そうだ。
全部……元はといえば、僕があの時逃げ出したから。
僕の犯した罪から。
僕のやってきたことから、逃げ出したから。
あの時、逃げ出さなければ。
それでたとえ、死ぬことになっていたとしても。
六業会のやっていることを止めるために、僕に出来ることをやっていれば。
今こうしている間にも、世界中で〝あの子たち〟と同じ目に遭っている人たちが沢山いるはずなのに。僕は、それを止めるために何もしてこなかった。
僕の力は弱くなってる。
二年前に一人で突破できた母さんの領域を壊せなかったっていうことは、そういうことなんだと思う――――。
なら、やっぱり〝今〟やらなきゃ。
これ以上弱くなって、完全に力が無くなってしまう前に。
あの時逃げ出した僕のやってしまったこと。
全部にちゃんと向き合わなくちゃ。
そして、そんな僕の我が儘に殺し屋マンションのみんなを巻き込んだりはできない。これは弱い僕が引き起こしたこと。
今の僕に出来るかどうか、それはわからないけれど……。
それでも今度こそ母さんと――――僕の過去と向き合わなくちゃいけないんだっ!
「――――ってわけでな。一人でやるなんてアホなこと言ってないで、とりあえずこれでも食って落ち着け」
「え、えええええっ!? なんでっ!? どうしてあの流れから僕の家でチーズフォンデュパーティーすることになってるのっ!? しかももうすっかり準備万端んんんんっっ!?」
「あはっ。悠生ってば、小貫さんのことなら〝なんでもお見通し〟らしいですよ? 大人しくお縄につくと良いですっ!」
「まったく……本当に何を考えてるんですか!? せっかく山田さんも力を貸してくれるって仰っているのに、小貫さん一人でお母様の所に行くだなんて……っ! 馬鹿なんですかっ!?」
「はわわ……っ! で、でもでもぉぉぉぉお……っ!?」
本当にどういうこと!?
〝行きます! 母さんの所へ!(キリッ)〟
って格好良く……というか本当に凄く覚悟して、ありったけの勇気を振り絞って言ったのにっ!?
気付けば僕は、左肩を仏頂面の悠生に。右肩をいつもニコニコの永久さんに。そして両足を怒り心頭のエリカさんに拘束されて、そのまま自分の部屋まで連行されてしまったんだっ!
「ほれ、お前の好きなクソ高いウィンナーだぞ」
「お、美味しそう……っ! ぱくぱく、もぐもぐ……! おいしーっ!?」
「こっちはカリカリのポテトですっ。チーズとの相性もばっちりです!」
「はわーーーっ! んまぁあああいっ!」
「お肉や炭水化物ばかりではいけません……! こちらのブロッコリーも食べて下さい……!」
「あわわ、ありがとうエリカさんっ!」
そう言って、みんなは次々と僕の口の中に美味しいチーズフォンデュ料理を放り込んでくれた。と、とっても美味しい……っ!
熱々のお料理が僕の体をじんわり暖めて。
いつもは一人で寂しい僕の部屋に、みんながいてくれる。
なんで?
どうしてみんなこんなに良くしてくれるの?
もしかしてこれが〝最後の晩餐〟だから?
これが僕のお別れパーティ-なの!?
「俺もあの後ちゃんと調べたんだぞ。チーズフォンデュに何が合うのかとかな」
「こんな時なのでお酒はないんですけど……ジュースとウーロン茶は買ってきましたーっ!」
「実は私……チーズフォンデュは大好きなんです。小貫さんがパーティーしたいって仰ったあの時から、ずっと楽しみにしていて……」
「あー……確かに、エリカの住んでた辺りじゃこういうの食べそうだな」
「はい。よく母が作ってくれて……」
た、楽しい……っ!
前に一人で作って食べたときの何倍も……!
ううん。何百倍も楽しいし、美味しいよぅ……っ!
「う、ううう……っ! みんなありがとう……っ! 〝最後〟にいい思い出が出来たよ……っ!」
「まだそんなこと言ってんのか? どうせ大人しく戻るつもりなんてねぇんだろ?」
「マンションが襲われる前に、こっちから行って〝ボコボコ〟にするってことですよねっ? 小貫さんにはいつもとーってもお世話になってますから、今度は私たちがお返ししますっ! ふんすっ!」
「ええええっ!? 本当に一緒に来てくれるのっ!?」
「私も行きます……っ! 小貫さんのお母様から受けた〝屈辱〟は、まだ返せていませんので……ッ!」
「エリカさんはそっちっ!?」
美味しいお料理を食べながら、悠生も永久さんも、エリカさんも。
みんな僕を励ますようにそう言ってくれた。
僕はそれがとっても嬉しくて。
泣きそうなくらい幸せだった。
「迷惑だなんて思ってねぇよ。俺だって泣き叫んでるお前を引きずってくしな」
「悠生……」
「前に言っただろ? 他の誰がなんと言おうと、俺は〝今のお前〟だから拳を預けられるんだ。お前はお前らしく、いつもみたいに〝助けて〟って言えばいい。何度だって助けてやる」
テーブルを挟んで向かい合う悠生が、そう言って僕に〝穏やかに〟笑ってくれた。
その笑みは、もう僕たちが最初に会ったときの笑顔とは全然違う。
僕のことをちゃんと考えてくれて、そしてとっても信じてくれてる。
そういう笑顔で。
それを見た僕はもう我慢できなくて、ついに泣き出してしまった。
「ごめん……! ごめんよ悠生……っ。助けて欲しい……僕と一緒に来て……っ!」
「ああ……任せろ」
「ゆうせええええぇぇ……っ!」
僕はずっと励まされている。
悠生のその言葉に。
そこから始まった、みんなとの新しい出会いに。
過去と向き合うって決めた僕の周りには、今の僕が出会った友達が一杯いたんだ。
泣きながら食べるチーズフォンデュは、少ししょっぱかった。
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