魔王でニューゲーム!

~リアルで死んだらゲームのステータスを持って異世界に行けました~
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07話 ユニコーンの勇者・vsブレイド

公開日時: 2020年9月1日(火) 14:10
更新日時: 2020年9月24日(木) 13:12
文字数:3,398

「実に無礼な相手なのだ」


 オレの唐突な勧誘に、ユニコは不機嫌そうだった。

 オレもそう思う。

 しかし魔王プレイをしていると、そうなってしまう。

 穏便な方法も、その気になればできるのかもしれないが……。


 オレにアドリブとかできるわけないだろ?!


 なんせ10年は寝たきりで、魔王プレイしかしていない。

 VR小学校やVR中学校には通っていたが、人との会話はできなかった。

 ネットで動画サイトを見たりもできたが、会話はできなかった。

 このへんの手落ちは、『心にVRを』の施策が始まったばかりなことに起因する。

 オレでようやく第三号とか、そういうレベルと授業で聞いた。

 そういうわけでコミュ障なのだ。

 魔王としてのセリフだったらスラスラ浮かんでくるんだけどね。


 すまぬ……。

 すまぬ……。

 オレは心で謝りながら、偉そうに言った。


「しかし余との同盟は、貴公ら下々に利益をもたらす。

 偉大なる余が、貴様らの味方になるのだからな」

「大層な自信なのだ」

「自信ではない。自明だ」

「……わかったのだ。

 そこまで言うなら、貴様の力を試してやるのだ」

「余を『試す』とは、大きく出たな。

 しかしよかろう。偉大なる余は寛大がゆえ、そのような無礼も許す」


「ならばまず、『スピード』を見せてもらうのだ!」


 ユニコは街の外を示す。

 街道の脇を逸れれば、青く広がる草原がある。

 

「先に行っているのだ」


 ユニコの姿が消え去った。

 タァンッ!

 タァンッ!

 タアァンッ!

 地面が断続的に弾け、快音と移動の跡だけを残す。

 

「遅くはないな」


 オレはフワリと宙に浮く。

 

「先に行っているぞ、ブレイド」


 ギュオンッ!

 一気に加速し、ユニコを追った。

 

  ◆

  

 町外れの草原。

 

「ハアッ、ハアッ、ハアッ……なのです…………」


 ブレイドが地面に膝をつき、満身創痍になっていた。

 ユニコが言った。

 

「もはや満身創痍とはな。口ほどにもないのだ」

「わっ……げほっ、げほっ、ごほっ!」


 なにか言おうとしたブレイドがむせた。

 

「息を整えてから話すのだ」

「はひっ……」


 ブレイドは、息を整えてから言った。

 

「わたしのことは、どのように言っても構わないのです!

 だけどサトウはおすごいなのです!

 わたしがどんなに弱くても、サトウはとっても、お強いなのです!」

 

「確かにサトウ何がしは、普通についてきていたのだ」

「そうなのです!

 サトウはとっても、おすごいなのです!」

「しかし勘違いはいけないのだ。

 先の私は、力の四分の一しか出していないのだ」

「あのスピードで四分の一……?!」


 ブレイドは驚愕した――が。

 

「四分の一も出していたのか」

「負け惜しみは見苦しいのだ」

「お前がそう思うなら、そう思えばいい」


 オレはツイッと後ろに引いた。

 ブレイドに言う。


「ゆけ」


「え……?」

「不服か?」


「そんなことはないのです!

 むしろとてもうれしいなのです!

 わたしに期待しているのですよね?!

 あの強いユニコに、勝てると思っているのですよね?!」

 

「…………」

「どうして沈黙するのです?!」


 オレはしばし考え、ぽつりと言った。

 

「よい経験にはなるであろうな」

「濁されたのですぅ!!!」


 ブレイドはショックを受けていた。

 だが仕方ない。


 二強十傑百騎衆。


 ユニコはここの百騎衆だ。

 しかし百騎の上位格。プレイヤーの腕次第では十傑にも勝てる。


 一方のブレイドは、百騎衆の最弱だ。

 物理攻撃と防御とすばやさが、百騎衆の平均を下回る。

 魔力に至っては、野生のマグロに負けている。


 ただ一点、必殺技が優秀だ。

 ブレイドの必殺技――ギルディズ・ブレイドの破壊力は、自身の魔力の50倍。

 しかも射程が一キロ近い。

 

 ほかの百騎衆が5倍から10倍。射程も長くて百メートルと言えば、破格なことがわかるだろう。

 最弱とはいえ百騎衆入りできているのが、必殺技の威力のおかげだ。

 しかしここで悲劇が生まれた。


 ギルディズ・ブレイドの破壊力は、自身の魔力の50倍。

 しかし肝心のブレイドの魔力は、全キャラクターで最低レベル。

 コッペパンのジョンソンには勝つが、野生のマグロには負けている。

 八百屋のマイケルおじさんすら下回っている。

 倍率50倍の必殺技が、『そこそこ強い』でしかない。

 

