魔王でニューゲーム!

~リアルで死んだらゲームのステータスを持って異世界に行けました~
kt60 k
kt60

02話 『魔王でニューゲーム』

公開日時: 2020年9月1日(火) 14:10
更新日時: 2020年9月24日(木) 13:12
文字数:3,704

「んふぅ……♪」


 オレに抱き着いたブレイドは、うれしそうに瞳を細める。

 

「しかし世界に招待か……。ただの親切心とは思えんのだが」

「そう言えば……」


 ブレイドはオレから離れると、下唇に指を当てて考え込んだ。

 

「世界を救ってほしいとは、言っていた気がするのです!」

「忘れちゃいけないとこだよな?!」


 しゅおん……。

 ブレイドはしおれた。

 頭のアホ毛も、しおっと垂れてる。


「サトウに会えたうれしさが、強すぎたのです……」

「そ、そういうことなら、仕方がないな」


 オレは頬を赤くし、そっぽを向いた。

 

「しかし神も、自分で救いはしないのか……」

「『作る力と見る力はあるが、戦う力はないんだよね――』と言っていた気はするのです」

「なるほど……」

「それと『げぇむ』は、『迫るさいやくへの、しみゅれぇと』と言っていた気がするのです!」

「ふむ……」


 カオスオンラインは、『神の加護により10万3000の勇者が生まれた大勇者時代。キミだけの勇者を作って世界を救おう!』というコンセプトのゲームだ。

 好きな勇者を自分で選び、大陸各地に発生した108体の魔王を討伐していく。

 自由度の高い王道のストーリー――――と見せかけて、裏で糸を引いていた『大勇者』と戦う。


『虐殺カオス』という、人やモンスターを殺せば殺すほど強くなる力で最強の存在となるために、争いを起こした巨悪。

 存在に気づいて戦いを挑み――。


 負ける。


 そこで一週目が終わる。

 スタッフロールも流れてくる。

 敗北イベントがエンディングという、訳のわからない仕様。

 この一週目、本当にひどい。

 

 罪のない少女が虐殺される。

 大勇者に逆らった勇者の幼馴染が虐殺される。

 大勇者を信じて戦っていた勇者が、人間爆弾に改造させられ戦場で爆発する。 


 そんな胸糞展開を経由して、最後は大勇者の大陸支配END。


 回避できない一本道で、このエンディングを見せられる。

 マジでひどい。

 それゆえに二週目の、『魔王でニューゲーム』が楽しかった。

 

 一週目が胸糞一本道RPGなら、二週目はフリーダム国盗りRPGである。

 敵を倒して勢力を広げ、大勇者を倒すのが目標。

 

 こちらのモードはなんでもできる。

 悪い魔王になることができるなら、ヒトと魔族を共存させることもできる。

 数ある胸糞イベントも、すべて回避できる。


 しかも二週目の開始時点で、『一週目は夢だった』としてくれる親切設計。

 オレは後味の悪いイベントが大嫌いなので、100回のプレイで100回とも胸糞ルートを回避してきた。

 オレのジョブが大魔王な以上、この方針に準じて国盗りをしつつ、大勇者を倒すのがよいだろう。


「おいしいのですぅ~~!

 げぇむと違って、匂いと味があるのですぅ~~~!」


 オレが考えている合間に、ブレイドは焼きコッペパンを食べていた。


「丁寧に食せ」

「ふえ?」


 ブレイドの口の端には、パンのクズがついていた。

 オレはパンのクズをぬぐった。


「ありがとーなのです!」


 ブレイドは笑う。

 かわいい。

 

「どこに行くかは、決まったのです?」

「リョーザンだ」

「リョーザン?!」

「東南にある塩湖だ。塩と魚を取ることができて、三ヶ国と面しているため貿易もしやすい」


 にも関わらず、倒すべき勇者はひとり。

 ここを早期に落とせると、以降の攻略が楽になる。


「それは知っているのです!

 しかしあの湖の守護者は、『最強』と言われているのです!」

「確かにあの湖の守護者は、十傑クラスの力があったな」


 カオスオンラインは、使えるキャラの性能差が激しい。

 そんな中、ひとつの基準がプレイヤーの中で使われていた。


 二強十傑百騎衆。


 二強がトップ。

 十傑が上位。

 百騎衆が中堅である。


 百騎衆が雑兵千人。十傑が十万人に匹敵する。

 二強ともなれば、雑兵で勝つのは不可能である。

 なので十傑と言えば、世界最強クラスと言っても過言ではない。

 しかし――。


「それがどうした?」


 オレは心の中で、ひっそりと思う。

 

(大魔王としてこの世界に呼ばれたなら、態度も大魔王らしくするべきだよな)


 そんなことを考えて、不敵な笑みを浮かべて言った。

 

「ここにいるのは、偉大なる余であるぞ?」


 二強十傑百騎衆。

 その頂点を極める二強のジョブとは、大魔王と大勇者。

 即ちオレだ。


「頼もしいのです……!」


 ブレイドは両手をギュッと握りしめ、両目をキラキラと輝かせた。

 頭のアホ毛も、左右にぴょこぴょこ動いてる。

 かわいい。


 オレは改めて誓う。

 大魔王として呼ばれた以上、大魔王としてこの世界を救う。


 魔王でニューゲームの始まりだ。


   ◆


 東南の塩湖、リョーザン。

 薄い霧がかかった幻想的な湖に、集落めいた村がある。

 砂浜もあった。

 

