魔王でニューゲーム!

~リアルで死んだらゲームのステータスを持って異世界に行けました~
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06話 ユニコーンの勇者、遭遇編

公開日時: 2020年9月1日(火) 14:10
更新日時: 2020年9月24日(木) 13:12
文字数:2,996

 ブレイドと、デビルコッペパンとの戦いが始まった。

 ブレイドは、自身の剣を、高々と掲げ――。

 

「ギルティズ・ブレイド!!!」


 ビームを射出!

 一瞬だった。

 金色のオーラをまとう必殺技が放たれた瞬間に、デビルコッペパンたちはぶった切られた。

 

「…………」


 ブレイドは、しばし見つめて振り返る。

 

「やったぁなのです!

 とっても強い強敵を、わたしひとりでやっつけたなのです!」

「うむ、見事だ」

「褒めてほしいのです! サトォ~~~」


 ブレイドは、オレにぺたりとくっついて甘えた。

 お尻の尻尾も、ふりふりと振られる。

 オレはブレイドの頭を撫でた。

 さっきの話を聞いたせいか、ブレイドが活躍している姿を見るのがうれしい。

 

「三体ものデビルコッペパンを一瞬ですと……?」


「すげぇ……」

「姐さん……」

「姐さん……」


 商人と女チンピラたちも、ブレイドを称えた。

 

「え、あの、その。ええっと……。

 勇者なので、一応、これぐらいは……なのです」

 

 尊敬の眼差しを浴びたブレイドは、わたわたと慌てた。

 

「おおおお、お願いいたしますなのです! サトウ!」


 オレの後ろにスパッと隠れ、恥ずかしそうに縮こまる。

 

(オレも人と話すのは苦手なんだが……!)


 緊張しながらも言った。

 

「そ……そこまでに、しておけ。

 ブレイドは、照れて……いる」

 

「「「はいっ!」」」


 チンピラたちはうなずいた。

 

  ◆

  

 街につく。

 いわゆるゲームなんかで『中世ヨーロッパ風』と表記されそうな街並みだ。

 

「ありがとうな、勇者!」

「またどこかで会おうぜ!」

「武器の手入れは、欠かさないようにするからよ!」


 女チンピラ三人が、笑顔でオレたちに手を振った。

 ブレイドとふたり切りになる。

 その時だ。


 スッ――。


 尋常ならざる気配を感じた。

 背後にだ。

 背後の気配は、時を止めたかのような尋常ならざる力でもって、オレとブレイドの動きを止めた。

 そして言う。

 

「初めまして!

 私はあいさつの勇者、おはよう=ミックス!

 ここは獣人の街の東方部――ビーストタウン・イーストだよ!」

 

 あいさつの勇者。

 それはカオスオンラインの名物NPCのひとり。

 一見すると、ショートポニーが愛らしい快活な少女。

 するのもただのあいさつだ。


 しかし超高速で背後を取ってくるその動きは、タダ者ではない。

『奴がくる~ポニテの悪魔からの逃亡実況~』というテーマで、あいさつから逃げるプレイングをしている人もいた。


 レベルはカンスト。

 職業は忍者。

 ドーピングアイテムも限界まで使用して、オレ以上の素早さを身に着けて――――。


 三秒で捕まった。

 

 正攻法で回避は不可能。

 しかし空から街の真ん中に降りれば、落下の途中であいさつをしてくる。

 地下からトンネルを掘り進んでも、地下トンネルであいさつしてくる。

 

 攻撃をしかけることもできる。

 しかし素早さ補正値最大となるグレート忍者のスラッシュ技も、瞬間移動で回避する。

 そして忍者の背後を取って――。

 

「ここは○○の街だよ!」


 どの街にも現れて、当たり前のようにあいさつしてくる。

 誰もが序盤で目にするが、最後まで謎のNPCだ。

 そしてあいさつを終えた彼女は、次の瞬間には走り去――。

 

「あなたはいったい、何者なのです?!

 とてもすごいサトウの背後を取るなど、おすごいなのです!」

「私はあいさつの勇者!

