完結済 短編 現代世界 / 恋愛

乙女心は命がけ

公開日時:2022年3月22日(火) 12:03更新日時:2022年3月22日(火) 12:03
話数:1文字数:3,751
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「ぐぅわぁー。」

ボーン。

「チッ、とかげ男がやられたか。まぁ、よい、次はこうは行かないぞ。ヒーローども。」

不適な笑みを浮かべながら、女郎蜘蛛レディは姿を消した。

「待てっ、女郎蜘蛛レディ。」

「レッド、深追いは危険だ。とかげ男は倒したんだ。ひとまず帰ろう。」

冷静なブルー。

「そうだぜ。それに、腹減っちまったからな。」

食いしん坊のイエロー。

「お前はいつもそればっかりだな。けど、たしかに休息は必要だ。ひとまず基地へ戻ろう。」

リーダー気質のレッド。

突然現れた怪人たちから

この3人が世界を守っていた。



「スコーピオンデビル様、申し訳ございません。」

「女郎蜘蛛レディ、失敗は許さぬと言ったはずだピオン?」

「申し訳ございません。途中で邪魔が入りまして。」

「レッドとブルーのことかピオン?」

「そうです。イエローが一人でいるときを狙ったのですが、あいつらすぐに集まってきまして。」

「それで、手応えはどうピオン?」

「正直、なんとも。」

「そうか、ならば次はどの作戦で行くピオン?」

「それならば、すでに考えております。地獄のプレゼント作戦などどうでしょうか?」

「なるほど、あれを使うかピオン。あれならばイチコロだろうなピオン。」

「ふっふっふ、はっはっは。」

「ピッピッピ、ピッピッピ。」

「あのー、盛り上がってるところすみません。」

「なんだ?とかげ男。怪我はもう良いのかピオン?」

「はい。回復キットでだいぶ体は楽になりました。」

「すまなかったな、とかげ男、私がついておきながら。」

「いえ、私こそ女郎蜘蛛レディ様のお力になれず申し訳ございません。」

「謝ることはない。ただ、本当に申し訳ないが、次も手を貸してくれぬか?」

「ええ、もちろんです。ただ、失礼ながら、私からも作戦について一言よろしいでしょうか?」

「なんだ、言ってみろ。」

「地獄のプレゼントってなんですか?普通のプレゼントではダメなのですか?」

「な、なにを言っている?普通のプレゼント?そんなもので太刀打ちできるわけがないだろ。」

「そうだピオン。とかげ男。お前はまだ、地獄のプレゼントの恐ろしさを知らないから、そんなことが言えるんだピオン。」

「あのー、この際はっきり言わせてもらいますが、怒らないでくださいね。」

「あぁ、もちろんだ。なんでも言ってみろ。」

「そうだピオン。なんでも言うピオン。」

「では、お言葉に甘えて。」

一呼吸おいて、とかげ男は言った。

「あんたらはなにもわかってない。」

スコーピオンデビルと女郎蜘蛛レディは、顔を見合わせて目を丸くした。

とかげ男はかまわず、続ける。

「好きな男へのアプローチで、プレゼントはまぁわかる。けど、地獄のプレゼントはないだろ。あんな、グロテスクで気色の悪いもの。あんなんもらって誰が喜ぶねん。怪人の俺でもやだわ。」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。あれは、グロテスクで気色が悪いのか?」

「いや、その認識もなかったんかい。それはヤバイで。ほんま。」

「とかげ男、少し口の聞き方に気をつけろピオン。」

「いや、こんな機会ないんで、とことん言わせてもらいます。」

急に真剣な表情に変わったとかげ男の気迫に、

スコーピオンデビルはたじろぐ。

「な、なにを言うというんだピオン。ちょ、ちょっと待ってくれ。心の準備がまだピオン。」

「ピオン、ピオンうるさいねん。あと、笑い方変だからやめたほうがいいっすよ。」

「キ、キサマ、なにを言っているかわかっているのかピオ、ゴホンッ。」

「やっぱり、気にしてるじゃないですか。」

「キサマー。女郎蜘蛛レディ、こいつの口を聞けなくしてやれ。」

「私も昔から思っていました。」

「なっ、なにを言っておる?」

「ピオン、ピオンって、キャラ作りエグいな。必死だなって、昔から思っていました。申し訳ございません。」


スコーピオンデビルは、座っていたいかにも偉そうな椅子から降り、部屋の隅で体育座りしている。

「とかげ男、プレゼントの話だが、もう少し詳しく聞かせてくれるか?」

「ええ、もちろん。まず、確認ですが、女郎蜘蛛レディ様はイエローと付き合いたいんですよね?」

「え?いや、付き合いたいって言うか~、それはまだ早いって言うか~。」

「キャラ、崩壊してますよ。」

「え?あ、ゴホンッ。イエローを我が手中に収めてやろう。」

「あー、めんどくさいんで、付き合いたいってことで良いですね?」

「仕方ない。お前がそこまではいうなら、そういうことにしといてやろう。」

「付き合うためには、まず、相手と親密になる必要があります。」

「ふっふっふ。舐めるでないぞ。そんなことは私もわかっている。その点は問題ない。これまで、何度も顔を合わせ、触れあってきた。」

「そのとき、イエローはどんな顔をしてましたか?」

「顔?熱い眼差しを向けていたと思うぞ。」

「なんか言ってましたか?」

「絶対に逃がさないって。もう~、なにを聞いてんのよ。」

「顔を赤くしている意味がわかりません。」

「ふっ、とかげ男もまだまだ経験が浅いな。絶対に逃がさない。つまり、一生一緒にいようってことだろ?これは、もう、言わせないでよ。告白ってやつでしょ。もう、バカッ。」

