「実に無礼な相手なのだ」
オレの唐突な勧誘に、ユニコは不機嫌そうだった。
オレもそう思う。
しかし魔王プレイをしていると、そうなってしまう。
穏便な方法も、その気になればできるのかもしれないが……。
オレにアドリブとかできるわけないだろ?!
なんせ10年は寝たきりで、魔王プレイしかしていない。
VR小学校やVR中学校には通っていたが、人との会話はできなかった。
ネットで動画サイトを見たりもできたが、会話はできなかった。
このへんの手落ちは、『心にVRを』の施策が始まったばかりなことに起因する。
オレでようやく第三号とか、そういうレベルと授業で聞いた。
そういうわけでコミュ障なのだ。
魔王としてのセリフだったらスラスラ浮かんでくるんだけどね。
すまぬ……。
すまぬ……。
オレは心で謝りながら、偉そうに言った。
「しかし余との同盟は、貴公ら下々に利益をもたらす。
偉大なる余が、貴様らの味方になるのだからな」
「大層な自信なのだ」
「自信ではない。自明だ」
「……わかったのだ。
そこまで言うなら、貴様の力を試してやるのだ」
「余を『試す』とは、大きく出たな。
しかしよかろう。偉大なる余は寛大がゆえ、そのような無礼も許す」
「ならばまず、『スピード』を見せてもらうのだ!」
ユニコは街の外を示す。
街道の脇を逸れれば、青く広がる草原がある。
「先に行っているのだ」
ユニコの姿が消え去った。
タァンッ!
タァンッ!
タアァンッ!
地面が断続的に弾け、快音と移動の跡だけを残す。
「遅くはないな」
オレはフワリと宙に浮く。
「先に行っているぞ、ブレイド」
ギュオンッ!
一気に加速し、ユニコを追った。
◆
町外れの草原。
「ハアッ、ハアッ、ハアッ……なのです…………」
ブレイドが地面に膝をつき、満身創痍になっていた。
ユニコが言った。
「もはや満身創痍とはな。口ほどにもないのだ」
「わっ……げほっ、げほっ、ごほっ!」
なにか言おうとしたブレイドがむせた。
「息を整えてから話すのだ」
「はひっ……」
ブレイドは、息を整えてから言った。
「わたしのことは、どのように言っても構わないのです!
だけどサトウはおすごいなのです!
わたしがどんなに弱くても、サトウはとっても、お強いなのです!」
「確かにサトウ何がしは、普通についてきていたのだ」
「そうなのです!
サトウはとっても、おすごいなのです!」
「しかし勘違いはいけないのだ。
先の私は、力の四分の一しか出していないのだ」
「あのスピードで四分の一……?!」
ブレイドは驚愕した――が。
「四分の一も出していたのか」
「負け惜しみは見苦しいのだ」
「お前がそう思うなら、そう思えばいい」
オレはツイッと後ろに引いた。
ブレイドに言う。
「ゆけ」
「え……?」
「不服か?」
「そんなことはないのです!
むしろとてもうれしいなのです!
わたしに期待しているのですよね?!
あの強いユニコに、勝てると思っているのですよね?!」
「…………」
「どうして沈黙するのです?!」
オレはしばし考え、ぽつりと言った。
「よい経験にはなるであろうな」
「濁されたのですぅ!!!」
ブレイドはショックを受けていた。
だが仕方ない。
二強十傑百騎衆。
ユニコはここの百騎衆だ。
しかし百騎の上位格。プレイヤーの腕次第では十傑にも勝てる。
一方のブレイドは、百騎衆の最弱だ。
物理攻撃と防御とすばやさが、百騎衆の平均を下回る。
魔力に至っては、野生のマグロに負けている。
ただ一点、必殺技が優秀だ。
ブレイドの必殺技――ギルディズ・ブレイドの破壊力は、自身の魔力の50倍。
しかも射程が一キロ近い。
ほかの百騎衆が5倍から10倍。射程も長くて百メートルと言えば、破格なことがわかるだろう。
最弱とはいえ百騎衆入りできているのが、必殺技の威力のおかげだ。
しかしここで悲劇が生まれた。
ギルディズ・ブレイドの破壊力は、自身の魔力の50倍。
しかし肝心のブレイドの魔力は、全キャラクターで最低レベル。
コッペパンのジョンソンには勝つが、野生のマグロには負けている。
八百屋のマイケルおじさんすら下回っている。
倍率50倍の必殺技が、『そこそこ強い』でしかない。
ついたあだ名が唯一王。
またの名を、とてもかわいいぽんこつアホの子。
百騎衆で唯一のネタ性能でぽんこつ。
だけどかわいい――ということだ。
それでもここは現実だ。
経験を積ませれば、ゲームにはない覚醒をするかもしれない。
「ここでユニコ様に勝てば、わたしの評価がドラゴン滝登りなのです!」
ブレイドもやる気だ。
こういう前向きなところ、とても大好き。
ブレイドかわいいよ、ブレイド。
「行きますなのです!」
「偉そうなことを言っていたわりに、まずは部下を戦わせようとするとは……」
「偉大なる支配者とは、配下の育成もするものだ」
「よかろうなのだ。
ブレイドの次は貴様なのだ。
地面に這わせて、私のヒヅメを磨かせてやるのだ」
「そのようなこと、サトウにはさせないのです!」
ユニコはハルバードを。
ブレイドは剣を構えた。
「それではゆくのだ」
「よろしくなのです!」
ブレイドが、自身の剣を構えた直後。
ドンッ!
