「あらら……本気かい? 本当に俺たち三人相手に、ついでに言えばこっちが指定した〝この場所〟でやろうってのかい? 止めといた方がいいのにねぇ……」
「アハハハハハッ! 良いぞ良いぞ! あそこにいる拳の王は、この二年で円卓の〝王〟を二人も倒しているのだ! 最後に戦った時とは比べものになるまい! なあスーリヤよ、あの男は私にやらせろッ!」
「フフ……いいでしょう。ですが、血気に逸り、我々の目的を忘れてはいけませんよ。私とてソーマの件はこの日まで耐えたのです。ここでの失敗は決して許されません」
「ハハッ! そんなことは万も承知よッ!」
「しゃーないね。んじゃ……やるとしますか」
瞬間。僕たち四人の宣戦を見て取った母さんたち〝三人の九曜〟が応じる。
母さんの左に立つ小柄な褐色の少女、〝九曜の金〟さんと、右に立つ袈裟姿の男の人〝九曜の土〟さんの背にそれぞれ大きな曼荼羅が現れる。
そして二人の真ん中に立つ母さんは、その背に太陽そのものみたいな曼荼羅と、神様と完全に一つになった証の〝光輪〟を実体化させて、ふわりと宙に浮かび上がったんだ。
「――――では! まずは〝悠生の考えてくれた作戦〟通りにやってみましょうっ! 上手くいかなかったら〝チェンジ〟ですっ!」
「はいっ!」
そしてそれを見た僕たちも動く。
悠生の隣で聖像のイメージを光臨させた永久さんが、純白のロングコートをたなびかせて地面から離れる。
「私も久しぶりに本気出しちゃいますよっ! ――――地獄で後悔すると良いですっ!」
そうしながら永久さんは一度目を閉じて、開いたときにはその瞳の色は普段とは違う〝金色〟に。永久さんが放出する力が収束して、四枚の〝白い翼〟の形になっていく。
「たとえ相手が〝九曜〟だろうと――――ッ!」
そして僕の隣に立つエリカさんの足下からは、蒼白い炎が立ち昇る。
それは一瞬でエリカさんを呑み込んで――――って、違った!?
「――――私の炎で焼き尽くして見せるッ!」
「うわわっ!?」
あまりのことに思わず驚いちゃったけど、エリカさんは僕の目の前で生み出した蒼い炎に〝乗っちゃった〟んだ。
それはまるで、巨大な竜の頭に乗る魔法使いみたいで。火って乗ったり出来る物なのとか、そういう僕の疑問も全部置き去りにして、エリカさんは一気に飛んで行ってしまう。そして――――!
「ハッ! 悪いが、そうそう〝お行儀良く〟やってられるかよ! いくぞ、鈴太郎ッ!」
「う、うんっ! やろう、悠生っ!」
僕と悠生は頷き合うと、先に飛んだ永久さんとエリカさんに続いて一気に飛び上がる。当然、僕たちの狙いは――――〝母さん〟だ!
「むむっ!? なんだお主はっ!? 私は拳の王と戦いたいのだ! まさか私の邪魔をするつもりかっ!?」
「そのとーりですっ! 悠生から聞きましたよっ! 貴方の力って、私とは〝相性がすーっごく悪い〟そうですっ!」
「な、なんだとっ!? おい拳の王ッ!? 貴様それでも男か!? 円卓の王としての誇りはどうしたっ!? おいッ!? 正々堂々私と戦えっ! ぬわ――――っ!?」
「うるせぇッ! 今はお前の相手なんざしてる暇はねぇんだよッ!」
僕たちの――――というより〝悠生目掛けて〟一直線に飛び降りてきたシュクラさんの前に、〝本物の女神様〟みたいな姿になった永久さんが、四枚の翼を広げて立ち塞がる。
更にそれを見て一緒に降りてきたシャニさんの前には――――。
「マスターと小貫さんの邪魔はさせませんっ!」
「なるほど、そういうこと? でもさ、君ってあからさまに〝炎使い〟だよね? ソーマ君か、あっちの拳の王から〝俺の力〟について聞いてないの?」
「聞きました! その上で〝やれる〟と――――! 〝燃やせる〟という判断ですッ!」
「まーじか!? でも悪いけどさ……俺って炎使いに〝負けたことない〟んだよねぇ……?」
そう――――悠生は後からこの場に現れた二人の力を〝知っている〟。
もちろんそれは元九曜の僕も知ってるんだけど……それでも円卓の王として、〝僕たちの敵として〟何度も二人と戦った悠生の方が、そこについてはずっと身に染みて分かってる。
だから悠生はあの一瞬で僕たち四人と母さんたち三人の力をすぐに分析して、相性的に一番有利になるような作戦を考えてくれたんだ。それはつまり――――!
