休憩時間、飲み物を買い足しに行くことになった。
「面白かったねー!」
「凄かったな! 光の演出とか!」
「だよねー! はじめっからキラキラして凄かったけど、決闘のシーンなんか二人の動きに完全にシンクロしてもんね」
「ほんと興奮した。フローキかっこいいな!」
「あの俳優さんのファンになったかも。あと、『勝負だ』ね。名シーンだよ!」
「うん。あと『お前が必要なのだ』でウルっと来た」
「私も。熱いよね」
「目。赤いよ」
「うそっ」
希望に満ちた世界、精霊たちの祝福、そして主人公たちの胸の内を美しく壮大に演出していた。期待以上に面白く、絶え間なく感想を言い合っていた。
「やっぱり、俳優さんたち、騎士団出身みたいだせ」
「そうなんだ。剣術、すごい上手いなーって思ってたんだよね」
「結局、対人戦の戦いって面白いよな」
「あんまり私、剣闘士の戦いって見たことないんだよね」
親の教育方針だろうか。
「じゃあ、今度一緒に行こうか」
「うん、行こう!」
やったぜ。
次回の約束を取り付けたところで、第三幕が始まった。
◆◆
第三幕。アルフレッドは騎士団の中で順調に出世を重ね、大隊長となった。フローキはA級探索者として、一カ所にとどまらず、時には数ヶ月外で探索活動をしていた。
あるとき、王宮の巫女、大災害が来ることを予言した。
巫女とは、現在も代々王城に住み、巨竜種が現れる前に予言する存在だ。≪巫女≫の≪役割≫は一家相伝であり、魔術が薄めないために時に予言の才能のある者の血を混ぜる。巫女の家系は、この国が興った当初から国を守ってきた。
「水竜が目を覚まし、大いなる災いをもたらだろう。力ある者を集め、湖を割りなさい」
また、探索者の一部から目撃情報が入る。
「湖が暴れてるんだ! たしかに見たんだ!」
調査の結果、本当に湖が動いていた。いや、都市を丸ごと飲み込むような巨大な竜種だった。山の頂きに溜まっている巨大な湖は、眠っていた水竜だったのだ。
騎士団は予言を受け、討伐戦の準備を進めていたが、アルフレッドは言った。
「ここに揃っているのは千人力の騎士達だ。力強い味方達だ。だが、足らぬ。かの強大な敵を討ち滅ぼすには、もう一人必要だ」
大隊長アルフレッドの命をうけ、一人の探索者が戦列に加わった。それは、腰に二振りの魔剣をさす探索者だった。
「私は風だ。誰が私を呼ぼうとも、風は自らが吹く場所は自分で決める。だがアルフレッド、お前だけだ。風が呼びかけに応えるのはお前だけだ」
こうして準備は整い、戦いが始まった。
だが、まともな戦いとはならなかった。
天に伸びる巨大な首と川のような尾を持つ巨大竜は、堅く、力強く、そして無限ともいえる魔力と嵐の魔術で騎士団を圧倒した。
力なき者は巨大竜に傷一つ付けることも出来ず、倒れていった。巨大竜に傷を付けられたのは、フローキとアルフレッドだけだった。
フローキは言った。
「アルフレッドよ。お前が奴を貫くのだ」
「それでは戦線が総崩れになる」
「このままでは味方が倒れていくばかりだ。攻めねばならん。それが出来るのは、お前の『光の神槍』だけなのだ」
アルフレッドは味方をかばうため防御に専念していた。それを、攻撃に回れ、というのだ。
「なに。ここはフローキに任せよ。他の騎士達と、そしてお前の宿敵を信じるのだ」
「分かった。ならば私は、私は、山を割る一本の槍となろう」
『槍の勇者』アルフレッドは駆け出した。手には煌々と輝く『光の神槍』。
残された騎士団は、さらに過酷な戦いを続けていた。だが、これまでアルフレッドが受けていた魔術は、すべてフローキが受けていた。
「フローキ殿、魔力が足りなくなるぞ」
「知ったことか! 私は風だ! 無限に吹きすさぶ風なのだ!」
「魔力が無くなれば、人は消えてしまう!」
「その前に、アルフレッドが巨大竜を討ち滅ぼす!」
轟々と唸る風の中心で、アルフレッドが舞う。誰も見たことの無いほどの魔力を発しながら。
魔素は万物の構成要素。人を形作る魔力を使えば、人は風にもなり得る。命を燃やす風は嵐を切り裂き、被害を押しとどめた。
フローキの命が尽きかけようというとき、山が爆ぜ、轟音とともに極大の光が地平線の彼方へと走り抜けた。
『光の神槍』が真の姿を表したのだ。それは、不屈と断罪の光がこの世界に顕現した姿だった。
巨大竜の鼻先から尾までを一直線に貫き、その後、光は向きを変えて空に抜けていった。真っ二つになった巨大竜が、傾き、倒れてゆく。
膨大な魔力を投じたアルフレッドもまた、魔力切れ寸前まで力を振り絞り、気を失っていた。
こうして、アルフレッドとフローキの力によって、脅威は去った。
物語は、一命をとりとめたアルフレッド、フローキを称えるパレードで締めくくられる。アルフレッドは『槍の勇者』としての栄光を不滅のものにし、フローキは『S級探索者』に昇級、二人は偉大な戦士として後世にその名を残すことになるのであった。
◆◆
「ふう......」
「ふう......」
俺たちは余韻に浸っていた。露店で適当につまむ物を買い、なんとなく感想を話すが、すぐにいっぱいいっぱいになり、ため息を吐くだけの時間が多かった。
素晴らしい物語だった......。
「やっぱり、沢山冒険したい」
「そうだな。行かなきゃな」
辛いことも沢山あるだろう。それでも、憧れには勝てない。挑戦せずにはいられない。
「探索隊に入る前に、まずは騎士団に入団しなきゃだもんね。頑張らないと!」
「ああ。もしダメでも、俺たち『道化劇団』でS級になろう」
「入団できなかったらね。でも、弱気はダメだよ!」
心配性なんだから、とクレアが言い、俺たちは笑った。
一回りも二回りも成長した俺たちが、竜種と戦い、この世界の果てまで探索し尽くす。そんな未来を思い描いていた。
その夜に見た夢は毛色が違った。
どこまでも広がる荒野と、空を覆う大きな竜種、そして、長い白髪を靡かせる男性の後ろ姿。彼はたった一人で竜種と対峙していた。背後には沢山の人がいる。彼らを守らなければならない。
魔力が高まり、持っていた直剣が変形、いや、巨大化し、白髪の剣士は駆けだした。
その力強さと包まれるような大きな気配に、心が安らいだ。
『建国の騎士』の一人、初代ヒルベルトの影だろうか。
彼に任せておけば、きっと安心だ。
そう思わせる背中だった。
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