人が怪物化する世界だとしても、この少女だけは守りたい

ソエイム・チョーク
ソエイム・チョーク

04 真実と向き合う時

19 襲来

公開日時: 2021年8月15日(日) 18:05
文字数:1,611


 アイランド・グレイハイトにパイプオルガンの音が鳴り響いた。

 夜の闇を破るように、毒々しい光のオーロラが降り注ぎ、世界の終焉を喜ぶかのような歌声が波紋になって広がっていく。


 空に巨大なセベクノート体が浮遊していた。


 それは球体の集まりだった。

 直径、五メートルほどの球体。それが七個。

 原子模型か何かのように短い棒で繋がっている。


 球体の色は白、その上に金色の模様が、飾りのように輝いている。

 その塊から何本も、細長い布のような物が伸びている。

 ある物は下に垂れ、ある物は上昇気流に吸い上げられるかのように上に伸び、ある物は鳥の翼のように横に伸びてゆっくりと羽ばたく。


 その羽はサイズこそ違えど、ミーナの背中から広がった糸のような物と本質的には同じだ。

 赤青緑オレンジ黄色、色とりどりの光を放っている。


 巨大な異様の怪物は、学園の隣に立つ時計塔の文字盤と同じぐらいの高さに、ゆっくりと浮遊していた。


〇〇〇


 軍基地の地下にある指令室。


 核攻撃を受けても破壊されない頑丈な壁に守られたその部屋は、この島の軍事力を統括するための部屋だ。

 壁面に巨大なモニターが設置され、数十人のオペレーターが、入ってくるさまざまな情報に、慌ただしく対応している。


 フランツは長官席に座って、巨大なモニターに映し出されている惨状を眺めていた。

 破壊された学園の後者、

 セベクノート出現時の振動で荷物が崩れて混乱している防衛陣地。


「ついに姿を現しおったか……」


 フランツは、この後、何が起こるかを考える。

 一番あり得るのはセベクノート体が暴れて街を壊すことであり、二番目にあり得るのは爆撃機の対セベクノートミサイルで怪獣もろとも街が吹き飛ぶことだ。

 どちらにしても十六番街にいる人間の命の保証はできない。


「やむを得ん。十六番街にいる非戦闘員を全て撤収させる!」


「全てですか?」


 隣にいたオペレーターが慌てて聞き返す。


「全ての非戦闘員だ。歩兵も撤収を前提に順次後退しろ! 手が足りない所はCCK部隊を全部投入して塞ぐ。いずれ防衛陣地も撤収する。それまでの時間を稼ぐんだ!」


「十六番街を見捨てるんですか?」


「やむをえん……」


 十六番街は、もう諦めるしかない。

 最悪の事態があるとすれば、十六番街が沈没する時に、隣接するブロックまで巻き込まれて、島全体が沈没することだ。

 そうなるのを防ぐためには、爆撃に合わせて十六番街を自沈させるしかない。


 だが、担当のオペレーターが苦々しい顔で報告する。


「ダメージコントロールに問題あり。十六番街の中央付近がほとんどコマンドを受け付けません」


「何が原因だ?」


「物理的に破壊されたようです。原因はたぶんセベクノートです。あれは地下から現れました」


「地下だと? ここは海の上だ。正確に報告しろ」


 フランツが言うと、オペレーターは慌てて言い直す。


「あ、いえ。つまり、直前までフロートの下の海中に隠れていて、フロートを突き破って出てきた可能性が高い、という意味です」


「できる範囲でなんとかしろ。周りのブロックが巻き込まれなければ、なんでもいい」


「連結基部を手動で切り離すしかありませんが……人手が足りません」


「非戦闘員に作業をさせるしかないか……」


 セベクノート体が出現視点から移動しなければ、それも可能だろう。

 だが、どうなるかはわからない。


 フランツは別のオペレーターに確認する。


「爆撃機はどうだ? 離陸用意に入れるか?」


「いつでも離陸できます。もう飛ばしますか?」


「まだだ。明るくなる前に、状況把握と避難を優先する。攻撃するのも、手動切り離しの目途が立ってからだ」


「了解」


 今出せる指示を出しおえて、フランツは手元の画面に映し出される被害予想を見た。

 気が重くなる数字ばかりが並んでいる。


「あの、正式な攻撃命令は、いつくると思いますか?」


 副官に小声で聞かれ、フランツも小声で答える。


「セオリー通りなら夜明けのタイミングを狙うよう指示が来るはずだ。それまでに一人でも多く避難させるしかない」


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