ブレイドと、デビルコッペパンとの戦いが始まった。
ブレイドは、自身の剣を、高々と掲げ――。
「ギルティズ・ブレイド!!!」
ビームを射出!
一瞬だった。
金色のオーラをまとう必殺技が放たれた瞬間に、デビルコッペパンたちはぶった切られた。
「…………」
ブレイドは、しばし見つめて振り返る。
「やったぁなのです!
とっても強い強敵を、わたしひとりでやっつけたなのです!」
「うむ、見事だ」
「褒めてほしいのです! サトォ~~~」
ブレイドは、オレにぺたりとくっついて甘えた。
お尻の尻尾も、ふりふりと振られる。
オレはブレイドの頭を撫でた。
さっきの話を聞いたせいか、ブレイドが活躍している姿を見るのがうれしい。
「三体ものデビルコッペパンを一瞬ですと……?」
「すげぇ……」
「姐さん……」
「姐さん……」
商人と女チンピラたちも、ブレイドを称えた。
「え、あの、その。ええっと……。
勇者なので、一応、これぐらいは……なのです」
尊敬の眼差しを浴びたブレイドは、わたわたと慌てた。
「おおおお、お願いいたしますなのです! サトウ!」
オレの後ろにスパッと隠れ、恥ずかしそうに縮こまる。
(オレも人と話すのは苦手なんだが……!)
緊張しながらも言った。
「そ……そこまでに、しておけ。
ブレイドは、照れて……いる」
「「「はいっ!」」」
チンピラたちはうなずいた。
◆
街につく。
いわゆるゲームなんかで『中世ヨーロッパ風』と表記されそうな街並みだ。
「ありがとうな、勇者!」
「またどこかで会おうぜ!」
「武器の手入れは、欠かさないようにするからよ!」
女チンピラ三人が、笑顔でオレたちに手を振った。
ブレイドとふたり切りになる。
その時だ。
スッ――。
尋常ならざる気配を感じた。
背後にだ。
背後の気配は、時を止めたかのような尋常ならざる力でもって、オレとブレイドの動きを止めた。
そして言う。
「初めまして!
私はあいさつの勇者、おはよう=ミックス!
ここは獣人の街の東方部――ビーストタウン・イーストだよ!」
あいさつの勇者。
それはカオスオンラインの名物NPCのひとり。
一見すると、ショートポニーが愛らしい快活な少女。
するのもただのあいさつだ。
しかし超高速で背後を取ってくるその動きは、タダ者ではない。
『奴がくる~ポニテの悪魔からの逃亡実況~』というテーマで、あいさつから逃げるプレイングをしている人もいた。
レベルはカンスト。
職業は忍者。
ドーピングアイテムも限界まで使用して、オレ以上の素早さを身に着けて――――。
三秒で捕まった。
正攻法で回避は不可能。
しかし空から街の真ん中に降りれば、落下の途中であいさつをしてくる。
地下からトンネルを掘り進んでも、地下トンネルであいさつしてくる。
攻撃をしかけることもできる。
しかし素早さ補正値最大となるグレート忍者のスラッシュ技も、瞬間移動で回避する。
そして忍者の背後を取って――。
「ここは○○の街だよ!」
どの街にも現れて、当たり前のようにあいさつしてくる。
誰もが序盤で目にするが、最後まで謎のNPCだ。
そしてあいさつを終えた彼女は、次の瞬間には走り去――。
「あなたはいったい、何者なのです?!
とてもすごいサトウの背後を取るなど、おすごいなのです!」
「私はあいさつの勇者!
やってきた旅人に、街の名前を教える存在だよ!」
「それだけなのです……?」
「うん!」
あいさつの勇者おはよう=ミックスは、最高の笑顔でうなずいた。
オレは驚く。
あいさつの勇者は、あいさつをして街の名前を教えた瞬間に走り去る。
こういう風に会話に乗るなど、基本的にないことだった。
勇者は続ける。
「旅人さんに街の名前を教えるために、世界のすべての街や村に、同時出現しているよ!」
「はわっ?!」
「それでも少し足りないから、瞬間移動も使ってるけどね!」
なんなのコイツ。
オレは驚く。
いやまぁどこにでもいるってことは、確かにそうなるんだけど。
しかしゲームならともかく現実にもいるっておかしくない?
