一夜明けて目を覚ました時、俺は昨日の出来事が夢であってくれと願いながら体を起こした。
『よぉ相棒……いやユリーニャ、おはよう』
「その名前何とかならないか……その直球というか安直というか」
『えぇ~じゃあイリーニャって名前継いじゃう?』
「ユリーニャよりは……ってそんな勝手に継いでいいわけないだろ」
自分の体を見てみると昨日このスクラップ銃が着ろと強要してきた服のままだ。
昨日は散々だった……。
全てのモンスターが倒された状態のマジュウダンジョンに一人でいた俺は、ギルドの人間に連れて行かれて状況説明を要求された。
どう話そうか困り果てた結果色々な嘘を並べた。
その中からたまたま通りがかり入ってしまったという嘘がまかり通ってしまったわけだが、オンボロの銃を持っているだけの少女が一人でマジュウダンジョンを踏破できるわけないというのがギルドの人間が出した答えだ。
『なぁ、何難しい顔してるんだ?可愛い顔が台無しだぜ?』
「もう二度と喋らないでくれるか?」
全く……、こいつのせいで自分の身分を証明する事もできない。
魔法の袋に冒険者としての証も無くさない様に入れておいたのだ。
つまり、今の俺はアイテムだけでなく冒険者としての実績まで失ってしまった。
「残っているのはレベルと経験と剣技だけか……、とりあえず手頃な剣を手に入れないとな」
『あ~~~~~』
「何だ?二度と喋るなって言ったろ」
不快な銃め……、これからどうすればいいんだ。
いっそ、数少ない知人にだけ明かして助力を仰ぐか……?
『いや、その……体も新しく作ったから……レベルも1になってるよ』
「そうか……」
『ちなみに契約した時点で職業も<ガンナー>で固定だから、剣はあくまで補助でしか使えない』
俺は驚愕の事実を知った後に無言で宿の窓を開け、窓枠に足を掛けた。
3階だし、まぁ頭から行けば逝けるだろう。
『ストォオオオオオオオオップ!!!! 待て待て待て待て!
オレの力を使えばすぐに強くなれる。いや以前とは比べ物にならない力を手に入れる事もできる』
「レベル70まで8年掛かったんだぞ!!!」
俺はとりあえずベッドに座り、このポンコツゴミクズ銃の話を聞く事にした。
『いいか?オレの特性の基本は<得る>、そしてそれを<増す>だ!!
オレを使えば力を得て、そしてその力を更に増す事ができる。
まずはオレを磨け! 整備する道具はオレが出す。
そして、シリンダーをよく見ろ。
普通の弾丸や魔力弾を込めるのではなくそこには属性弾を装填するんだ』
渋々ではあるが、話を聞きながら銃を磨いてみると驚くほどに汚れや錆が消え新品のようになっていく。何だこの便利アイテムは……これを売ればいくらになるんだ……
『あ~~~~そこそこ。最高だよユリーニャちゃん』
「まじでやめろ。頼むから本当に気色悪いから」
「それで属性弾ってなんだ?結局4発しか装填できないのは変わりないだろ?」
『チッチッチ、駄目だなぁユリーニャちゃん。
オレが特別な武器って忘れてないかい?
装填する属性を選んで組み合わせる事ができるんだよ。
そして属性弾を組み合わせるだけで弾丸を消費する事なく攻撃ができる』
なるほど、上限が4種ではあるが組み合わせによって色々な属性攻撃ができるわけか……上手く使う事ができれば強力かもしれない。
「よし、それじゃあ早速その属性弾って奴をくれ! 組み合わせもテストしてみたいな」
『……』
「お前……嘘だよな?まさかありませんとか言わないよな?」
『……それよりも見て貰いたい物がある、きっと見ればやる気も出るに違いない。あと属性弾は一発もない……』
何を見せたいって言うんだ?あとボソッと何か聞こえた気がするが気のせいだよな?