「てめえの相手はこの俺と――――ッ!」
「――――僕がやる! やってみせるッ!」
「フフフ――――なるほど、〝円卓の王〟と我ら六業会の至宝である〝九曜の月〟が共に手を携え、私という陽光を墜としにやって来る――――これほど愉快な光景はありませんね?」
永久さんとエリカさんの援護を受けた僕と悠生は、一気に上空の母さんに突撃。
それを見た母さんも、僕たちを迎え撃とうと幾つもの灼熱の太陽を自分の周りにどんどん産みだしていく。でも――――!
「邪魔だ――――ッ!」
「おや……? 〝この力〟は……まさか?」
母さんが出現させたいくつもの太陽。
でも悠生は、僕が支えるのもやっとだった母さんの太陽を、その燃える拳で次々と打ち砕いていったんだ。
すごい……っ!
やっぱり悠生は、昔僕が戦った時よりもずっと強く……ううん、今この時だって強くなり続けてるんだ――――!
「なら、僕だって――――っ!」
次々と砕かれていく母さんの太陽。
そしてそこから零れ落ちる〝灼熱の火の玉〟。
僕はその炎を必死に避けながら、流れる波紋に乗せてかき集める。
そうして集められた母さんの太陽の欠片。最初はマグマみたいにゆっくりだった灼熱の炎が、僕の波紋に乗って集まり、流れ、加速して――――!
「波よ――――!」
空中を滑るようにして飛ぶ僕の周囲に、元は〝母さんの力だった〟太陽の炎が灼熱の渦を巻く。それは僕の波紋によってもう一度力と熱と速度を与えられたプラズマの閃光に変わる。
エリカさんの炎を何度か収束させてみてわかったんだ。僕の波は粒子を集めるだけじゃなくて、加速させて〝熱を高めることも出来る〟って。そして、それなら――――!
「お願い、悠生――――っ!」
「任せろッ!」
悠生が仕掛ける。
限界を超えて加速した悠生が僕の視界から消える。
でも僕の波を捉える感覚には悠生の軌道がはっきりと映っていて、悠生の拳が母さんを守護する〝太陽の障壁〟へと叩き込まれるのを確かに捉えていた。
前にエリカさんと僕の攻撃が母さんに届かなかったのは、母さんが持つその障壁を僕の波とエリカさんの炎でも破れなかったからだ。
詳しくは知らないけど、太陽が常に放出してる熱や、太陽風っていう粒子が起こすとんでもない力の流れ。母さんはそれで自分のことを常に守ってる。
けど悠生なら。
当たりさえすれば、〝どんな物でも砕く〟悠生の拳なら!
母さんの持つ障壁も、問答無用で砕けるはず!
「おお――――ッ! らぁああああああああああああッ!」
「まさか……!?」
砕けた――――!
きっと今まで一度だって砕けたことがないはずの、母さんの障壁が!
「鈴太郎ッ!」
「我が心は波――――! 押せば引き、引けば返す無窮の因果!」
ごめん――――母さん!
その砕けた障壁の先。目を丸くして驚いた表情を浮かべる母さんめがけ――――僕は限界まで加速収束した、〝何十万度〟にもなっていそうなプラズマの槍をまっすぐに叩き付けた――――!
閃光。
真っ白な光が僕の視界を覆って、とんでもない熱の放射と衝撃波が空中の僕と悠生を押し飛ばす。
僕を守る波紋が何度も何度もたわんで、その振動はさっきまで母さんが乗っていた金属の骨組みや、その後ろの建物もなにもかもを吹き飛ばして見せた。
きっとこれでも母さんはまだ動ける。
けど、さすがに前みたいに無傷ってことは絶対にない――――!
閃光と熱に目を細める僕はそう確信して、弾かれた先でもう一度仕掛けようとする悠生と目配せした。でも、その時――――。
「――――なるほど、そういうことですか。どうやら〝そちらの貴方〟は、既にただの王とは〝次元の違う相手〟のようですね?」
「え……っ?」
閃光が収まった先。
そこには、前に僕とエリカさんが攻撃したときと同じように傷一つ、ほこり一つついていない母さんが笑いながら浮かんでいて――――。
「チッ……この女、まだなにか〝隠してやがる〟な……?」
「フフ……これは認識を改める必要がありますね? そして鈴太郎――――貴方はそこで〝大人しく〟見ていなさい。ここから始まる〝私とこの男の戦い〟に巻き込まれれば、今の貴方では生き残れませんよ……?」
「っ……!?」
僕の予想も想定も、何もかもを超えて立ち塞がる母さん。
そして、敵の筈の母さんから告げられる、〝戦力外通告〟。
こんなに頑張っても。
絶対にやるんだって……もう逃げないって決意しても、それでも乗り越えられない絶望の壁。
目の前に聳え立つ〝今の現実〟を突きつけられた僕は、ただ手の平を握りしめることしか出来なかったんだ――――。
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