『そいやっ! そいやっ! そいやあぁ!』


 フンドシマッチョの男たちが、網でマンボウを引きあげている。

 半径三メートル級の、かなり大きなマンボウだ。

 

「すごいのですぅ……!」


 キラキラしているブレイドを尻目に、男たちに近づいた。

 マッチョでスキンヘッドな男が、オレの前に立つ。

 

「客かい? 見ない顔だが」


 日の光を浴びているのか、全体的に黒光りしている。

 オレは誇り溢れる高貴な大魔王をイメージして言った。

 

「貴公の名は?」

「俺はこの地を守る勇者さま第一の手下――ザコケライだ。

 貿易をするつもりなら、俺様を通してもらおう」

 

「了解した。

 今回は、とある存在を売り込みにきた」

「とある存在?」

「偉大なる余だ。

 この偉大なる余が、ここのトップに立ってやる」

「なっ……?!」

「今は騒乱の余だ。ここの勇者が強靭とはいえ、倒されるは時間の問題だ」


 実際ゲームでも、中盤には倒される。

 ここの勇者は最強クラスのNPCだが、ひとりしかいない。

 波状攻撃に弱い。


「貴様らは、ケンカを売りにきやがったわけか……!」


 ザコケライは怒った。

 しかしこれ、ゲーム通りのセリフであった。


(ゲームだと、挑発でイベントが進むんだよな……)


 ゆえにオレは、ゲームにもあった挑発的なセリフを出した。


「何を言っている。

 どこをどのように見ても、平和的支配交渉だろう」


「こんな平和があるかぁ!」


 この怒り方もゲーム通りだ。

 計画通りに進んでいる感じで安心する。

 だがここで、ブレイドが前に出た。


「まままま、待ってほしいのです!」


 む?


「サトウはとてもいい魔王なのです! これも言い方が悪いだけだと思うのです!」


 ブレイドは続ける。

 魔王プレイをしているオレに、かなりの爆弾発言を。


「サトウは、友達がいない魔王なのです!!!!!」


 ゲームにはない発言だとっ?!


「友達がいないから人との話し方がわからなくって、こういう言い方をしてしまったのです!

 間違いないのです!」

 

 しかも間違っていない。

 こういう言い方をしているのは魔王ロールプレイのせいだが、友達がいないのは本当だ。

 そもそもずっと病院で寝ていたので、リアルの人間との付き合いがわからない。

 

 アドリブを求められると困る!!!


 しかし今更、止めることも難しい。

 オレはゲーム通りの流れのセリフを、ザコケライに言った。


「しかし安堵するがよい。

 基本的な統治は、貴様たちに任せてやる。

 偉大なる余が認めた勇者たちを、受け入れるだけでよい」


「偉そうにしやがって……!」


 ザコケライがオレを睨んだ。飢えた獣のように鋭い瞳。


「でもそれは、友達がいないせいなのか……」


 しかしすぐさま、哀れみに変化した。

 

「そうなのです! 

 わたしのサトウを、温かく受け入れてあげてほしいのです!」

 

 ブレイドは、必死になって懇願する。

 一生懸命でかわいい。


(面倒なアドリブも、この子のためにがんばるべきか)


 心からそう思った。


「それでも支配と言うなら、『力』を見せてもらわねぇとなぁ!」


 ザコケライはポーズを取った。

 

「ホブゥンッッ!」


 声とともに衣服が破れる。

 はちきれんばかりの筋肉が出てくる。

 オレは鑑定魔眼を使用した。

 ゲームでは見たこともあるが、ここではどうなるか確認もしたい。


 トテモヨワイ=ザコケライ

 ジョブ:ハゲ

 レベル:30

 HP 300/300

 MP  0/0

 攻撃力:150

 防御力:80

 敏捷力:50

 魔攻力:0

 魔防力:20


 ハゲってジョブだったの?!?!

 そう突っ込んだのを思い出す、懐かしのステータスだ。

 一般人としてはそれなりの部類だが、勇者と比較すると弱い。


(万が一にも、殺さんように加減せんとな)


 オレはおはじきを弾く程度の、やさしい力でデコピンを入れた。

 

「へぶらっぱぁ!」


 ザコケライは吹っ飛んだ。

 卍の形で吹っ飛んで、材木置き場にダイビング。

 ドグランガッシャーン!

 とても派手な音がして、材木が崩れる。

 

(やばい……!)


 オレは焦った。

 ザコケライを殺したことは、過去に今まで一回もない。

 ゲームでやったことのない展開は困る。

 

「やややや、やりすぎなのですぅ!」


 ブレイドも叫んだ。

 材木置き場にダッシュで走る。

 

「大丈夫ですかー?! マッチョさん!」


 ガラーンっ!

 男は、材木をはねのけ山の字と似たポーズで出てきた。

 そのポーズのまま、しばしの間をおき――。

 

「おうよ!」


 親指を立てる。

 ひたいは赤く腫れているが、至って平気な顔をしていた。

 

「このザコケライを倒すとは、口先だけじゃねぇようだな」


 男はホラ貝を出した。

 

「テメェには、おかしらに会う権利がある」


 ぶおぉ、ぶおぉ、ぶおぉ。

 ホラ貝の音が響く。

 ゲーム通りだ!

 よかったあぁ~~~!!!

 

 オレは心から安堵した。

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