多分中におっさんが詰まっていると思われる銃が出したのは姿見だ。これほどの大きさを俺も始めて見る。
映し出された自分は昨日までの自分と違いすぎて頭がどうにかなってしまいそうだ、どういう意図かは分からないが現実を突きつけられてしまった。
「これもさっきの整備するアイテムみたいに特殊な力が?」
『いや、これはただの姿見。
まじでめっちゃ可愛いわユリーニャちゃん。
最高だわ、ほらここに更に美少女を足して百合百合している所を想像してごらん?
やる気出てくるでしょ?』
もういいか、と俺は再度窓を開けて窓枠に足を掛ける。
『待って待って! っていうか飛び降りはまじでやめて!!!』
「あぁ、悪い。お前の持ち主は飛び降りて亡くなったんだったな……」
まじで飛び降りていいという気分ではあったが、一応謝っておく。
『いやまぁ普通に鵺の胃袋に飛び降りた後も死なずに生還したけどね。
だって魔王とも戦った英雄よ?その程度で死ぬわけないじゃん!』
「おい、お前完全にイリーニャさんは飛び降りて亡くなったみたいな空気出してたじゃん!!」
ちなみにイリーニャさんは生還する際にこの銃だけを鵺の胃袋に捨てて徒歩で町へと戻ったらしい。
『というわけでだ。属性弾は作るのが大変なので通常弾から作る事にしよう』
「4発しか装填できないのにか?」
『通常弾という名前ではあるが、特殊な力を持たせる事ができる。
属性弾は魔法と物理ダメージを与えれる。
通常弾は物理ダメージだけだが特殊な効果を付与できるって感じだな
属性弾と使って通常弾はちゃんと射出して消費するから数が必要だ』
特殊な効果次第だが、こちらも興味深いな……
『まぁややこしい事は抜きにして早速簡単に作れる奴を量産しようぜ。
とりあえずあるだけ薬莢を出すぜ!!』
ジャラジャラと音を立てながら空の薬莢が溢れてくる―――って多すぎるわ! 材料が分からんが、こんなに作れるわけがない。
「いやこれ一発一発作るのか?」
『簡単だから安心しろ!!!
まずはその空の薬莢を胸の谷間に入れるんだ!!』
俺は窓を開け、思いっきり……力の限り銃を放り投げようとするが手から離れない。こいつは多分この世にあってはいけない物だ。厳重に封印し、二度と封印が解かれない場所に閉じ込めておいた方がいい。
『待て待て待て待て!
通常弾を作る為に必要な工程なんだ!
そのままじっとしていればオレがユリーニャちゃんの魔力から通常弾を生成する』
「お前の何もかもが信用できない……」
『本当だから! 目を閉じてればすぐ終わるから! ね?ね?』
俺は溜め息を吐きながらも、ボタンを外して行き胸元に薬莢を入れる。
『うぉおおお!!! 脱ぐ所がセクシーだよ!!』
強めに銃をテーブルに叩き付ける。
あまりにも地獄すぎてもう疲れてきてしまった。
『よし、出来たぜ!!
通常弾の中でも持ち主の魔力だけで生成できるゲイン弾だ!
何とこれでトドメを刺すと得られる経験値が増加するんだ!』
「以外と悪くないな……、それじゃあ一気に作りたいから服の中に薬莢を流し込むか」
あっという間にできるんだな……、でも流石に一発ずつはあまりにも時間がかかる。
『えぇ~一発一発丁寧に恥じらいを持ってしっかり作って貰いたいんだが……』
「という事はできるんだな?というか胸に挟む意味は全くもってなかったんだな?」
俺はもう一度テーブルに叩き付けようと大きく振りかぶる。
『ゲイン弾はランクが低いから雑でも作れるだけで、胸の近くに持って行ってくれてる方が品質がよくなるんだよ!!』
「つまり挟む必要はないよな?ないんだよな?」
その後、ゲイン弾をとりあえず量産する中でゲイン弾であれば薬莢に触れていれば作れるという事とこいつの話を絶対信用してはいけないという事が分かった。
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