「あなたが上司でなければ、軽くビンタしてますよ。っていうか、なんでイエローなんですか?リーダーシップのあるレッドやクールなブルーならまだわかります。でも、イエロー、あいつはただの食いしん坊のデブですよ。」

「だ、だって、優しかったんだもん。」

「合格です。女郎蜘蛛レディ様が面食いでなくて安心しました。」

「さっきから、偉そうに言っているが、お前に何がわかるんだ?」

「わかります。はっきり言って、脈なしです。」

「脈なし?」

「付き合える可能性がゼロってことです。」

「ば、バカな。そんなはずはない。だって、絶対に逃がさないって。」

「珍しいケースですが、それは言葉そのままの意味です。」

「告白ではなかったと言うのか?」

「えぇ、間違いなく。」

「ど、どうすればいいのだ?頼む教えてくれ。」

「わかりました。私に任せてください。」



とかげ男、女郎蜘蛛レディは怪人ビルの4階、会議室へと移動した。

とかげ男がホワイトボードの前に立ち、女郎蜘蛛レディが席へと座る。

少し離れたところにスコーピオンデビルも座っている。

「えー、大事なことは3つです。」

そう言いながら、とかげ男はホワイトボードに

『男を落とすための3ポイント』

と書き込む。

「3つ?たった3つでいいのか?」

「そうです。この3つさえ押さえれば、イエローもイチコロです。」

「なるほど。詳しく聞かせてくれ。」

「わかりました。その3つとは、」

『①清潔感②ギャップ③気遣い』

「これです。」

ホワイトボードに書かれた3つのポイントを指差す。

「せいけつかん?ぎゃっぷ?きづかい?」

女郎蜘蛛レディはポカンとした顔をしている。

「大丈夫です。一つずつ説明します。まず、清潔感です。これは、主に見た目の話です。」

「見た目?それなら、問題ないだろう。この蜘蛛の顔を型どったマスク、蜘蛛の糸をイメージしたドレス。完璧ではないか。」

「0点です。清潔感の欠片もありません。清潔感とは真逆です。なんですか?そのほぼ裸体のコスチュームは?男はそういうのが好きですけど、付き合うってなったら話は別です。」

「そ、そういうものなのか。」

女郎蜘蛛レディは素早くメモを取る。

スコーピオンデビルもメモを取るのに必死だ。

「まず、肌の露出は最低限にしてください。上はラフなTシャツ、下はスカートがいいと思います。露出は押さえつつも、体のラインは少し出るくらいがちょうどいいです。」

「それでは、動きにくくて戦いにならないではないか。」

「まだそんなことを言っているんですか?はっきり言いますよ。戦いなんてもう、どうでもいいんです。女郎蜘蛛レディ様がイエローと付き合う。それさえ叶えば、世界征服なんてどうでもいいんです。」

「お前、そこまで私のことを。だ、だが、それでは、スコーピオンデビル様の野望が。」

「女郎蜘蛛レディよ、私のことは気にするな。自分の幸せだけを考えればよい。」

「わかりました。このご恩は決して忘れません。頑張ります。」

「では、次にキャップです。女郎蜘蛛レディ様の場合、強い女性というイメージを持たれていることでしょう。」

「当然だ。」

「そこで、ギャップを出すために、優しさを全面に出していきましょう。」

「この私がそんなこと出来るわけ…、いや、教えてくれ。」

「まず、強めの言葉はやめましょう。キサマ、お前、血祭り、この辺の言葉はNGです。」

「わ、わかった。努力する。」

「そして、ここで先程言ったプレゼントを使います。」

「プレゼントで優しさを?どうやって?」

「ハンカチです。」

「ハンカチ?」

「そうです。相手はヒーロー。怪我をすることも少なくないでしょう。そこで、傷の手当にと、ハンカチをプレゼントします。ハンカチは高価すぎず、重いと思われることもありません。しかも、日頃見るたびに女郎蜘蛛レディ様のことを思い出すことでしょう。」

「天才か。」

「さらには、次の気遣いのアピールにもなります。」

「神か。」

それからも、とかげ男による恋愛講座は

何日も続いた。



「最近、怪人たち全然現れないな。」

「油断するなよ、イエロー。」

「そうだぞ。奴ら、今頃どんな作戦を立てているかわからんぞ。」

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