「杏沙! 一葉! 状況は?」
現場の森に到着し、先に着いていた二人に状況を確認する。
「あの藁みたいなやつが悪魔らしいんだけど、ずっと浮いてるだけで何もしかけてこないのよ」
「なんだそれ?」
状況がうまくつかめず、自分の目で確かめると、
「なんだよ……あれは……!」
目の前にあるのは、上下を紐状なもので縛られた藁そのものであった。
大きさは大人の男くらい。中に何かがあるようだ。
それを包んでいる状態のため、中央付近が膨らんでいる。
この見た目、どこかで見たような……?
そんなことを考えているうちに、ソニアが攻撃をしかける。
「……一撃で終わらせてラーメン食べる」
もしかしたら相手はまだ覚醒前なのか? これならソニアでなくても一撃だろう。
そんな風に思っていたが、事態は思わぬ方向に倒れ込む。
「このときを待っていたナットゥ!」
「……⁉」
その瞬間、藁がしゃべりだしたと同時に、中身が露わになる。
あれは……納豆だ!
藁の内側から目と口が生えてきて、向かってくるソニアに対して、中にある豆を飛ばして反撃を仕掛ける。
「……ンッ!」
間一髪のところで回避して距離をとる。
「ちっ! 殺し損なったか! オレの名前はムルムル・ナットゥ‼ 幼女戦隊のおこちゃまどもをネバネバのグッチョングッチョンにしてやるナットゥ!」
「前回は豆腐で、今回は納豆かよ……。今の悪魔界は食べ物が流行ってんの? しかも大豆食品。次は豆乳ですか? イソフラボンですか?」
「黙れナットゥ! そうやって吠え面をかけるのも今のうちナットゥ。お仲間を見てみるがいいナットゥ」
「なにっ⁉」
杏沙と一葉の方を見てみるが、二人とも何ともない様子。
「新斗くん! ソニアさんが……!」
「ソニア? ……あっ⁉」
ソニアの方を見てみると、うずくまって苦しそうにしている。
「ソニア! 大丈夫か⁉」
「ネバネバが……」
「ネバネバ?」
ソニアの身体を見てみると、ムルムル・ナットゥが攻撃をしかけてきたときに少し当たっていたのか、納豆特有のネバネバが身体の側面にへばりついていた。
「おい、それくらいでどうしたってんだよ? 別に毒とかじゃないんだろ?」
「臭い……臭くて苦しい……ネバネバいや!」
すると、ネバネバがどんどんソニアの身体中に広がっていき、
「アァーーーーー!」
突然苦しみだした。
「だ、大丈夫か?」
「私……ネバネバ苦手。それにこの臭いもダメ……。生理的に……無理」
「外国人が納豆を目の前にしたときの特有の反応⁉」
「ナットゥットゥットゥ! これでもくらえ!」
一瞬の隙をついて、納豆の粒がソニアに直撃。
近くの木まで飛ばされてしまった。
そして、そのネバネバの粘り気が強すぎるのか、まるで縄のようにソニアを木へと縛りつける。
「……ぐっ……」
「ソニア!」
「お前らよそ見してていいのか? ナットゥウウウウウ!」
「うおっ……!」
さっきのソニアと同じように納豆の粒が俺たちを襲い、それぞれが木に縛り付けられる。
「くっ、身体が動かない……!」「なによこれ⁉」「ネバネバが振りほどけません……!」
いきなりのピンチ。身動きが取れないため太刀打ちも困難。
「俺のネバネバはどんなものよりもしなやかで、強力だナットゥ! くらえ!」
納豆のネバネバをムチのように扱い、俺たち4人を攻撃。
「「「「うわぁあああああああ‼‼‼」」」」
「ナットゥットゥットゥ! 少しは骨のあるやつらかと思ったが、がっかりだナットゥ。さっさと殺してやるナットゥ。まずは……お前だ。お前、俺の大事な大事な相棒たちを臭いと言ったな?」
その言葉で矛先がソニアに向いたことが分かった。
「やめろぉおおお!」
バシッ! バシッ! バシッ! バシッ!
俺の叫びはむなしく、ムルムル・ナットゥのネバネバのムチが次々とソニアを痛めつける。
「ぐはっ…! ぐっ……! くぁっ……!」
何もできずただただ攻撃を受け続けるソニア。
何もできずただ見ていることしかできない俺。
心の中で自分を責める。
どうして俺はいつも肝心なときにこんなに使えねぇんだよっ……!
強くなりたい……強くなりたい……強くなりたいっ……!
仲間じゃなくても、知らない人でも、俺のことを嫌いな人でも、邪険にされようが関係ねぇ!
俺は……目の前で人が傷付けられるのなんて見たくない!
見たくないっ!
俺はヒーロー……。
今は小さい幼女だとしても俺はヒーローなんだ。
傷付けられたり、困ってる人がいたら必ず助ける!
「だってそれが……それが……
俺の正義だからだぁああああああああああああああああああああああ‼‼‼‼‼‼‼‼‼」
その瞬間、心の中に大きな炎が燃え盛るのを感じた。
そして、その炎が身体の奥から溢れ出し、全身を包み込む。
「ナットゥ⁉」
「ねぇダピル! 新斗どうしちゃったのよ⁉」
「新斗くんが炎に……!」
「まさかあれは……⁉」
目の前の炎が段々開かれていく。
なんだこの力は……⁉
力が次々と沸き起こってくる……!
今までのダメージも嘘のように消えてるし!
でも、なんか俺の身体……全体的にさらに小さくなってね?
さっきまで小学校中学年くらいの姿だったのに、今は幼稚園児くらいの見た目になっている気がする。
「やっぱりダピ!」
「何がやっぱりなのよ⁉」
「あれは……〈YOJO・スーパーノヴァ〉ダピ!」
「いったいなんなんですか、それは……⁉」
「実はYOJOパワーを用いた変身にはいくつか段階があると聞いたことがあるピ。しかし、それには膨大なYOJOパワーと果てしない正義の心が必要なんダピ。新斗はもともと膨大なYOJOパワーを持っていたけど、最近の仕事という名の鍛錬のおかげで、さらにその力を強くしていた。そしてまさに今、仲間をこれ以上傷付けられたくない、守りたいという正義の心が爆発したことにより、YOJO・スーパーノヴァへの扉を開き、さらにYOJOパワーを圧縮させることであのような姿に進化したんダピ!」
「そうか……。なんかみんなを利用したみたいになってごめんな」
「心なしかすごく爽やかになってるんですけど⁉」
「それも進化のおかげダピ」
「そんな効果もあるんですね……」
「俺はあの納豆野郎を倒してくる。ここで待っていてくれ」
そして、瞬きを終える前にムルムル・ナットゥの目の前へ。
「ナットゥ⁉ だが、いくら強くなったところで、俺に近づいたらこの銀髪がどうなっても知らないナットゥ!」
「その心配はない。お前はもう……空っぽだ」
「からっ……ん⁉」
「モグモグモグ……案外うまいな……こんだけ食べれば美肌効果も抜群だろ」
相手の気付かぬうちに、藁の中にあった納豆をすべて食す。
「貴様……よくも俺の相棒たちを……!」
「燃えろ」
その言葉を合図に、地面から炎の竜巻を生じさせ、
「ナットゥウウウウウウウウウウウウウウ‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼」
藁だけとなった悪魔はそのまま消し炭となり、完全に消滅したのだった。
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