竜と魔法使いと名探偵

~勇者になりたかった占い師と人を生き返らせたい死霊術師な名探偵の魔術事件簿~
安藤啓太
安藤啓太

21. 疑念(四日目昼)

公開日時: 2022年2月7日(月) 06:00
文字数:2,005

◆◆ローラン


 話し合いの後、クレアを大会議室に呼んだ。


「話って何かな」

「最近、レオナに何か不自然なところってなったか?」


 クレアは驚いた顔をしていた。そして、悲しそうな顔でもあった。俺がレオナを疑っている事が分かったのだろう。

 回答はすぐに返ってきた。


「特に変なところは無かったよ」

「レオナを庇ってるんならやめろよ」

「庇ってなんか無いよ」


 クレアは瞳を伏せ、自分の腕を抱きしめるようにしていた。 

 きっと不安なんだ。


「......『精霊』が憑くと思考も人格も変わってしまう。『精霊憑き』を疑う事は、本来のその人を疑う事とは違う」

「本当に、庇ってなんかないよ」


 本当だろうか? 

 何度も疑ってもキリが無いか。


「昨日も一緒にご飯を食べたんだけど、いつも通りだったよ」

「<御守>の事は何か言ってたか?」

「言ってなかったよ。<檻>の話はしたけど」

「トレイシーさんのことは?」

「......しなかったよ」


 その質問でクレアは俺が何を考えているのか大体わかったのだろう。


「......レオナにはトレイシーさんと交換することを言ったんだね」

「ああ」


 クレアは俺の手を握った。


「昨日のは、ローランのせいじゃないよ」


 その手は優しくて、冷たかった。

 クレアも苦しいのに、優しい言葉を掛けてくれたのだろう。

 最近はこんなことばかりだ。


 クレアが不安そうだとか、レオナを庇ってるとか言ったけど、不安なのも、レオナを疑いたくないのも俺だった。

 トレイシーさんのことで罪悪感に囚われて、周りが見えなくなってたのかもしれない。

 こんな風にクレアを問い詰めたりして。


 クレアのおかげで少しだけ力が抜けて、余裕を取り戻すことが出来た。

 

「ありがとう。でも大丈夫だ」


 これ以上甘えちゃいけない気がして、手を解いてポケットに入れた。


「わかった。レオナは『精霊憑き』じゃない。けど怪しいのは間違いないから、念のためレオナに<御守>を盗られたりしないようにな」

「うん」


 レオナは『精霊憑き』じゃない、と仮定する。すると、他にも怪しい人物がいる。


「......ジェフリーが全員の前で<御守>を手放しただろ。不自然じゃないか?」

「どういうこと?」


「『狂信者』か『精霊憑き』じゃないかってことだよ」


 生存者は九人。一方、<御守>は初めから一枚不足していて、誰かが一人殺害されるたびに一枚破壊されているから八枚だけど、『狂信者』は自分の<御守>を破壊するから、七枚。一応『人間』側としては余裕がある。


「何もしなければ、ほとんどの人が生き延びられる。なんでわざわざ積極的な行動に出なきゃいけないんだ? 『試練を超える者はただ一人』というメッセージを信じるなら、生き残るのはただ一人。つまり、『狂信者』ってのは自殺志願者だ。『精霊憑き』に自分が『狂信者』だということを伝えて、殺してほしいはずだ。

 ジェフリーは『精霊憑き』に分かるように<御守>を手放したんじゃないか?」


「ジェフリーさんは自殺志願者なんかじゃないよ! それに、ジェフリーさんの<御守>で助かったのはローランじゃない」

「壊れた<御守>を渡されたんだろう。自分は<御守>を自ら差し出したと宣伝して『人間』の信頼を得つつ、俺が<御守>を持ってないことが分かる状態にした。しかも、『精霊憑き』が誰か分からないままで」


「そんな......」

 『精霊憑き』にとってかなりのメリットがある作戦だと思う。

 クレアも、説得力を感じたのか思案顔だ。だが、感情が理性に対向している、そんな表情だった。


「精神汚染には、ジェフリーさんだって勝てない。それに、アンドウ殺しの時、あの<扉>の禍々しい気配に誰も気が付かなかっただろ。妙だと思わないか? 俺は......あの夜だけは<扉>が出現せず、術者本人が手を下したんだと思う」

「そんな......そう......そうかもしれない」

「知ってるだろ? アンドウは強い。真っ向勝負で、周りに悟られないようにアンドウを殺せるような戦闘能力を持っているのは誰だ? ジェフリーくらいじゃないか?」


 ジェフリーは<精霊術>が使えない、という証明も出来ない。

 それに、レオナはジェフリ―を信頼している。騙すのも簡単だろう。


 この推測が正しければ、今夜、俺は殺されるかもしれない。

 だが上手くやれば、『精霊』を破壊できるかもしれない。

 もし俺が死んでも、情報は残る。


「ジェフリーを調べてみる。もし今夜俺が死んだら、ジェフリーは敵だ」

「死んだらって、そんな縁起でもない事言わないでよ!......そうだ。私の<御守>と交換しよう!」

「だめだ」


 クレアはまだ感情の整理がついていないみたいだ

 大会議室に飾られた勇者の絵画。天を切り裂く光。一緒に劇を見に行った思い出。


 クレアだけは危険に晒したくない。

 

「アンドウの仇を討つ。後は頼んだ」


 踵を返すと、クレアは俺の手を掴んだ。


「離してくれ!」

「交換しよ!」

「だめだ! 絶対に<御守>を手放すな」


 俺はクレアに背を向けて走り出した。

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