「うん……?」
なんだか、懐かしい夢を見てたような気がする。
「朝か……。学校行かないとな……」
学校?
「灯花!」
教室で変な玉が近づいてきたところまでは覚えてる。
そのあと……どうなったんだ?
「……ここは?」
部屋を見回すが、学校でこんな場所は見たことが無い。
誘拐されたのか?
灯花はどこに?
自分の身体に触れて確認してみたが、特に痛むところや怪我をしている場所は見当たらなかった。
……状況を確認しよう。
藁を敷いただけの簡素な寝床に寝ていたせいか制服が藁まみれ。
隣にも同じような藁の寝床が作られている。
「灯花も居たのか?」
触ってみるとまだ暖かい。
まだ近くにいるかも知れない。
服の藁を払い、部屋の隅に置かれていた二つの通学鞄を持って部屋を出ようとドアノブを握った時。
ガチャッ。
ドアノブが勝手に回った。
正しくは、向こうから誰かが回した。
扉が開ききる前に一瞬、金色の髪が見えて。
「灯花?」
しかし、開いた扉の向こうに居たのは金色の髪に金色の目をした子供だった。
「あ、起きたんだね」
外国人かと思い身構えていたら流暢な日本語で話しかけられたので、ほっと胸を撫で下ろした。
「森の中で倒れていたんだけど、なんともない?大丈夫?」
森?どうやら教室からは出られたものの、外で倒れてしまっていたらしい。
「えぇっと……ここってどこ?」
我ながらなんとも間の抜けた質問だが、ここが万が一知ってる場所なら灯花は起きて帰った可能性もある。
「ここはドラグ・コトラ南東にある"記憶の森"だよ」
………………。
……ドラグ……なんだって?
「日本じゃないの?」
「ニホン?ちがうよ?」
いや、普通に日本語で会話してるのに何言ってんだこの子は?
「この辺はよく樹獣が出るから何の装備も無い子供が歩くのはとっても危ないんだよ?」
自分よりずっと幼い相手に子供扱いされるのは心外だが、今は自分の置かれてる状況を確認することが大事だろう。
「あー、うん。わかった。あの……僕と一緒に女の子が居たはずなんだけどさ、何処に行ったか知らない?」
見た感じこの子に危険性は無さそうだけど、警戒させないよう丁寧に聞いてみる。
「もう一人の子?さっき薄い板みたいな物を持って"電波が……"とかブツブツ言いながら外に出ていったけど追わなくて良いの?てっきり知り合いかと思っ……」
「キャアァァァァ!」
話を遮るタイミングで灯花の悲鳴が聞こえてきた。
「灯花っ!?」
子供の横を走り抜けて部屋から出る。
「ユウ!助けてっ!」
声のした方に向かって全力疾走。
そこで僕の目に映ったのは、地面に座り込んだ灯花を三頭のライオンみたいな大きな動物たちがぐるりと取り囲んでいる光景だった。
大型犬に見えなくもない見た目だったが、その身体には足が六本も生えている。
今までに見たことの無い姿の動物に僕の頭は混乱した。
「二人とも大丈夫!?」
さっきの子供が走って来た。急いだせいか、両肩で大きく息をしている。
「灯花!はやくこっちに来い!」
動物たちが囲むだけで襲おうとしないのを見て、灯花へこっち側に来るよう促す。
「こ、腰が抜けて……」
またかよっ!
動けない灯花を助けるために、意を決して駆け出そうとしたその時。
「大丈夫!任せてっ!」
息を整え終えた子供が動物たちの前に躍り出た。
「"昂ぶる心よ落ち着け、荒ぶる心よ静まれ"……」
なにかを呟きながら空中に指を向けると、その指先にどこからともなく光が集まっていく。
「"安らぎの聖法、ホップ"!」
指先に集まった光の塊が、小さな無数の粒となって飛び散った。
――――――――辺り一面に。
「こっちにも飛んで来るのかよ!」
光の粒はすごいスピードで飛んできて、僕は微動だにできずに直撃してしまった。
「うわああああああ!…………あれ?」
驚いて叫んでしまったが、特に痛みや異常は感じない……。
「大丈夫だよ」
子供は動物たちのうちの一頭に話しかけている。
「すぐに行くから、自分たちの巣へとお帰り」
その言葉を理解したのか、動物はブフーと鼻を鳴らして茂みの中へ姿を消した。
見えなくなったのを確認して、灯花はなんとか震える足で立ち上がる。
「た、助かったでござる……」
生きていたことに安堵したのか、灯花は大きく息を吐いた。
「灯花を助けてくれてありがとう」
子供に向きなおり、お礼を言う。
「ううん、ボクも注意するのを忘れてたから……」
見た目の割りに、かなり落ち着いている子だ。
「えっと……。いろいろと聞きたいことがあるんだけど質問してもいいかな?」
今の自分たちが置かれた状況を少しでも知るためにこの子から話を聞こう。
「うん。また他の樹獣たちが近付いて来たら危ないし、中に入って話をしよう」
僕は灯花に肩を貸し、子供の後に続いて家の中に入った
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