◆◆エピローグ
俺たち三人は何とかフルトゥームに生還することができた。
あの一連の事件の始まりの日、フルトゥームにも竜種が訪れて街は騒然となっていたという。
ダニーさんは入院し、一命は取り留めたものの、利き腕を失った彼は騎士としては活躍できず、その後教官として活躍した。
アンナは大きな怪我は無かったため、数日の休養ののち、探偵業に戻った。
俺はと言えば、騎士のテストは合格したが、辞退した。
俺には騎士になる資格はない。
代わりに探索者を続けることにした。剣を振るっていれば悲しみが幾らか紛れた。
あれから何年経っただろう。
『精霊』の影響で保有魔力と身体能力が上昇した。闘争本能も強くなったと思う。そのおかげで随分と強くなった。
『風の剣士』のように一人で旅をし、色んなものを見て、沢山の冒険をした。年に一度、あの事件の犠牲者の墓に手を合わせる他は、街に戻る事もほとんどなくなった。
気付けば ≪占い師≫ ではなく ≪魔剣使い≫ になっていた。
髪が伸び、背が伸びた。
何体もの竜種を討伐した。
いくつもの村を救った。
しかしどれだけ冒険をしても、どれだけ名声を得ても、俺の心は晴れなかった。
いつもあの事件を思い出す。
どうすれば良かったのだろう、と考える。
そのたびに剣を振るった。
功績が積み重なり、いつしか俺の二つ名は国中の人が知るようになっていた。
「巫女の予言によれば、近いうちに巨竜種が現れる。『無いものねだり』、S級冒険者たる貴様に討伐を依頼したい」
「わかった」
無いものねだり、か。
まったく、お似合いの名前だ。
「......? 何か言ったかね」
「いえ、なんでも」
それじゃあ、次の冒険だ。
夢の続きを見に行こう。
◆◆もう一つのプロローグ
夢を見ていた。
いつもの安宿の二人部屋。アンドウの寝息が聞こえる。
月の光も届かない暗い夜だった。
ついさっきまで見ていた夢を想う。
体は勝手に動いて、その傍で意思だけが浮かんで、動き回る自分をただ見ているだけ、そんな奇妙な夢だった。
みんな化け物に殺されて、どれだけ手を伸ばしても届かなかった。
アンドウが死に、
レオナが死に、
クレアが死んだ。
俺はそれを、ただ見ていた。
全てが終わった時、霧が晴れ、
満天の星空の下に立っていた。
たかが夢のはずなのに。
それなのに、涙が止まらなかった。
詳細はほとんど忘れてしまった。
それでも、酷い悲しみと、星々の瞬きだけが胸に残っていた。
二度と忘れないように。
二度と間違わないように。
その感情を深く深く、魂に刻みこんだ。
第三話 「蠅の王」 完
第四話 「変身」 に続く
四話は平行世界であり、解決編に相当します。
公開開始は半年ほど先になる予定です。その時またお会いできれば幸いです。
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