 ついたあだ名が唯一王。

 またの名を、とてもかわいいぽんこつアホの子。


 百騎衆で唯一のネタ性能でぽんこつ。

 だけどかわいい――ということだ。

 それでもここは現実だ。

 経験を積ませれば、ゲームにはない覚醒をするかもしれない。

 

「ここでユニコ様に勝てば、わたしの評価がドラゴン滝登りなのです!」


 ブレイドもやる気だ。

 こういう前向きなところ、とても大好き。

 ブレイドかわいいよ、ブレイド。

 

「行きますなのです!」

「偉そうなことを言っていたわりに、まずは部下を戦わせようとするとは……」

「偉大なる支配者とは、配下の育成もするものだ」

 

「よかろうなのだ。

 ブレイドの次は貴様なのだ。

 地面に這わせて、私のヒヅメを磨かせてやるのだ」

「そのようなこと、サトウにはさせないのです!」


 ユニコはハルバードを。

 ブレイドは剣を構えた。

  

「それではゆくのだ」

「よろしくなのです!」


 ブレイドが、自身の剣を構えた直後。

 

 ドンッ!

 

 音を切り裂く音がした。

 ユニコの姿が消えてなくなる。

 ブレイドの知覚能力を置き去りにし、一瞬でブレイドの背後にまで回った。

 

「はうッ!」


 ブレイドが振り向こうとした――直後。

 バガァンッ!

 ユニコは馬の後ろ足を使い、ブレイドに蹴りを入れた。

 ブレイドは吹っ飛んだ。白銀のヨロイにもヒビが入る。

 ユニコ、素早く槍を構える。

 

「手加減はしてやるのだ。エアリアル・スラッシュショット!」


 疾風の刃が、ブレイドへと向かう!

 

「わたしは負けないのです! ギルティズ・ブレイド!」


 ブレイドが剣を振る。金色の斬撃が放たれる!

 それはユニコの疾風を切り裂く!

 

「パワーはあるようなのだ――が」


 ユニコは悠々地を跳ねた。

 

「当たらなければ意味はないのだ」


 ハルバードを振るう。


「エアリアル・スラッシュショット!」

「はクウッ、くッ、くううっ!!」


 ユニコが放つ三連撃を、ブレイドはかろうじていなす。

 ふたり並んで地上に降り立つ。

 ドンッ!

 再びユニコの高速チャージ。

 ブレイドからすれば、『完全な透明化』とも言える技。

 速く動くということが、不可視の必殺になっている。

 先刻背後に回られたブレイドは、自身の意識を背後に向けた。

 が――。

 

 ガオンッ!

 真正面からのタックルを受けた。

 ブレイドは、ゴムマリのように飛ばされた。

 受け身を取って体勢を直す。

 ヨロイはヒビ割れているが、闘志に衰えはない。

 

「その心意気は認めてやるのだ。

 しかし心意気だけで、速さに勝つのは不可能なのだ」

「ありがとうなのです!」

「どうしてここでお礼を言うのだ……?」

「的確な事実を指摘してくださった相手に、お礼を言うのはおかしいのです?」


 ブレイドは、かわいい小首を真顔でかしげた。

 頭のアホ毛が、ぴこっとゆれる。

 

「調子が狂うのだ……」


 顔を曇らせるユニコに、ブレイドは剣をかかげる。

 

「『策』を考えたのです!」

「なに……?」

「ギルティズ――」


 ブレイドの剣に、金色の光が集まった。

 ユニコは回避の準備を作る。

 

「その技ならば、わたしには当たらないのだ」

「ブレイドォーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」


 ブレイドの剣から、金色のビームが放たれる。

 だがそれは、遥か空へと舞いあがる!

 

「なにぃ?!」

「ギルティズ・ブレイド――分散!」


 空へとあがった金色の輝きは、分散して地面へと落ちる。

 ズガガガガガ!

 ブレイドの攻撃は、雨だれのように地を穿つ!

 

「流石のユニコも、雨の回避は難しいと思うのです!」


 しかしユニコは早かった。

 ブレイドの技が降り始めた瞬間に、大きく後ろにさがってた。

 ハルバードを振って言った。

 

「雨だれを防ぐには、雨が降っていないところに避難すればよいのだ」


 だがブレイドは、不敵に笑った。

 

「地面を見ると、よろしいのです!」

「なに……?」


 地面はブレイドの攻撃で、ボコボコに穴があいてた。

 

「これだけの数の穴、馬の体と四本の足で回避するのは大変なのです!

 そして穴に引っかかれば――――」

 ブレイドは、この上ないほどのキメ顔で言った。


「ころぶのです!」


 ころぶ。

 なんとも間抜けな響きだろうか。

 

「しかもころぶと、足をくじく可能性もあるのです!」


 それもその通りではあるのだが、響きは平和的である。

 

「足をくじくと――――痛いのです!!!」


 なにひとつ間違ってはいないのに平和的で、ぽわぽわとした雰囲気になっていた。

 頭のアホ毛も、ふよふよとゆれていた。

 かわいい。

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