「あなた、私の侍女になりなさい!」
綺麗なドレスをまとった可愛らしい王女様。皆に愛され育った誰もが知る彼女に、なぜか私は誘拐されました。
私の意思とは関係なく城へとそのまま連れていかれ、お風呂に入れられ磨かれる。そして子どもサイズのメイド服を着せられ王女の前に連れていかれた。状況を理解できぬままに怒ったその一連の流れに頭を抱えたくなる。そんな中でも最低限の王族への礼儀として頭を下げた私を誰か褒めてほしい。
「あなた、名前は?」
王女に名を問われ、彼女の周りに控える侍女に救いを求めるように目を向ける。今世の私は孤児で、名前はなかったから。……そう、今世は。一度目は冒険者で世界を自由に旅し、最高ランクといわれるS級へとなり、二度目では侯爵令嬢となり深淵の姫として暴れたものだ。三度目の生では聖女と認定され、教会の奥で祈りを捧げる……ことはなく、前線に出てよく神殿長に怒られていたが民にはそれなりに慕われていた、と思う。そして今世、私は孤児として再び生を受けた。とはいえ、冒険者としての記憶もあったし聖女としての記憶もあったからか街の外へと出て動物や魔物を狩っていたし、薬草なども見分けられたおかげで生活にはそれほど困ることはなかったが。
「殿下、この者は孤児でしたので名がないのかと」
「そう、ならいいわ。……そうね、今日からあなたはラティよ」
ラティ、それが今世の私の名前。王女が与えてくれた、私だけの名。
「あなたは私の侍女にするわ。とりあえず、そうね。一週間あげる。一週間で使えるようになりなさい。この私の侍女になるのだもの。そのくらい、できるわよね?」
笑顔で無理難題を口にする王女に顔が引きつりそうになる。侍女の仕事は幅広い。主人の身の回りのお世話から屋敷、城の清掃、庭の手入れ、街へのお使い、などがある。当然、客人の対応なども業務に含まれるため礼儀作法は必須のうえ、主人の夜会用のドレスなどの意見についても聞かれることがあるため、流行の把握も必須となる。それらをたった一週間で、とは普通に考えれば無理だろう。……私でなければ、だが。
「一週間もいただけるのでしたら頑張ります」
「えぇ、期待しているわ」
私と王女は互いに笑みを浮かべると、王女は私と数人の侍女を置いて部屋を出ていく。
「はぁ、あの方の気まぐれにも困ったものですが……あなたも、大変なことになりましたね。私はマリエル・シーヴァ。あなたの教育係を務める者です。アリシエ王女殿下の侍女も務めておりますが」
どこか同情的な視線を向けられる。そして、苗字持ちということは貴族出身のようだ。……まぁ、王女の侍女など普通であれば貴族の者しかありえないのだが。
「あなたは孤児ということもあり周囲からのあたりは強いでしょうが、王女殿下に見初められたのです。くれぐれも、王女殿下の顔に泥を塗ることがないようお願いします」
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