入学式を無事に終えた新入生達には自由時間が与えられる。学校と言うか授業が始まるのは入学式の二日後と言う事だが、それまでは自由に学園内や寮の施設、王都にも出入りして良いらしい。
第四話。 ~自由時間を楽しみます~
「で、早速やけど何処行くー?」
「そうだなー……やっぱ雑貨屋は外せないっしょ?」
「俺は書店に行きたい」
「僕は魔道具屋かなぁ……」
「……腹拵えでも良いんじゃないか?丁度昼の時間だろう」
「……思った通り夜更かしをしてしまった……」
入学式の後、彼ら6人は真っ直ぐに寮の部屋へと向かい、アイスとカイリとセキルとピルカーは荷解きもそっちのけで直ぐベッドに横になった。
その間、フレイムとシラトは荷解きを終えてアカデミー内の図書室と言う図書室を回っていたらしい。どうやら此処のアカデミーには図書室が複数存在するようだ。
そうして思い思いの時間を過ごした後に全員が再び顔を合わせたのは夕飯の時間。
全員で食事をし、大浴場で羽根を伸ばした後にそれぞれがリラックスタイムへと入った……筈だったのだが、いつの間にか全員でカードゲームに興じてしまっていたのだ。
何度も最下位になるアイスがもう一度もう一度と繰り返した結果、全員が眠ったのはもう空が明るくなるかと言う時間帯だった。
「……まさかカードゲームであそこまで盛り上がるとは思わなかった……」
「生まれた時から共に居たが、アイスがあそこまで負けず嫌いだったとはな……」
「何で皆はあんなに強いの!?」
「アイスはー……あれだよ、な、ほら」
「そやね、顔に出過ぎやったわ。あれなら誰でも勝てるんちゃう?」
「……少しはフレイムのポーカーフェイスを見習ったらどうだ?」
大きな欠伸を漏らす者も居れば興味津々に辺りを見回す者、少し申し訳なさそうに苦笑いを浮かべる者、からかうような声音の者、顎に手を当て何かを考えている様子の者、それぞれが思い思いに行動しながらもきっちり6人揃って移動している所を見ると思った以上に気が合ったのだろうか。
「んじゃま、腹も減ったし先に飯行く?何食いたい?」
「「「「「肉!!!!!」」」」」
ピッタリと声を揃えた5人の様子に笑いつつセキルも深く頷く。
「だよね、僕もそう思ってた」
「え、つかエルフって肉食うの?」
「……あんま食ってるイメージは無いよな」
「ん?あぁ、俺の家は結構食べるな。食卓に肉が出ることも多かったから。まぁ、食べない家の方が圧倒的に多いけど」
「へぇ……やっぱ同じ種族でも色々と違うんだなぁ」
「俺の家は森の獣とかモンスターが良く出る場所にあって、獣とかモンスターの被害が多かったからってのもあるが」
「狩ったら狩ったで色々と処理とか大変だしなぁ」
「そうなんだ。薬にも道具にも使える箇所が少ないから、売ってもそこまで金にはならないし。売る為に鑑定して貰ったりするのだけでも金は掛かるし」
「あー……それやったら自分らでどうにかした方が早いかも知れんなぁ」
「確かに」
「あ、そや、親戚のおっちゃんとおばちゃんが此処の街で店やっとんやけど飯食うのそこでもエエか?」
「「「「「異議なし」」」」」
「マウンスリリー帝国随一の料理人を持つウィンディ家の親戚が経営してるとか絶対美味いじゃん?」
「これは間違いないな」
「楽しみになって来たー!」
「そこまで信頼されると嬉しいわー。おっちゃんとおばちゃんの料理はマジで超ウマいから期待しといて」
「そういや、来た時は疲れてて全然気付いてなかったんだけどさ」
「おん?」
「此処って晴空列車走ってたんだっけ?」
「そう言えばそうやね。シーラシアでも走っとるけど、基本的にお偉いさんしか使えんのよな」
「やっぱそうなんだ?ドレイカーもそんな感じだわ」
「「「晴空列車?」」」
「晴空列車って言うのは、魔鉱石をエネルギーとして人や物を運んでくれる……要するに空に浮かんでる列車の事だ。普及があまり進んで無いから知らないのも無理はない」
「走っとるんはシーラシア、ドレイカー、ほんで俺らが居るこの王都やね、大陸全土に広げる計画も着々と進んどるらしいけど」
「何でも、飛ばす為には相当の魔鉱石が必要らしくて、魔鉱石を大量に所持してる家の人しか使えないとか聞いた事あるわ」
「それな。そもそも魔鉱石を手に入れるんが大変やし」
「魔鉱石ってダンジョンとか一部の洞窟で自然に生成される、魔力を帯びた鉱石の事だったっけ?」
「それだ。……稀に王都の雑貨屋に入る事もあるらしいが、値段が凄いらしいな」
「魔鉱石は普通の鉱石と見分けが付かないらしいから、専門家とか鑑定持ちじゃないと確認できないってのもありそうだなぁ……」
空中に視線を向けるセキルに釣られて同じように視線を向けたアイス、フレイム、ピルカーの視線の先には空中にふわふわと浮かんでいる長方形の塊を確認する事が出来た。群青色を基調としたその箱を注視すると、どうやら箱の上の方には細い蜘蛛の糸の様なものがある事に気づく。
「どうやって浮かしてるのかと思ったら、めっちゃ細い糸みたいなの使ってるみたい……?」
「どれどれ……お、本当だ。あの細さで重そうな塊浮かしてんのすげぇな」
「……何の糸なのかめっちゃ気になってきたわ」
「そういや気にしたことなかったな。んー……あれはダイスパーの真糸か?」
「何で分かるのかって聞きたくなったけど……スk「もしかしてスキル?」
「そう、俺の一つ目のスキルは心眼。簡単に言うと無機物に限定された鑑定スキルな」
