「キャー!」
「なんだよ! あれは!」
「化け物だ! 逃げろ!!」
「おい、押すなよ!」
「ママぁ~! 怖いよぉ!!」
穏やかだったはずの街中で、突然、いたるところから恐怖に怯える叫び声が響き渡る。
何かを恐れて逃げ惑う人々。
その勢いに押されてしまい、倒れ込んでしまう者。
耐えかねて泣き叫ぶ子供。
辺りは混沌と騒然が入り乱れた地獄絵図。
すると、人々が逃げてくる方から邪悪な影が現れる。
「ボォォォォォ!!!」
その姿はまるで魔界の怪物。
見るだけで身の毛がよだつほどの恐ろしい姿だ。
大きな雄たけびを上げながら、人々を恐怖に陥れている。
これが地球の最後の日となってしまうのか。
「うわっ!」
バタン!
サラリーマンらしきスーツを着た男が、つまずいて倒れてしまった。
「あ、足が……!」
どうやら足を痛めてしまい、うまく立ち上がることができないようだ。
必死に這いつくばって怪物から逃げようとするが、距離はどんどん縮まっていく。
「……やだ、死にたくない……!」
怪物はゆっくり、ゆっくりと男に近づき、ついに目の前まで迫る。
男は目をつぶり、自分の死を覚悟した。
「誰か……助けてくれ……」
もはや叫ぶほどの気力が残っていないのか、そうやって呟くことしかできない。
この静かな叫びは誰にも届かないのか。
————すべてを諦めかけたそのとき
「そこまでだ!」
どこからか、力強い声が聞こえた。
怪物は動きを止め、その声のする方に意識を傾ける。
男も同じ方向を見てみると、力強い声の持ち主は、ビルの屋上に仁王立ちで怪物を見下ろしていた。
「醜い化け物め! 悪事はそこまでだ! そこの紳士! 私が来たからにはもう大丈夫!」
ぴっちりと身を包んだパワードスーツ。遠くからでも分かるほどの屈強な肉体。背中にはマントをなびかせている。
まさしく「ヒーロー」と言うにふさわしい風貌だ。でも、風貌だけではない。
その男から発せられる力強い言葉は、まるで助かることが保証されたかのような安心感を抱かせてくれる。
「とう!」
ヒーローは勢いよくビルから飛び降り、怪物めがけて一直線に向かっていく。
怪物はすでに防御の態勢に入っていた。
怪物の表面は、どんなものよりも硬そうで、何をしても壊れなさそうである。
しかし、そのヒーローにとっては、
「ふん!」
拳から怪物の身体を貫き、障子の紙を破るかのようにあっさりと倒してしまった。
「ブオォォォォォ!」
ドカン!
怪物は断末魔の叫びを上げながら、爆発とともに完全に消滅してしまった。
一部始終を見ていた男は、安堵の息をつく。
「そこの紳士。大丈夫ですか?」
何事もなかったかのように、ヒーローが男に話しかける。
「はい! おかげで助かりました……。なんとお礼をしたらよいのか……」
男は感謝の気持ちをなんとか形にしたいようだが、ヒーローは子供のようにニコッと笑って、
「感謝なんて必要ありません。私は私のできることをただやっただけです。地球の平和は私が守ってみせます。それが私の使命です」
そして、ヒーローは再び力強い声でこう言った。
「だって私は、スーパーヒーローなのだから!」
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