 やってきた旅人に、街の名前を教える存在だよ!」

「それだけなのです……?」

「うん!」


 あいさつの勇者おはよう=ミックスは、最高の笑顔でうなずいた。

 オレは驚く。

 あいさつの勇者は、あいさつをして街の名前を教えた瞬間に走り去る。

 こういう風に会話に乗るなど、基本的にないことだった。

 勇者は続ける。

 

「旅人さんに街の名前を教えるために、世界のすべての街や村に、同時出現しているよ!」

「はわっ?!」

「それでも少し足りないから、瞬間移動も使ってるけどね!」


 なんなのコイツ。

 オレは驚く。

 いやまぁどこにでもいるってことは、確かにそうなるんだけど。

 しかしゲームならともかく現実にもいるっておかしくない?

 いったいどういう原理なの?


「戦いの時の伝令や、敵地を攪乱するなどの工作もできそうなのです!」

「私の力は、あいさつ以外には使えないよ?

 あいさつ以外に使おうとしたら、爆発して死んじゃうもん!

「そんな覚悟と制約を、『あいさつ』のためだけに?!」

「うん!」


 流石はカオスオンラインの元になった世界。

 かなりのカオスだ。

 しかし勇者であると言うなら、一応スカウトしておこう。

 

「時におはよう=ミックスよ。偉大なる余は、東方の地――リョーザンに、あらゆる人種が共存できる国を作ることにした。

 貴様も勇者であると言うなら、余のもとにくるとよいぞ?」

「うーん……」


 あいさつの勇者は、こめかみに指を当てて言った。

 

「規模が小さすぎてダメだった!」

「そうか」

「だけど場所は覚えたよ!

 『村』と言えるぐらいの大きさになったら、自然発生しているね!」

「自然発生してるのか」

「草とあいさつの勇者は、地面から生えてくるものだからね!」


 あいさつの勇者は、最高の笑顔で親指を立てた。

 

「それではメダルを渡しておく。

 偉大なる余から、スカウトを受けた証だ」

「うん!」


 あいさつの勇者は、メダルを懐に入れた。

 手を振って走り去る。

 

「すさまじいお力の持ち主でございましたね……」

「うむ」


 なにはともあれ。

 勧誘成功!


   ◆

   

「おひとり勧誘できましたね、サトウ!

 次はどこへ行くのです?!」

「とりあえず……この国の王のところにでも行くか」

「とりあえず?!」

「この国にいるフリーの勇者を集めるついでに、同盟も組んでおきたい」

「『ついで』の用事で、同盟とは……?!」


 緊張しているらしい。

 ブレイドは、腹部を押さえてうめいていた。

 

「しししし、しかしこの場所は、ピーストタウンの東方部。

 王の屋敷がある中央部とは、ケンタウロス便に乗らなければならないほどの距離が……」

「ケンタウロス便を使う必要があるならば、ケンタウロス便を使えばよかろう」

「はうぁっ!」


 墓穴を掘ったブレイドをよそに、オレはケンタウロス便があるところに向かった。

 ケンタウロス便、改札口。

 オレは受付をしていたケンタウロスの少女に言った。

 

「王のところに案内しろ」

「仕官でしたら、東方部でも受け付けておりますが……」

「仕官ではない。同盟だ。

 リョーザンからの使いでもある」

「リョーザンからの?!」

「いかにも」


 イカ子からもらったメダルを見せた。

 

「これは確かに、イカ勇者様が認めた方にのみお渡しするメダル……。

 しかしいきなり王にあわせろと言われましても、わたしの一存では……」

「ならば上の者を出せ」

「ええっと……」


 その時だった。凛とした声が響く。

 

「どうしたのだ?」


 そこにいたのは、ケンタウロスの麗人。

 風を表現したかのような緑髪に、アメジスト色の瞳。長い髪をポニーに束ね、凛――と佇んでいる。

 手入れされた槍とヨロイは、彼女が只者ではないことを示す。

 そしてひたいに、ユニコーンのツノ。

 彼女はただのケンタウロスではない。

 父が人間。母がユニコーンのケンタウロスなのだ。




 

(名前も背景も知っているけど、いきなり言ったら怪しい人だよな……)


 と考えて言った。

 

「その佇まいと空気……。貴公も勇者か?」

「人馬の勇者、ユニコなのだ」

「それは話が早くて助かる。

 余はこの国と同盟にきた。貴公もウチにくるとよい」

「なに……?」

「難しいところがあったか?」


「そのようなことはなかったのだ。

 これ以上ないほど、わかりやすく無礼なのだ」

 

 ユニコ勧誘イベントの始まりだ。

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