「あーもう」
残されたシューマッハは燃え続ける炎を見てため息をつくと、スマホを取り出す。
そして画面を見て目を丸くする。
「圏外かよ、連絡できねーし!」
地下でも通信できるよう、アンテナ線が張られているはずだが……。
誰かが妨害しているだろうか、と考えながら、シューマッハは地上に戻る。
だが地上に出ると、大通りは地獄と化していた。
上から紐で吊るされたような、不自然な動きで飛び回る闇色の人型、ダイルデサント。
それが無数に飛び回っている。
シューマッハは頭痛を感じつつ、相棒に連絡する。
「モルガナー? 生きてるー?」
『生きてるが、敵の数が多すぎる。建物の中に入ったから狙撃も観測も無理だ』
「こっちも取り逃がしちゃったよ。どーする?」
『一人で追えるか?』
「無理。っていうか、あいつら放火とかしてくるし! 今から地下に戻ったら蒸し焼きになるかも」
『……連れてる男の顔は見たか?』
「うん。たぶん軍関係者。アヌビス拳銃持ってた」
モルガナは数秒沈黙。
『その情報、誰かに話したか?』
「ううん。判断はそっちに任せるよ。とりあえず、そっち戻ろっか?」
『いや、近くで軍が防御陣地を展開し始めたらしい、そこで落ち合おう』
「オッケー、またね!」
シューマッハは通話を終え、スマホをしまう。
ダイルデサントの群れが、シューマッハに気づいて、地上に降りてくる。
「さてと、防御陣地で待ち合わせと言ったけど、別に全滅させちゃっても問題ないよね?」
シューマッハは楽しそうに笑いながら光の双剣を起動すると、目の前に降りてきたダイルデサントに切り掛かった。
〇〇〇
およそ三十分後。
シューマッハは防衛陣地にたどり着き、先に到着していた相棒の金髪の女、モルガナと落ち合った。
「お、おまたせー」
「うわ……ずいぶん大変だったみたいだな」
モルガナは、シューマッハの姿を見て驚く。
ダイルデサントは、死ぬと破裂し、黒いタールのような泥をまき散らす。
泥には毒性があり、それに触れるとダイル化の危険があるとも言われていた。
シューマッハはその泥を頭からもろに被っていた。
全身、黒くない面積の方が少ない。
「いやー、ちょっと返り血っていうか返り泥で」
「ちょっとじゃないだろ……シャワーは向こうだ」
モルガナに案内されて洗浄車両が集まっているところに行く。
洗浄車両はダイルの泥を落とすための車だ。
バスのような車体は防弾装甲に覆われていて、ダイルデサントの攻撃を受けてもある程度耐えられる。
フェイルノートとスマホはビニール袋に入れてモルガナに預けてから、シューマッハは車体の後ろ側の扉から入る。
そこで身に着けていた物を全て脱ぎ捨て、シャワールームに入る。
『体を大の字に開き、手もパーに開いてください。目を閉じ、合図があったら息を止めてください』
機械音声に従ってシャワーが起動するのを待つ。
ズバシュゥゥ
上と前後左右から吹き付ける高圧水によって全身の汚れが五秒で落とされる。
『洗浄完了を確認しました。シャワールームを出てください、出口は左です』
入ってきたのとは別の出口から出る。
車体は前と後ろが区切られていて、分厚い磨りガラスで隔離されている。
シャワーを通らなければ前側には来れない。
汚染を持ち込まないように設計されている。
「ああ……」
備え付けのタオルで水気を落として、簡易服を頭から被って、ようやく一息付けた。
「まったく。ひどい目にあったー……」
モルガナが車両横の扉を開けて、入って来る。
「一息ついたら、着替えを手配しないとな……まあ、今は難しいかもしれないが」
「いっそ基地の宿舎まで帰るのもアリじゃね?」
「そうだな」
「で、ミッションターゲットの行き先は見当がつく?」
「ない……というか、こんな状況で捜索を続けることができるのか?」
モルガナは疲れ切ったように言う。
シューマッハは車の小さな窓越しに空を見た。
ダイルデサントが飛び交い、対地ヘリやCCKが掃討作戦に入っている。
人間サイズの戦闘員の出番は、もう残っていない。
「確かに追いかけるのメンドイよね。……いっそ、別の切り口を探すとかどう?」
「別とは?」
「あの女の子、学生でしょ? クラスメートとかいるよね?」
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