音を切り裂く音がした。
ユニコの姿が消えてなくなる。
ブレイドの知覚能力を置き去りにし、一瞬でブレイドの背後にまで回った。
「はうッ!」
ブレイドが振り向こうとした――直後。
バガァンッ!
ユニコは馬の後ろ足を使い、ブレイドに蹴りを入れた。
ブレイドは吹っ飛んだ。白銀のヨロイにもヒビが入る。
ユニコ、素早く槍を構える。
「手加減はしてやるのだ。エアリアル・スラッシュショット!」
疾風の刃が、ブレイドへと向かう!
「わたしは負けないのです! ギルティズ・ブレイド!」
ブレイドが剣を振る。金色の斬撃が放たれる!
それはユニコの疾風を切り裂く!
「パワーはあるようなのだ――が」
ユニコは悠々地を跳ねた。
「当たらなければ意味はないのだ」
ハルバードを振るう。
「エアリアル・スラッシュショット!」
「はクウッ、くッ、くううっ!!」
ユニコが放つ三連撃を、ブレイドはかろうじていなす。
ふたり並んで地上に降り立つ。
ドンッ!
再びユニコの高速チャージ。
ブレイドからすれば、『完全な透明化』とも言える技。
速く動くということが、不可視の必殺になっている。
先刻背後に回られたブレイドは、自身の意識を背後に向けた。
が――。
ガオンッ!
真正面からのタックルを受けた。
ブレイドは、ゴムマリのように飛ばされた。
受け身を取って体勢を直す。
ヨロイはヒビ割れているが、闘志に衰えはない。
「その心意気は認めてやるのだ。
しかし心意気だけで、速さに勝つのは不可能なのだ」
「ありがとうなのです!」
「どうしてここでお礼を言うのだ……?」
「的確な事実を指摘してくださった相手に、お礼を言うのはおかしいのです?」
ブレイドは、かわいい小首を真顔でかしげた。
頭のアホ毛が、ぴこっとゆれる。
「調子が狂うのだ……」
顔を曇らせるユニコに、ブレイドは剣をかかげる。
「『策』を考えたのです!」
「なに……?」
「ギルティズ――」
ブレイドの剣に、金色の光が集まった。
ユニコは回避の準備を作る。
「その技ならば、わたしには当たらないのだ」
「ブレイドォーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
ブレイドの剣から、金色のビームが放たれる。
だがそれは、遥か空へと舞いあがる!
「なにぃ?!」
「ギルティズ・ブレイド――分散!」
空へとあがった金色の輝きは、分散して地面へと落ちる。
ズガガガガガ!
ブレイドの攻撃は、雨だれのように地を穿つ!
「流石のユニコも、雨の回避は難しいと思うのです!」
しかしユニコは早かった。
ブレイドの技が降り始めた瞬間に、大きく後ろにさがってた。
ハルバードを振って言った。
「雨だれを防ぐには、雨が降っていないところに避難すればよいのだ」
だがブレイドは、不敵に笑った。
「地面を見ると、よろしいのです!」
「なに……?」
地面はブレイドの攻撃で、ボコボコに穴があいてた。
「これだけの数の穴、馬の体と四本の足で回避するのは大変なのです!
そして穴に引っかかれば――――」
ブレイドは、この上ないほどのキメ顔で言った。
「ころぶのです!」
ころぶ。
なんとも間抜けな響きだろうか。
「しかもころぶと、足をくじく可能性もあるのです!」
それもその通りではあるのだが、響きは平和的である。
「足をくじくと――――痛いのです!!!」
なにひとつ間違ってはいないのに平和的で、ぽわぽわとした雰囲気になっていた。
頭のアホ毛も、ふよふよとゆれていた。
かわいい。
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