に戸惑うブレイド。近くにイカが飛んできた。

 斬撃を放つ。

 パキイィンッ――!

 

 剣が折れた。

 

「イカたちのスミには、金属を腐食させる作用があるケン!」

「ふえっ?!」

「トドメだクラぁ!」


 イカ子が銃を二刀流して、ズドンズドンと打ち放つ。

 二発はブレイドの脇をかすめた。


 勝負アリ!

 ゲームだと、そんな四文字がでているところだ。


 勇者と呼ばれる実力者たちは、霊気と呼ばれる特別な力で身を守っている。

 勇者にダメージを与えるには、霊気を剥がすか霊気ごと貫く必要がある。

 そして霊気が剥がれると――。


 服が破ける!!!


「ふあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!」


 ブレイドは叫ぶ。

 胸と股間を必死に押さえ、真っ赤になって叫んでる。

 オレは思った。


(想像以上に刺激が強い……!)


 このシステムは知っていた。

 これのさらに上をいく、十八禁モードのために生きてきた。

 だがしかし、生のハダカは想像以上だ。

 

「さとおぉ……」


 ブレイドが、うるうるまなこでオレを見てくる。


「ッ――」


 オレはマントを、ブレイドに投げた。

 見ないようにして言う。

 

「休んでおけ」

「すいませんなのです……」

「気にするな」


 オレは塩湖へと向かう。

 ちんちくりんなイカ子を見つめ、冷静さを取り戻す。

 

「親玉! 実力を見せてもらおうじゃなイカ!」

「それはこちらのセリフでもあるな」


 ダークウイング!

 オレが呪文を唱えると、漆黒の六枚羽が背中に生えた。

 ダークウイングは、普通のウイングの三倍のMPを消費する。

 ただし効果はウイングと同じ。

 しかしちゃんと意味がある。


 魔王っぽくてカッコいい。

 

 それだけである。

 しかし大事だ。


 オレは空を駆け抜ける。

 イカたちはついてくる。

 加速する――加速する。音を超えて加速する。

 どれだけ加速してみても、イカたちはついてきた。

 

「スピードはなかなかだな」


 オレは速度を維持したままで、自身の両手に魔力を込めた。

 

「出でよ我が剣。ティアール・シュナンゼ!」


 双剣が現れる。

 剣を持ち、イカたちに突っ込んだ。

 

「撃ち落とすクラー! スクイッドスプラッシュ!」


 数百単位のイカたちが、イカのスミを吐いてきた。

 イカの色に対応し、赤に青に緑と様々。

 高い圧力で射出されるそれは、やはりレーザーのごとき勢いがある。

 

「効かん!」


 オレはイカのスミたちを、双剣で弾いてく。

 数百単位をさばき続ける。


「どうして切れ味が落ちないクラ?!」

「余の偉大なる剣――ティアール・シュナンゼは、ピュアミスリルと余の魔力で作られている。

 サファイアすらも軽々と切り裂く双剣が、イカスミごときで腐食されるはずがない」


 単純な解説。

 だがそれは、想像以上の衝撃を――。


「わたしの立場がないなのです……」


 ブレイドに与えた。


(あとでおいしいプリンをあげよう)


 オレは密かに心に誓った。

 イカ子が叫ぶ。


「やるじゃなイカ!

 だけどこれならどうだケン?!」


 どぱぁんっ!

 

 無数のイカが、カラフルな煙幕スミを吐き出すッ!


「さらに追撃をクラえケーン!」


 イカたちが、追撃のレーザーを吐いてきた。

 ゲーム内にも実装されてた、イカ子とイカの極悪コンボ。

 カラフルな煙幕で視界を遮り、数百単位のレーザーを放つ。


 しかもそのレーザー、一発一発が即死クラスだ。

 初見ではほぼ死ぬし、慣れてきてもかなり死ぬ。

 これが『十傑クラス』の実力である。

 が――。


「オレは二強の片割れだ」


 二強十傑百騎衆。

 十傑衆の上をゆく、たったふたりの強者の片割れ。

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