Gunner Girl(元男) , Gain Gain

キノキアタキ
キノキアタキ

プロローグ

第1話

公開日時: 2020年9月10日(木) 22:55
更新日時: 2020年9月11日(金) 16:37
文字数:3,675

 その男は全てを犠牲にして突き進み続けた。


「お前は確かに腕は立つが、協調性が無さ過ぎる……」


 それと似たような言葉を投げかけられパーティーから追放されるのにも慣れた頃の事だった。

 技術を盗む為にあらゆる剣術学校へと通い、剣技を極めた。

 男はついにたった一人でレベル70へと到達し、Sランクパーティー5人でも踏破できなかったマジュウダンジョンを二週間掛けて攻略した。


「やったぞ……俺は遂にやったんだ」


 その道のりは長かった。

 このマジュウダンジョンを攻略する為に男は情報屋から情報を高く買い、ポーションを買占め、更に嘘の情報を流して俺が攻略している間に他のパーティーが来ない様に仕向ける所までやった。


「マジュウダンジョンという名に相応しい魔獣だったな……」


 男はそのダンジョンの主であるキマイラの素材を回収しながらそう呟く。

 倒す為にありとあらゆる毒を使い、ジワリジワリと体力奪ってようやく倒したのだ。自然治癒能力の高いこのキマイラを倒す為には毒が必須で、Sランクパーティーが敗走したのはその情報を持っておらず回復し続けられた為だ。


 男がそのダンジョンへ挑んだのには理由がある。

 とある情報筋から、このマジュウダンジョンには妄装具イマジナが眠っているという情報だ。

 妄装具イマジナとは長い年月をかけて特殊な力と自我を持った装備で、願いを叶えるという噂がある。


「この奥にあるんだな……妄装具イマジナが……」


 男は緊張した面持ちでキマイラとの死闘を繰り広げた場所の奥へと進んでいく。

 道は狭くなった所で、明かりを点けると最奥の間に台座とそこに眠る妄装具イマジナを見つけた。


「これは銃か……?これが妄装具イマジナ?」


 魔法を込めた弾丸が4発しか装填できない古びた一丁の銃がそこにはあった。

 男はその銃を手に取り心底ガッカリした様子だ。


「あの情報屋デマ流しやがったな……」

 

 男と情報屋が交渉した際に最初は金貨100枚という値段だったのに、出し渋ると金貨60枚に値下げするという怪しい点はあった。


 男が手に取った銃はかなりの旧式で今では魔石をはめ込み、魔石に込められた魔力が尽きるまで撃ち続けられる物が主流なのにこれは……ガラクタと謂わざるおえない。


『握ったな……このオレを……』


 突如として声が最奥の間に響いた。

 男はまさか、という顔をしながらその古びた銃の方を見る。


「お前が喋ってるのか?」

『他に誰がいる。それよりも握ったなオレを……契約は成立だ』


 その銃が何を言っているのかは分からないが、男はとりあえず本物の妄装具イマジナであるという事に安堵した。


「契約って何だ?俺に何かさせるつもりか?その前に俺の願いを叶えて貰うぞ」


 男はその願いの為だけに8年という年月をかけ、ここまで辿り着いたのだ。


『いや願いを叶えるのはお前だ。俺の願いを聞け!』

「えぇ……」


 聞いていた話と違う展開に男は嫌な予感がしつつもその妄装具イマジナの話を聞いてみる。


「それで、願いって何だ?それを叶えれば俺の願いも叶えてくれるとか?」



『極上の百合の花が見たい!!!!!!!』


「百合の花か……確か常に暑いガレスという国では年中咲いていると聞く」


『そうじゃない!!!! 女の子と女の子がイチャイチャしている所が見たいの!!!!』


 男は理解できず、銃を台座に置いて去ろうとするが何故か手から離れない。


『逃がさんぞ……オレが長年貯めに貯めたこの力を使ってお前を女にして極上の百合の花を見せて貰うまではな!!!』

「何を言っているんだお前は! 一度落ち着くんだ。全てが間違っている!!!

 俺を女にした所でお前の望む光景は手に入らないぞ!!!」


『いいや……オレに貯めこまれた力を使えば、お前を一度ころ……体だけを女に変換し魂だけを移し替える事など容易い!!!』

「そんな力があるなら俺の願いを叶えてくれたっていいだろ!!! 

