「大丈夫か、ソニア! ソニア!」
「……んん……」
「気付いたか⁉」
「メンマ?」
「俺は新斗だ。3文字しか合ってないぞ……」
「よかった……。目を覚ましてくれて」
「本当によかったです……」
「あのネバネバは……?」
まだ状況がつかめていないのか、俺の腕の中から立ち上がり、辺りを見渡す。
みんなは既に変身を解いた状態。
状況が未だにつかめていないソニアを気遣い、杏沙が答える。
「あの納豆悪魔なら新斗が倒したわよ。あなた、あと少しで殺されるところだったのよ?」
「殺され……。そういえば、何か温かいものに包まれていた気がする。それも新斗?」
「まぁ、お前を守るために、炎をふんだんに使ったしな。もしかしたらそうかも————」
「……んッ」
しゃべっていたはずの口が、何かとてつもなく柔らかいものに塞がれてしまった。
目の前には、目をつぶり、長い銀色のまつ毛をたずさえた女の子。
ほのかに甘くていい匂いも……。
「……ん⁉⁉⁉⁉⁉⁉⁉⁉⁉⁉⁉⁉⁉⁉」
そして、ようやく自分がソニアにキスをされていることに気付いた。
「ちょっ⁉ アンタたち何してるのよ‼‼‼」「きゃっ……!」
杏沙と一葉が、今ままで一度も見たことがないような驚愕の顔をしている。
って、そんな呑気にしてる場合じゃねぇ!
急いでソニアの唇から離れるが、
「ダメ」
「んッ⁉ ファッ⁉⁉⁉⁉⁉」
今度は舌を絡め始めてきた。
ものすごい絶技で俺の舌を嘗め回すソニア。
あまりの突然の出来事になすがままの俺。
お願い、優しくして……! 初めてなの……!
すると、杏沙の我慢が限界に達し、
「い・い・か・げ・ん・に・し・ろ!」
バコンッ!
なぜが俺だけグーパンチをされるが、ようやくソニアから解放された。
「アンタたち……! なんでこんな……! ソニア! あんた新斗のこと嫌ってたんじゃないの⁉」
「別に嫌ってない。私より弱い人間に興味がなかっただけ。新斗は強い。……そして意外にハンサム……ポッ」
急に頬を赤らめるソニア。
自分がしてしまった行いを今さらになって恥ずかしがってるようだ。
最初の出会いからは想像もつかないほど、普通の女の子の反応。
しかし、その反応も長くは続かず、いつもの無表情に戻り、
「私はもう行く。別の平行世界のラーメンが食べたくなった」
「行くって……もうここには戻ってこないのか?」
すかさず俺が質問する。
「ううん。また戻る。だって、ここには新斗がいるから」
「オフウ……」
「またね、新斗」
ワープゲート的なものが現れ、その中に飛び込んでいくソニア。
それと同時にワープゲートが閉じられ、すぐさま消えてしまった。
見た目はクールな奴だけど、思いのほか積極的で……可愛かったな……。
それに、新しく手に入れたあの力。YOJO・スーパーノヴァだっけ?
力はものすごかったけど、疲労感が半端ねぇ……。
このままぶっ倒れそうな勢いだ。
ふと自分の唇を指で触れる。
柔らかかったなぁ……。
あれが人生で初めてのキスだった。
いやぁ、激しかった……あのクールさから考えられないほど情熱的……。
ファーストキスは蜜の味ってどこかで聞いたことがあるけど、僕の場合は……濃厚な味噌の味でした……。
まずい、思わずにやけてしまう……!
そんな風に余韻に浸る俺をどこか殺伐とした目でみる女性が一人。
「あ~ら~とぉおおおおお⁉」
「ど、どうしたの杏沙さん、そんなに心を荒立てて? もう悪魔は倒したよ……?」
「なんでソニアとキスしてあんなに嬉しそうなのよ⁉」
「嬉しいというか、初めての経験で戸惑ってるというか……」
「もう理由なんてなんでもいい! お前を処す! 確実に処す!」
「や、やめてくれ……!」
「問答無用ぉおおおおおおお‼」
「理不尽だぁああああああああああああああ‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼」
季節はもうすぐ秋。
金木犀の香りが鼻孔をくすぐり始める頃。
日差しはまだまだ元気いっぱい。
だけど、時折爽やかで涼しい風が優しく身を包む。
まるでその風に運ばれていくかのように、一人の男の断末魔がこだまするのであった。
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