「そうなんや!!無機物限定やとしても鑑定スキルとかすごいやん」
「ははっ、真眼スキル持ってる人に比べたら弱いけどな」
「いや、鑑定ってだけでマジ凄いと思うよ。俺、鑑定スキル持ってる人に会うの初めてだし」
「そう言われれば……俺も鑑定スキル持ちに会ったん初めてやわ」
ザワザワと騒がしい街中を暫く歩くとやがて目の前に大きめな建物が姿を現す。
外壁は白から青のグラデーションとなっており、屋根は薄茶色の片流れ屋根。
敷地を示すための白いフェンスはアンティーク調になっている。
「え、何かめっちゃお洒落じゃね?白と青の組み合わせ綺麗過ぎ」
「分かるわー!此処に来るんは初めてやけど、めっさオシャレやなぁ」
「てかめっちゃ並んでるけどこれ予約とか無しで入れる所?」
「……こっち来たら行く言う話はしとったけど、今日行く連絡はしてへんかな……」
「マジで?」
「え、もしかして入れない可能性も出てきた……?」
「丁度店員さんが店の裏手から出て来たし、今から声を掛けておけば良いんじゃないか?」
「それもそうだな。……じゃ、行ってこいカイリ。僕達は此処で待ってるから」
「そやね、ちょっと行ってくるわ」
並ぶ人達の邪魔にはならぬよう素早く店員へと近付いたカイリが声を掛けると店員は驚いた表情を浮かべ、首から下げたカードのような物を手に持ち顔に寄せた。カードに向かって何言か呟くと少しの沈黙の後にカードの端に付いた小さな水晶に光が灯り、カードから別の声が聞こえて来る。
「店長、カイリ様がご友人と共にいらっしゃいました」
「あ?カイリ?あー……そう言えば入学式は昨日やったか……いつ来るかは知らんかったから席の準備してないな……母さん、どないする?」
「どないするも何も無いやろ。お客様はまだいらっしゃるんやから、今は予約だけ受け付けとき。特別個室はあと40分位や」
「それもそうやな。リームくん?悪いんやけど、カイリに今は席埋まってるから40分後位にもっかい来てくれー。って伝えといてくれるか?」
「かしこまりました」
店員がカードに向かって別の単語を呟きカードを手から離すと水晶の光は消え、先程聞こえていた声はもう聞こえなくなっていた。
「お待たせしましたカイリ様。生憎ですが今は空いている席がありませんで……40分程経ってから再度ご来店頂けますか?」
「了解、急に来てしもて堪忍なー。したらちょっとブラっとしてくる……どっかお勧めの場所あったりする?」
「申し訳ありません……お勧め……あぁ。この時間ですと、小さい食事の小道沿いに建っている店や屋台であれば人が少ないかも知れません。果物や菓子も豊富ですので、是非一度行かれてみては如何でしょうか?」
「小さい食事の小道!そこ行きたかった所や……!何でも色んな国のモンがあるんやろ?」
「えぇ、珍しい調味料などを取り扱う屋台や、別の国でしか採れない食材なども多いので、きっと楽しめると思います。向こうの道をブワァ行ってチョチョイと曲がって貰ったらドーンと突き当たりが軽い食事の小道なので是非」
「なぁ、もしかしておっちゃんとかの道案内聞いたりしてた?」
「……?あぁ、申し訳ありません。最近はずっとシーラシアの人達に説明していたので。……この説明だとシーラシア以外の人にはなかなか伝わらないんですよね」
「シーラシアの人らの道案内は結構特徴的やんな」
「えぇ、本当に」
「せやけど俺はシーラシアやからな!他の国の人らにも説明する時は気ぃつけやー。ほんならボチボチ行くわ。おおきにリームさん!また後でなー!!」
「えぇ、楽しんできてください。40分後、お席を準備してお待ちしております」
恭しくお辞儀をした店員は少しの息を吐いた後に店の前へと並ぶ人々の元へと歩みを進めた。
それとほぼ同時にカイリも友人達の元へと戻って来る。そうして両手を顔の前で合わせて謝罪の言葉を口にする。
「すまんー!ちょぉ今は席が空いてないみたいでな、40分後位には空くらしいしそれまでここいらウロウロせんか?」
「それは問題ないんだけど、流石にお腹は減ったかも……」
「「「「以下同文」」」」
「息ぴったでオモロすぎ」
腹を軽く擦りつつ告げたセキルの言葉に同意を述べた4人は力強く頷く。
その一連の動作を見て噴き出したのは勿論カイリである。
「おっしゃ、ほんなら行こか。此処の道の先を行った所に色んな屋台が集まっとる場所があるみたいやねん」
「りょ!」
「言われればレストランじゃない方向からも変わった匂いとか香ばしい匂いとかが漂って来てるな。……あとはちょっとキツい香辛料っぽい臭いとかも……」
鼻をヒクヒクさせて少し眉を寄せるピルカーの言葉に他の5人は目を合わせる。
「え、匂いする……?」
「残念ながら俺には分からない……」
「さすが獣人……」
「そうか、ピルカーって狼だもんな」
「そういやそうやん」
そんな事をコソコソ話しているとピルカーがもう一度口を開く。
「そう言えばさっきカイリが話していたリームさんは何を言ってたんだ?チョチョイとかドーンとか擬音が聞こえたが」
「あぁ、あれな。シーラシアの人らの道案内は結構擬音使うんよ」
「なるほど、そう言う事か」
カイリの回答に納得したように頷いた直後、彼とは違う方向から盛大な鳴き声が周囲にこだました。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!