 というかまじで落ち着け!!! そんなの絶対許されない、あと殺すって言いかけただろ!! そっちの百合の花が見たいのならば持ち主は女を選べ!!」


『いいや駄目だ……駄目だった。オレの持ち主は……』

「それ長くなりそう?」

『そうでもない』


 それなら……、と男は銃の話を聞く事にする。


『コホン……オレの持ち主はイリーニャはそれはそれは美少女だった。

 そしてそのイリーニャには恋人がいた。

 アーシェという女でそれはそれは美少女だった。

 二人は理想の百合の花を咲かせて幸せに暮らしていた。

 だけどあの日が訪れた……』


「長い感じしてきてるけど」


『黙ってきけ。あの日が訪れた――魔王復活の日だ。それによりイリーニャとアーシェも冒険者だったのもあり、勇者と共に旅に出たんだ。およそ4年という旅路の果てに魔王を倒した』


「おお~、終わり?じゃあな」


『こっからだ! なんとな……アーシェの奴がその旅の終わりに勇者に寝取られてしまったんだ……ヴぅうう……イリーニャは毎晩泣いていた。幼き頃からずっと一緒だったアーシェをたった4年で寝取った勇者を恨む事もできず、ただ泣きながらたった一人で生きて、そして……うっ……この場所が出来る前にあった鵺の胃袋という崖から飛び降りたのだ』


 銃が泣きながら持ち主の最後を伝えると流石に同情した様子を男は見せる。

 男にはほんの少しだけではあるが重なる部分があった。


「そ、そうか……お前の持ち主のイリーニャの無念については分かった。だがそれと俺を女にするというのは全く関係ないよな?」


『いいや、お前を完全な女にすれば寝取られる事もなく咲き続ける百合の花への一歩を踏み出せるんだ!!!』


「待て待て! それは百合と言えるのか?あまりにも邪道。

 その道の者が激怒してもおかしくないぞ!!

 まさにこの世の摂理への反逆行為!!

 そして俺が寝取られなくても相手が寝取られる可能性が残るだろう!!

 更に俺はモテない! そもそも相手を見つける事すらできんぞ!!!」


『知るか! ぐおおおおおぉおおおおおおもう止まらん!!! 

 安心しろ全ての力を使い、お前の毛1本も残さず新たな体を作り出す!!

 これが例え、神への反逆であっても為して見せる!!!

 そしてお前は探すんだ絶対に寝取られない女の子を探して見せるんだ!!!』


 男が手に持っていた古びた銃が光を放ち、最奥の間からの光はマジュウダンジョンの外まで溢れ出し周囲一帯を照らしていく。

 その光は近隣にある町からも見えるほどに明るく、それを異常事態と判断したギルドは当然動き始めた。



 しばらく気を失った後に男は……いや元男は目を覚ました。


「女になっでるぅうううううう!!! どうしてだよぉおおおおおおおおおお!!!」


 願いを叶える為にここまできたのに妄装具イマジナのせいで女になってしまった。そして何故か全裸になっている。


「待て……俺のアイテムどこに行った……?」


 男は急いでアイテム収納ができる魔法の袋を探すが跡形もなく消えている。その魔法の袋は大容量で金貨3000枚以上の価値があり、更に中には8年間貯めた貴重なアイテムや装備はもちろん思い出の品に至るまで全てが入っていた。


「終わった……」


 元男が膝から崩れ落ちようとすると、手に持っていた忌々しい銃から現れたクッションのような物が受け止めた。


『おいおい、大事な百合の花を咲かせる体に傷が付いたらどうする』

「お前何て事してくれんだよ!!!! 俺の8年間がぁあああああ!!! いやこれ! おまっ……ゲホゲホッ……まじでどっうすんだよ!!!!」


『うむ。見た目も美しく可憐で愛らしいが声も可愛いな』

「今すぐ戻してくれ……頼む……」

『無理だな。かなりの力を消耗したからあと500年は力を貯めないと』


 心の底からの願いは却下され、元男は更にうな垂れる。


『というか誰か来るぞ』

「さっきの光……もしかして外まで出てたのか?

 っていうかまずい! こっちは全裸なんだぞ!!!」


 元男は周りに何かないか、探すが何も残っていない。

 このダンジョンを攻略する為に買った防具も何もかもだ。


『よし! オレに任せろ!!!』


 銃がそう言うと、何もない所から突如として服が一式現れた。


「お前まさかアイテム収納ができるのか? やるじゃないか!

 ――って全部女物じゃねぇか!!! どうすんだこれ!!」

『オレがチョイスした。全部身に着けないのであれば没収する。

 あ~もうすぐ誰かここまで来ちゃうぞ~、君結構寝てたからな~~』


 元男は銃に殺意を覚えながらも銃が用意した服を着て行く。


「このベルトは何だ? これはどこに着けるんだ?こっちのこれはどうすんだ?」

『あーそれは首に着けるチョーカーで、そっちはガーターベルトだな。

 その紐は下着の下に通すといいぞ。

 それでそっちはレッグホルスター、オレの特等席ね。

 そのホルスターに俺以外の銃入れたらガチで絶交だから』


 元男はイライラしながらも裸を見られ、不審者として誰かに見つかるよりは……と渋々言われた通りに用意された物を全て身に着けた。


『それじゃ名前を決めるか。飛び切り可愛い名前を考えよう』

「何言ってる。俺には――」

『よし、今日から君の名前はユリーニャだ。決まり!!!』


 名乗るのを遮られ元男は明らかに不満そうな顔をするが、この姿で知人に元の名前を口にする勇気はないと仕方なく受け入れる事になってしまった。

ゆるして

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