竜と魔法使いと名探偵

~勇者になりたかった占い師と人を生き返らせたい死霊術師な名探偵の魔術事件簿~
安藤啓太
安藤啓太

エピローグ/プロローグ

公開日時: 2022年9月26日(月) 06:00
文字数:1,019

◆◆エピローグ


 俺たち三人は何とかフルトゥームに生還することができた。

 

 あの一連の事件の始まりの日、フルトゥームにも竜種が訪れて街は騒然となっていたという。


 ダニーさんは入院し、一命は取り留めたものの、利き腕を失った彼は騎士としては活躍できず、その後教官として活躍した。

 アンナは大きな怪我は無かったため、数日の休養ののち、探偵業に戻った。


 俺はと言えば、騎士のテストは合格したが、辞退した。

 俺には騎士になる資格はない。

 代わりに探索者を続けることにした。剣を振るっていれば悲しみが幾らか紛れた。


 あれから何年経っただろう。

 

 『精霊』の影響で保有魔力と身体能力が上昇した。闘争本能も強くなったと思う。そのおかげで随分と強くなった。

 『風の剣士』のように一人で旅をし、色んなものを見て、沢山の冒険をした。年に一度、あの事件の犠牲者の墓に手を合わせる他は、街に戻る事もほとんどなくなった。


 気付けば ≪占い師≫ ではなく ≪魔剣使い≫ になっていた。


 髪が伸び、背が伸びた。


 何体もの竜種を討伐した。

 いくつもの村を救った。

 しかしどれだけ冒険をしても、どれだけ名声を得ても、俺の心は晴れなかった。

 

 いつもあの事件を思い出す。

 どうすれば良かったのだろう、と考える。

 そのたびに剣を振るった。


 功績が積み重なり、いつしか俺の二つ名は国中の人が知るようになっていた。

「巫女の予言によれば、近いうちに巨竜種が現れる。『無いものねだり』、S級冒険者たる貴様に討伐を依頼したい」

「わかった」


 無いものねだり、か。

 まったく、お似合いの名前だ。


「......? 何か言ったかね」

「いえ、なんでも」


 それじゃあ、次の冒険だ。

 夢の続きを見に行こう。


◆◆もう一つのプロローグ

 

 夢を見ていた。 

 

 いつもの安宿の二人部屋。アンドウの寝息が聞こえる。

 月の光も届かない暗い夜だった。


 ついさっきまで見ていた夢を想う。


 体は勝手に動いて、その傍で意思だけが浮かんで、動き回る自分をただ見ているだけ、そんな奇妙な夢だった。


 みんな化け物に殺されて、どれだけ手を伸ばしても届かなかった。

 アンドウが死に、

 レオナが死に、

 クレアが死んだ。

 俺はそれを、ただ見ていた。


 全てが終わった時、霧が晴れ、

 満天の星空の下に立っていた。


 たかが夢のはずなのに。

 それなのに、涙が止まらなかった。

 

 詳細はほとんど忘れてしまった。

 それでも、酷い悲しみと、星々の瞬きだけが胸に残っていた。


 二度と忘れないように。 

 二度と間違わないように。

  

 その感情を深く深く、魂に刻みこんだ。

第三話 「蠅の王」 完

第四話 「変身」 に続く


四話は平行世界であり、解決編に相当します。

公開開始は半年ほど先になる予定です。その時またお会いできれば幸いです。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

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