いったいどういう原理なの?
「戦いの時の伝令や、敵地を攪乱するなどの工作もできそうなのです!」
「私の力は、あいさつ以外には使えないよ?
あいさつ以外に使おうとしたら、爆発して死んじゃうもん!」
「そんな覚悟と制約を、『あいさつ』のためだけに?!」
「うん!」
流石はカオスオンラインの元になった世界。
かなりのカオスだ。
しかし勇者であると言うなら、一応スカウトしておこう。
「時におはよう=ミックスよ。偉大なる余は、東方の地――リョーザンに、あらゆる人種が共存できる国を作ることにした。
貴様も勇者であると言うなら、余のもとにくるとよいぞ?」
「うーん……」
あいさつの勇者は、こめかみに指を当てて言った。
「規模が小さすぎてダメだった!」
「そうか」
「だけど場所は覚えたよ!
『村』と言えるぐらいの大きさになったら、自然発生しているね!」
「自然発生してるのか」
「草とあいさつの勇者は、地面から生えてくるものだからね!」
あいさつの勇者は、最高の笑顔で親指を立てた。
「それではメダルを渡しておく。
偉大なる余から、スカウトを受けた証だ」
「うん!」
あいさつの勇者は、メダルを懐に入れた。
手を振って走り去る。
「すさまじいお力の持ち主でございましたね……」
「うむ」
なにはともあれ。
勧誘成功!
◆
「おひとり勧誘できましたね、サトウ!
次はどこへ行くのです?!」
「とりあえず……この国の王のところにでも行くか」
「とりあえず?!」
「この国にいるフリーの勇者を集めるついでに、同盟も組んでおきたい」
「『ついで』の用事で、同盟とは……?!」
緊張しているらしい。
ブレイドは、腹部を押さえてうめいていた。
「しししし、しかしこの場所は、ピーストタウンの東方部。
王の屋敷がある中央部とは、ケンタウロス便に乗らなければならないほどの距離が……」
「ケンタウロス便を使う必要があるならば、ケンタウロス便を使えばよかろう」
「はうぁっ!」
墓穴を掘ったブレイドをよそに、オレはケンタウロス便があるところに向かった。
ケンタウロス便、改札口。
オレは受付をしていたケンタウロスの少女に言った。
「王のところに案内しろ」
「仕官でしたら、東方部でも受け付けておりますが……」
「仕官ではない。同盟だ。
リョーザンからの使いでもある」
「リョーザンからの?!」
「いかにも」
イカ子からもらったメダルを見せた。
「これは確かに、イカ勇者様が認めた方にのみお渡しするメダル……。
しかしいきなり王にあわせろと言われましても、わたしの一存では……」
「ならば上の者を出せ」
「ええっと……」
その時だった。凛とした声が響く。
「どうしたのだ?」
そこにいたのは、ケンタウロスの麗人。
風を表現したかのような緑髪に、アメジスト色の瞳。長い髪をポニーに束ね、凛――と佇んでいる。
手入れされた槍とヨロイは、彼女が只者ではないことを示す。
そしてひたいに、ユニコーンのツノ。
彼女はただのケンタウロスではない。
父が人間。母がユニコーンのケンタウロスなのだ。
(名前も背景も知っているけど、いきなり言ったら怪しい人だよな……)
と考えて言った。
「その佇まいと空気……。貴公も勇者か?」
「人馬の勇者、ユニコなのだ」
「それは話が早くて助かる。
余はこの国と同盟にきた。貴公もウチにくるとよい」
「なに……?」
「難しいところがあったか?」
「そのようなことはなかったのだ。
これ以上ないほど、わかりやすく無礼なのだ」
ユニコ勧誘イベントの始まりだ。
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